眠気も吹っとぶ帰り途だった。 「選評」原稿を書いて、夜が明けた。文芸雑誌が主催する新人賞の選考会が催されたのは昨年末だった。今日はその報告文の〆切である。 難行ではない。候補作についての記憶は消えておらず、この間おりに触れて思い返しては自分の感想を反芻点検してきた。考えはしだいに凝縮され、言葉として姿を現してきてもいた。あとは編集部から指示された文字数に整序するだけのことだ。だったらもっと早く、前倒しに仕事を片づけてはどうか。もっともではあるが、文章を書くには潮時というものがある。固形物を造るというよりは、ライブステージを務めるというに似ている。 教員時代にはしばしば「講義というものはライブだ…