四十人の楽人が吹き立てた楽音に誘われて吹く松の風は ほんとうの深山《みやま》おろしのようであった。 いろいろの秋の紅葉《もみじ》の散りかう中へ 青海波の舞い手が歩み出た時には、 これ以上の美は地上にないであろうと見えた。 挿《かざ》しにした紅葉が風のために葉数の少なくなったのを見て、 左大将がそばへ寄って庭前の菊を折ってさし変えた。 【第7帖 紅葉賀🍁】 楽人は殿上役人からも地下《じげ》からも すぐれた技倆を認められている人たちだけが 選り整えられたのである。 参議が二人、それから左衛門督《さえもんのかみ》、 右衛門督が左右の楽を監督した。 舞い手はめいめい今日まで良師を選んでした稽古《けいこ…