第561回 お嬢さん乾杯! 平成元年五月(1989)銀座 並木座 木下恵介監督といえば、『二十四の瞳』や『野菊の如き君なりき』や『喜びも悲しみも幾歳月』などの悲劇や社会派作品が有名で、観客を泣かせるイメージが強い。私は木下監督の可哀そうな映画は何本も観ているが、どれも好みではないのだ。 私が好きな木下作品は『お嬢さん乾杯!』や『破れ太鼓』や『カルメン故郷に帰る』や『春の夢』などのユーモア溢れる温かい喜劇である。『春の夢』はおそらく同じ松竹の山田洋次監督『男はつらいよ寅次郎春の夢』のタイトルに使われたのだろう。内容は違うが。 木下コメディで私が特に大好きなのが、終戦後間もない時期に作られた『お嬢…