御所へ帰った命婦は、 まだ宵のままで御寝室へはいっておいでにならない帝を気の毒に思った。 中庭の秋の花の盛りなのを愛していらっしゃるふうをあそばして 凡庸でない女房四、五人をおそばに置いて話をしておいでになるのであった。 このごろ始終帝の御覧になるものは、 玄宗《げんそう》皇帝と楊貴妃《ようきひ》の恋を題材にした 白楽天の長恨歌《ちょうごんか》を、 亭子院《ていしいん》が絵にあそばして、 伊勢や貫之に歌を お詠ませになった巻き物で、 そのほか日本文学でも、支那《しな》のでも、 愛人に別れた人の悲しみが歌われたものばかりを 帝はお読みになった。 帝は命婦にこまごまと 大納言家の様子をお聞きになっ…