皐月賞を制し、無敗の二冠馬として、 僕は東京競馬場の緑のターフに足を踏み入れた。 観客席を埋め尽くす人々の熱気が、 地を伝わって僕の蹄を震わせる。 ざわめきは、まるで遠雷のようだ。 パドックを歩む僕の耳には、騎手の優しい声が届く。 「落ち着いていこうな、相棒」 彼の言葉は、いつも僕の心を穏やかにしてくれる。 けれど、今日はいつもと違う。 僕の胸の奥には、静かなる興奮と、ほんの少しの不安が渦巻いている。 ゲート入りを待つ間、僕は故郷の牧場の風景を思い描いていた。 広大な大地を駆け抜けた幼い日の記憶。 共に過ごした仲間たちのいななき。 優しい母の温もり。それらは、僕の力の源だ。 ゲートが開いた。 …