六波羅はもう夕《ゆうべ》の灯だった。 彼の姿を見ると、右馬介はすぐ侍部屋から走り出て迎えたが、 なにか冴えない容子ですぐ告げた。 「若殿。ついにここのご宿所を嗅《か》ぎつけてまいりましたぞ」 「嗅ぎつけて。……誰がだ」 「大晦日《おおつごもり》の小酒屋での」 「あ。あの犬家来どもか。それが」 「探題殿へ訴え出たため、 検断所から何やら御当家へきついお沙汰のようです」 「足利又太郎と知ったのか」 「そこのほどは分りませぬが、 上杉殿には、甥《おい》どのが立帰ったら、 すぐにも旅支度して、東《あずま》へ帰れとの仰せなので」 「伯父上は、奥か。 ——いや旅支度など急がずともよい。 ちょうどおいでなれ…