『近代作家追悼文集成[25]寺田寅彦』(ゆまに書房平成四年)に収める鈴木三重吉「寺田さんの作篇」に、ある日夏目先生のところへ伺うと、先生は「今寺田が帰つたところだがね、僕がアインシュタインの原理といふのは大体どういふことかねと聞いたら、それは話したつて先生には分らないな。と言つたよ」と苦笑されたとあった。 あっけらかんとした人間関係であり、安倍能成が、漱石門下での寺田寅彦の扱いは「お客分格」で、夏目先生は若い者たちの美点と長所とを認められたけれども、寺田さんに対する尊敬は別であったと述べているのはこうしたところにも現れているようだ。 鈴木三重吉は寅彦の人間像について、われわれの周囲の、すべての…