切々とかき口説く薫に、浮舟は何と答えてよいのか何一つ思い浮かびません。それでも、いつまでも黙り続けるのもどうかと思われ、ながらへてあるにもあらぬうつつをばただそのままの夢になしてよ(生き長らえたとはいえ、生きているのか死んでいるのかすらわからないのが今の私です。ですから、これは夢だと思ってくださいまし)と、か細い声で応えました。その態度、薫への柔らかな歌は奥ゆかしく深みがあり、宇治に居た頃よりも大人の女人として一段と美しく成長しているように見えます。そのしっとりとした振る舞い方が、生前の大君の面影と交差し、引きずられ、薫はくらくらとめまいがしそうなほど心が乱れるのでした。思い出でて思ふだにこそ…