三島由紀夫の遺作、「豊饒の海」4部作の最終作に当たる。これを書き終わった直後に三島は市ヶ谷で檄文を読み上げ、割腹自殺している。 ラストが衝撃的。「春の雪」を読んだ人にはぜひここまで読んで欲しいものである。 タイトルは仏教用語による。この用語は小説内でも言及されている。
仏教用語。 六道の最高位である天道の住人は天人と呼ばれ、人道の住人である人間に比べて全てにおいて優れ非常に長寿であるが、それでも生物としての限界は超えられずいずれ死を迎える。その死の前兆を天人五衰と言う。 天人五衰は経典によって多少の違いはあるものの、大槃涅槃経によれば、1衣裳垢膩(衣服が垢で油染みる)、2頭上華萎(頭上の華鬘が萎える)、3身体臭穢(体が薄汚れて臭くなる)、4脇下汗出(脇の下から汗が流れ出る)、5下楽本座(自分の席に戻るのを嫌がる)の五つとされている。
世の中には三島由紀夫の小説『天人五衰』のラストが理解できない人がいる。だから僕がそれをここで解説する。 まず、門跡の聡子が嘘をついていたり、記憶を忘れていたりすると思ってる読者がいるが、これはまったくの誤解である。それは聡子の外見からわかる。門跡は美しさだけでなく、犯しがたい神聖さと威をそなえたものなのだ。そこに瑕疵などありえない。 老いが衰えの方向ではなく、浄化の方向へ一途に走って、つややかな肌が静かに照るようで、目の美しさもいよいよ澄み、蒼古なほど内に耀うものがあって、全体に、みごとな玉のような老いが結晶していた。半透明でありながら冷たく、硬質でありながら円やかで、唇もなお潤うている。もち…
豊饒の海(四)天人五衰三島由紀夫新潮文庫昭和52年11月30日発行平成15年4月25日36刷解版平成15年9月30日37刷(この作品は昭和46年2月新潮社より刊行された) 豊饒の海、最終章の第四巻。本多は、76歳になっている。19歳から始まって、76歳まで、、。三島由紀夫は、最初からこういう構想で書き始めたのだろうか???ガルシア・マルケスの『百年の孤独』よりは短いけれど、、なんて長いストーリー。 裏表紙の説明には、「妻を亡くした老残の本多繁邦は清水港に赴き、そこで帝国信号通信社に勤める16歳の少年安永徹に出会った。彼の左の脇腹には、三つのほくろが昴の星のようにはっきりと象嵌されていた。転生の…
アマゾンで販売中の商品が購入されると、発送を促すメールが出品者宛に送られてきます。『さみしい霊魂―作家論ノート』(田中美代子著) に買い手が付きました。発送をしてください・・・と云った内容です。 殆ど記憶になかった書籍だし、タイトルにある「霊魂」という言葉から「えっ? スピリチュアル」系の書籍・・・とか思いながら書棚よりピックアップ。帯には下記の惹句が・・・。 著者は三島由紀夫と懇意だった評論家、装丁は横尾忠則でありました。田中美代子は、三島由紀夫の作品解説や評論を多く手がけ、特に新潮文庫版『獅子の戯れ』や『午後の曳航』、『天人五衰』などの解説を執筆。また、講談社版『三島由紀夫短篇全集』全6巻…
NHKニュースより 衆議院選は事前の予想以上の自民、公明党の惨敗に終わった。立憲民主党の伸びは予想どおりだが、目立ったのが国民民主党の急進。一桁からいきなり28議席というのは驚き。 比例区では名簿の候補者が足りず3人損したらしいので本当は31人になるようだ。その分維新が1議席儲けたようなので、本来は維新37人、国民31人か。こちらの方が実態に近いのだろう。 左派のれいわが9議席確保したのに、対極の保守系の参政党や日本保守党が3議席ずつというのは少し淋しい。各10議席くらいあると、左右のバランスが良くなったと思うのだが。正直両党とも少しうさん臭いところがあるので、自民保守層の受け皿にはならなかっ…
久しぶりに再会した旧友と禁書庫にある資料を探しに行くまでの話。 「『仮面の告白』はやっぱり重要だよねえ。今なんてももう五回目読んじゃってるよ。」 (そんなことをしてるから鬱になるんじゃないのか)と言いたくなったのをぐっと堪え、「仮面の告白ね。まあ、あれは……」。自分があの作品にどんな感想を抱いたか追想しながら、何となく会話を返していると、 「あ、読んだ?」 あれ、言ってなかったっけ。そうか、そのころお前は必死に働いてたんだもんな。 「まあ。そっか、そうですか、すん。って感じだったかな。」 俺としては特にオチがあるつもりもなかったのでそこでやめにしたんだが、続きを急かされているような気がして率直…
はじめに 人間の欲望、運命、そして共同体の複雑な関係性。これらのテーマを、幻想的かつ鮮烈に描き出した作品が、中上健次の『千年の愉楽』です。1980年から1982年にかけて「文藝」誌上で連載され、1982年に単行本化されたこの短編集は、日本文学界に新たな風を吹き込みました。 被差別部落を舞台に、特異な血筋を持つ若者たちの運命を描くこの作品は、単なる物語以上の深い洞察と哲学的な問いかけを内包しています。本記事では、『千年の愉楽』の多層的な世界観を解き明かし、そこから学べる人生の真理や社会の在り方について考察します。 『千年の愉楽』の概要と背景 『千年の愉楽』は、和歌山県新宮市の被差別部落「路地」を…
はじめに 文学と視覚芸術の世界では、時として思いもよらない作品同士に類似点が見出されることがあります。今回は、一見すると全く異なるジャンルに属する二つの作品、三島由紀夫の『豊饒の海』とKey作品「Air」の間に存在する驚くべき共通点について探究していきます。 日本文学の巨匠として知られる三島由紀夫の遺作『豊饒の海』と、美少女ゲームブランドKeyが手掛けた「Air」。この二作品は、発表された時代も、対象とする読者層も、そして表現媒体も大きく異なります。しかし、その深層に目を向けると、両作品には興味深い共通点が浮かび上がってきます。 本記事では、これら二つの作品を詳細に分析し、その類似点を明らかに…
はじめに 人生の意味を探求し、存在の本質に迫る壮大な物語。三島由紀夫の最後の長編小説『豊饒の海』は、読者を魅了し続ける不朽の名作です。この作品は、輪廻転生と運命という普遍的なテーマを通じて、人間の存在や生きることの意味を深く掘り下げています。 『豊饒の海』は、『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』の全4巻から成る壮大な物語です。1965年から1971年にかけて『新潮』誌上で連載された本作は、三島由紀夫の文学的集大成とも言える作品です。平安時代の物語『浜松中納言物語』を典拠としながら、仏教思想や神道の概念を巧みに取り入れ、独自の世界観を構築しています。 本記事では、『豊饒の海』の深い象徴性と哲…
今週のお題「好きな小説」 本棚の整理がついていない。もういっぱいなのになんとか隙間をみつけて新しい本をねじ込むから作者も時代もバラバラに乱れていていつもせっせと所望のものを探すはめになる。たぶん縦横で基準を作って整頓したほうがいい。しかしおれはそういうことはできなかった。 そんな雑多な本棚の一角に集まった何冊かの文庫本がある。いちおうすべて小説だが、それとは別に、彼らには共通点がある。なんだか雰囲気に通ずるものがあるのだ。妙な言い方だがこの本棚の角で酒盛りしている感じなのである。 なにが似ているのか考えたことはあまりなかったが気がつけば自然とそこに集まっていた。しいて言うならば豪放、磊落、飄々…
1年前に立川で出会い、2度デートした女性、美幸さん。彼女との記憶は時が経つにつれ薄れていくかと思いきや、その存在は心の中にずっと残っていました。再び会いたい気持ちが膨らみ、思い切ってメールを送ってみることに…。突然のメール、果たして返事は?「こんばんは! 以前、ツヴァイを介して立川や東大駒場でお会いしたことのあるMです🙇♂️ 覚えておりますでしょうか?」 私はドキドキしながら、送信ボタンを押しました。果たして返事は来るのだろうか。胸の中に浮かぶ不安と期待。すると、奇跡的にも美幸さんから返信が…!美幸さんからの返事: 「こんばんは。ご無沙汰しております。コロナはほんと大変ですね…。何かと不安の…
前回に芥川龍之介に続き、今回は三島由紀夫です。 三島由紀夫について 1925年 四谷で生まれる 学習院初等科・中等科に進学し、渋谷・松濤で暮らす ここだけ見ると、「お坊ちゃま?」と思いますね。 その通りです。 父親は高級官僚、母親は高名な学者の娘、山の手育ちの生粋のお坊ちゃまです。 その後三島由紀夫は東京帝大から大蔵省へと進みます。 秀才ですね。 ただし、どうやら貧弱な体格がコンプレックスだったようで、その後ボディビルにのめり込むことになるのです。 16歳で「花盛りの森」が絶賛されました。 ところで、三島由紀夫がノーベル文学賞の候補になっていたことも有名な話です。 1963年の候補者80人の中…
昨日は息まいて俺は仕事でかっこをつけるんだと語っていたが、遅刻しかけた。 自転車で通勤しているのだが、途中でチェーンが外れてしまった。カバーがあるため、自分でつけることができず、徒歩で行くしかなかった。 遅刻確定だと思い、急いで電話して五分ほど遅刻すると伝えた。やや早歩きで進んでいると、自転車屋を奇跡に発見しチェーンを入れてもらった。 もたもたはしていなかったがやたらと丁寧な作業で五分ぐらいかかり、かなりそわそわした。 しかも、500円も取られてしまった。多分、大手のチェーン店だと無料でやってくれるだろう。 とにもかくにもチェーンが繋がり大急ぎで向かうと、なんと幸か不幸か間に合ってしまった。こ…
春先にひいた風邪の後遺症が長引き、鼻詰まりと咳に苦しんでいましたが、8月になってようやく寛解。一安心していたところ、また、風邪の症状が……。 いやはや。 風邪を滅多に引かないことが数少ない取り柄だったのですが、コロナ禍を経て、どうも免疫がおかしくなっている気がします。 とはいえ、今度の風邪は軽いので、家で仕事をする分には問題なさそうです。 さて。今日は洗濯機の話。 潔癖症の私は、おひとり様のくせして、やたらと洗濯機を回します。そのせいで、洗濯機を買い替えるタイミングも、大家族並み。洗濯機の寿命は生物と同じで、心臓の鼓動(回転数)で決まっていますので、(家庭用)洗濯乾燥機の場合、1日一回使用した…
お受験のスタイル 鶴田浩二が ♪古い奴ほど新しい物を欲しがるものでござんす... と歌っていたが、この人達は結局「格差」をつけたがってるのでしょう。下にいる時は平等平等と言いながら。 僕は塾といえばソロバン塾と習字しか行ったことがないので、「小学校受験」やら「塾のはしご」なんて信じ難いものがある。数百万円から数千万円かかるんでしょう。 それでスマホの内部はノーガードってんだから笑っちゃうよね。 三越のライオンの銅像。ハチ公より数が遥かに多い。 獅子(ライオン)は、文殊菩薩の乗り物。持ち物は聖剣。なんで剣なのかわかる? 適塾 蘭学塾 松下政経塾 深代惇郎 ウォーターハウス「エコーとナルキッソス」…
三島由紀夫の『天人五衰』の冒頭、主人公の透少年が働く信号通信社から眺められる景色の描写があります。その建物は移設されているものの、その跡地から眺める海の広がりは圧巻です。以下は三島由紀夫の文章です。「沖の霞が遠い船の姿を幽玄に見せる」 「5月の海のふくらみは、しかしたえずいらいら光の点描を移しており、繊細な突起に充たされている。」 「午後2時、日は薄い雲の繭に身を隠した。白く光る蚕のように。」 「海の色はやや険しい暗い緑になった。そのなかに、東から西へながながと伸びた白い筋がある。巨大な中啓のような形をしている。そこだけ平面が捩れているように見え、捩れていない要に近い部分は、中啓の黒骨の黒っぽ…
※過去の記事を、読みやすくリライトしたものです。 旅行の決意 緊急事態宣言が出てから、スーパーの店内が激混みして、鮮魚部に勤める私としてはかつてないほどの疲労が溜まっていた。連日出勤していたため、昨日から3連休がとれることになった。フラストレーションとストレスは、判断を狂わせるものだ。私は3連休を利用して、三島由紀夫の『暁の寺』『天人五衰』の舞台となった「北口富士浅間神社」「三保の松原」「日本平」を訪れることにした。旅行を通じて心をリフレッシュさせるためだ。旅の始まり 自宅近くのニコニコレンタカーから車を借り、高速道路を使って1時間半で富士山駅に到着。曇り空で富士山は見えなかったが、旅の興奮が…
うへわらは大童子にも劣りたり祇園の御会を待つばかりなり。上童(貴人に仕える少年)の態度は大童子(寺に仕える男)より劣っているまるで祇園会の行列を心待ちにしている心境だ、とこの歌だけを抜き書きしても歌の「意味するところ」は伝わらず不明のままである。「これも今は昔、青蓮院の座主のもとへ、七宮(鳥羽天皇第七皇子覚快法親王)わたらせ給ひたりければ、御つれづれ慰め参らせんとて、若き僧綱(そうがう、高位の僧)、有職(いうそく、已講・内供・阿闍梨)など、庚申(かうしん、その夜に眠ると体から虫が出てその者の罪を天帝に訴え命が縮まる)して遊びけるに、上童のいと憎さげなるが、瓶子(へいし、酒をつぐ道具)取りなどし…