じつに久かたぶりに、芥川龍之介の短篇をいくつか読んだ。 今回は、評価高い『蜜柑』が書かれた直後、大正八(1919)年の作品群だ。初期作品に顕著な、シテヤッタリのお茶目な機知は薄れ、かといって晩年の憂鬱症はまだ発していない時期である。 とはいえ『魔術』『妖婆』などは、オカルト的要素ふんだんで、『古今著聞集』『今昔物語』にあってもおかしくない着想を含んでいる。『蜜柑』とはだいぶ異なる。 志賀直哉が芥川龍之介を語った『沓掛にて』という有名な文章は、『妖婆』を材料にしていた。ご両所の芸術観の対照的相違が明瞭となった感想文だ。 妖術使いの婆さんの虜となっている恋人を、親友とともに取返しにゆく噺だ。いざ決…