月と日を掌《てのひら》の中に得たような喜びをして、 入道が源氏を大事がるのはもっともなことである。 おのずから風景の明媚《めいび》な土地に、 林泉の美が巧みに加えられた庭が座敷の周囲にあった。 入り江の水の姿の趣などは 想像力の乏しい画家には描けないであろうと思われた。 須磨の家に比べるとここは非常に明るくて朗らかであった。 座敷の中の設備にも華奢《かしゃ》が尽くされてあった。 生活ぶりは都の大貴族と少しも変わっていないのである。 それよりもまだ派手《はで》なところが見えないでもない。 【源氏物語 13帖 明石(あかし)】 連日のように続く、豪風雨。 源氏一行は眠れぬ日々を過ごしていた。 ある…