この小説のメイン・テーマは、釈尊が弟子に語った訓話集『発句経』の「怨みごころは怨みを捨てることによってのみ消ゆる」という一節だと思う。興福寺の悪僧(僧兵)に身を落とした範長(はんちょう)が、様々な戦いと行動・葛藤を経てこの釈尊のメッセージを体得するに至るプロセスを描くことにあると受け止めた。 そして、サブ・テーマは、兵火で焼亡し、興福寺が再興されるまでのプロセスを描くことにある。治承4年(1181)12月28日、大将軍平重衡が率いる平家軍による南都焼討事件が発生する。これにより東大寺・興福寺をはじめ南都諸寺が灰燼に帰した。 この年の末に興福寺の別当職を継いだ信円が筆頭に立ち、焼亡した興福寺の復…