宮内悠介

宮内悠介氏の暗号の子を読んだ。本書は短編集だが、表題作に「暗号」という語句がついているのでミステリー的な作品かと思っていたのだが、この暗号は「暗号通貨」という文脈での暗号で、メッセージを他人に分からないように伝える方の暗号ではなかった。収録作品は「暗号の子」、「偽の過去、偽の未来」、「ローパス・フィルター」、「明晰夢」、「すべての記憶を燃やせ」、「最後の共有地」、「行かなかった旅の記録」、「ペイル・ブルー・ドット」の8編。繰り返しになるが、タイトルに暗号とついていて、それは暗号通貨とかブロックチェーンに関してのことで、それに関係している作品が「暗号の子」、「偽の過去、偽の未来」、「最後の共有地…

著者：宮内悠介出版社：文藝春秋 テクノロジーと人との関りを様々なシーンで考察する短編集。 近未来や未来を描くSFというより、既に目の前にある現実を描いていると 言っても良い作品たち。 媒体に合わせる作品作りをしているようだが、 いずれの作品も結局のところ人の繋がりに重点を置いた考察、雰囲気が良い。 表題作と「ローパス・フィルター」が良かったが、 「ペイル・ブルー・ドット」が傑作。 自身も本作品集の中で最も爽やかと言っているが、 希望を抱かせる作品で締めてくれたことで素晴らしい読後感となった。 「最後までクレイジーでいられた人が最終的には勝つ」という言葉にハッとし いつの間にかクレイジーでいる(…

内容（amazonより引用） 1977年、エストニアに生まれたラウリ・クースク。コンピュータ・プログラミングの稀有な才能があった彼は、ソ連のサイバネティクス研究所で活躍することを目指す。だがソ連は崩壊し……。歴史に翻弄された一人の人物を描き出す、かけがえのない物語。 ラウリ・クースクを探して 作者:宮内 悠介 朝日新聞出版 Amazon 感想（ネタバレなし） ソ連崩壊の前から現代に至るまでの時代の流れと、プログラミングに魅入られた一人の半生を丹念に描いた一冊。 プログラミングと聞くと、無機質で人の気持ちが反映しづらく、近寄りがたい印象を受けるかもしれない。しかし、本作の主人公であるラウリがプロ…

スペース金融道 人類が最初に移住に成功した太陽系外の星、通称・二番街、地球からは十七光年離れている。ボクと上司のユーセフは、新星金融の取り立て屋だ。債務者は、人間のほかにアンドロイドやバクテリアや人工生命などがいて、さながら「スターウォーズ」の酒場を初めて見たときのような衝撃を感じた。そうきたか！ユーセフは、非情な取り立て屋で、主人公のボクは、ツイていない感じの部下。宇宙空間での金融道という設定はかなり面白い。それに人間だけではなくアンドロイドがいたりする。インターネットのような空間があるが、人間界のそれとは別に、アンドロイド界のダーク・ウェブがあって、お互いのネットの世界は見えないために、人…

物語の深さと感情的なリアリティがすごい 『ラウリ・クースクを探して』の魅力 あらすじ 宮内悠介の『ラウリ・クースクを探して』は、ソ連時代のエストニアを舞台に、コンピュータプログラミングの才能を持つラウリ・クースクの物語を描いています。彼と彼の魂の親友であるロシア人イヴァンは、政治的な動乱の中で運命に翻弄されます。独立を果たすエストニアの中で、ラウリは自分の居場所を模索し続けます。 テーマ この作品は、友情とアイデンティティ、自由を求める個人の戦いを核としています。ラウリとイヴァンの関係を通じて、政治的な変革が個人の生活にどのように影響を与えるかが描かれています。また、ラウリのコンピュータプログ…

著者：宮内悠介出版社：講談社 様々な分野の13篇の短篇集。 開高健を題材とした「パニック－一九六五年のSNS－」は既読だが面白さを再認識。 その他「ジャンク」「国境の子」「夢・を・殺す」「十九路の地図」が好みで どれも宮内悠介らしさで溢れている。 「国境の子」は読んだことがある気がするけど記録が見つからないので勘違いかな？ 「十九路の地図」は囲碁を題材としただけあって安定の面白さ。 特に「ジャンク」「夢・を・殺す」に関しては身につまされるというか 沁みること沁みること。。 それぞれ心理描写がリアルでいちいち「そうだよねえ」と呟きたくなった。 フィクションぽい作品は特に小川哲さんとの共通点を感じ…

ソ連崩壊前後のエストニアを舞台にした物語『ラウリ・クースクを探して』（宮内悠介著 朝日新聞出版）を読んでみました。時代的にはラウリ誕生の1977年から46歳、現在までになっています。国境をまたいだ激動期に翻弄された若い世代の心情が伝わってきました。 publications.asahi.com コンピューター歴史の一部分、そしてゲームソフトから発展した膨大なソフトの数々の実用化の様相など国際的な小説でした。年寄りでコンピューターの知識は全くといていいほどない私ですが、引き込まれてもしまいました。 東側の人々を日本人である著者が描き切っていて、広い見識に驚きました。直木賞にノミネートされたそうで…