夜は白々と明けた。静かな暁である。 定められた六時、勢揃いした源氏は天にもとどけと鬨《とき》の声を三度あげた。 東国武士の野性をおびた声が朝の空気をふるわせた。 平家の陣は死んだように静まりかえって物音一つない。 敵の策かとしばし様子をうかがったが、やがて偵察の侍が放たれた。 「人みな逃げ落ちています」 と呆《あき》れ顔で報告すれば、やがて敵の忘れた鎧を手にして戻るもの、 平家の大幕をかついで帰るもの、いずれも口を揃えていうのである。 「平家の陣には蠅一匹飛んでおりませぬ」 これを聞くと、頼朝はさっと馬から降りた。 兜をぬぎ、手水《ちょうず》うがいをして身を浄めると、京都の方を伏し拝んだ。 「…