私たちの日常には、物理的にも比喩的にもさまざまな「壁」が存在します。部屋と部屋を隔てる壁、国境を守る壁、人と人の間に立ちはだかる心の壁——。一見するとただの障壁に見えるかもしれませんが、壁という存在は、歴史をひもとく上でも、また人間社会の成り立ちを理解するうえでも、非常に興味深いものなのです。 1.歴史に刻まれた「壁」 最も有名な壁の一つとして挙げられるのが、「万里の長城」でしょう。中国の古代王朝が北方からの侵入を防ぐために築いたこの巨大な壁は、全長2万キロメートル以上に及ぶと言われています。軍事的な役割だけでなく、文化の交差点としても機能し、交易の監視や文化の境界を示す役目も果たしていました…