前々から準備されていたのであろう。 一九三九年九月三日、ネヴィル・チェンバレン首相によって対独宣戦布告が為され、イギリスが戦争に突入すると、さっそく新聞紙面には、 「婚約中の応召者に告ぐ」 などと云う、妙な記事が出現(あらわ)れた。 (これはこれは) たまたま現地に滞在していた日本人が興味を持った。個人主義の国イギリスも、一朝有事ともなれば斯くも私的な領域にまで「指導」の手を伸ばすのか。 (いい土産話になるだろう) 彼の名前は植村益蔵。 救世軍の少将であり、先月中旬から下旬にかけてロンドンにて開かれた、同組織の最高会議に出席するため現地入りした人物だ。 (Wikipediaより、植村益蔵) 任…