しばらくして頼朝は静かにいった。 「そもそも頼朝は勅勘の身、罪人にござる。 これの許しなくして、いかにして謀叛が起せましょうか」 「そのことならば、いとも、たやすい、わしが京に上り御辺の許しを頂いてこよう」 「御坊も勅勘の身でござるぞ、その身で他人の咎の許しを貰おうとは、 些《いさ》さか笑止、そなたの言葉は信用できぬ」 と嘲笑《あざわら》うと、文覚は急に不機嫌になった。 「わしの身を願いに行くのならそれは間違っていよう、じゃが御辺のことじゃ、 何んでわしが遠慮いたそうか。御辺は笑うが、笑うのは間違いじゃ。 わしは福原の新都に上る、三日以上はかかるまい、院宣を頂くに一日は要る、 もどるまで八日も…