*「おいしい」の美学 人間の感性という領域を扱う哲学である美学において食事をして「おいしい」と感じる感性は従来周縁的なものに位置付けられていました。そもそも近代哲学において味覚や嗅覚、または触覚という感覚は「低級感覚」と呼ばれ「高級感覚」とされた視覚や聴覚に対して「劣るもの」だと考えられてきました。 ここでいう「高級/低級」の対比は「遠位/近位」の対比とも言い換えられます。すなわち、我々の身体から遠く離れた広範な情報を得ることができる視覚や聴覚に比べて、味覚や嗅覚、または触覚は身体的な接触を基本とします。 この遠近の問題はさらに敷衍され、高級感覚が精神的な次元にかかわることができるのに対して、…