明治四十四年二月二十三日、上野動物園に一頭のカバがやって来た。 日本に於けるカバの展示の第一である。 たちまち人気が沸騰した。 (Wikipediaより、カバ) この珍妙な、さりとてどこか愛嬌のあり憎めない外貌(みかけ)を求めて連日客が殺到し、獣舎をぐるりと取り囲み、まるで黒山のようだったという。 今で云うパンダに等しい持て囃されっぷりだろう。 そうした風潮を反映してか、黒川園長も事あるごとに、この偶蹄目にまつわる話を発表している。 就中、私の興味を刺激したのは、「河馬の旅行」なる一節だった。 ある条件が揃った場合、彼らは民族大移動を起すというのだ。 河馬と云ふ動物は其常に棲んで居る河の水が浅…