それは、湯気が立ち上る温かいうどんの香りが漂う、 近所の小さなうどん屋さんでのこと。 カウンターの隅のいつもの席に、僕は座っていた。 背中が少し丸まったおばあちゃんはゆっくりと、 厨房から向かって優しく僕に声をかけた。 「おまたせしました。」 「この間、庭でね、ちょっとだけ良いナスが採れたんだ。もしよかったら、お味見にでも。」 そう言って、おばあちゃんは小さな小鉢をカウンターに置いた。 中には、つやつやと紫色に輝く、小さく切られた揚げナスが、 ほんの少しだけ入っていた。 僕は、少し驚いた顔をして、でもすぐににっこりと笑った。 「ありがとうございます。おばあちゃんの畑のナスは美味しいんですよね。…