おーい、山よ、さようなら。ヤッホー、又来るからね。 そう叫んでしまった。周りに人がいても、恥ずかしくもない。体の中からエネルギーが湧いてきた、それに従っただけだった。それは山頂からヤッホーと叫ぶ無邪気な幼童のようだった。秋の高い空にそんな声は吸い込まれてしまった。やまびこもなく、それを期待したのだったら肩すかし。大きな風景は一服の絵画で微動だにしなかった。ただ、そう呼びかけたかっただけだった。 この先に登山道は大きく高度を下げていく。高い空の下に王者のごとく君臨する山頂を見るのはここが最後の場所だろう。そこから北に伸びる尾根道では振り返っても前衛のピークに隠されてしまう。しかし山頂が作る影が北…