じつに久かたぶりで眼にするが、やはりこの色にはいささか心躍る。黒・柿・萌葱の定式幕である。 歌舞伎座や能楽堂は申すまでもなく、新劇の老舗劇団だろうが小劇団による小劇場公演だろうが、寄席だろうが歌舞音曲だろうが、舞台公演というものへ足を運ばなくなって久しい。若い時分(というより青臭い時分)から舞台を観ることに興味を覚え始めたから、もういいかとの思いがあった。加えて、収入の乏しい独居老人となってからは、もう文化を消費する資格も力も私にはないのだと、自分に云い聞かせてきた。 整備されたアスファルト道路を安心して歩けるし、定刻どおりにやって来る鉄道にも乗れる。文明や技術進歩の恩恵には遠慮なく浴す。しか…