熱気こもる藪の中に吹き出す汗の流るるにまかせて寝ていると、 蚊が群がり寄って思う存分血を吸う、虻《あぶ》が刺し、蜂が刺す、 大きな毒蟻《どくあり》が噛み、文覚の五体は、 しばらくすると無慚《むざん》な有様となったが、彼は足の指一つ動かさなかった。 こうして飲まず喰《くら》わず七日間寝ていた。 八日目になると、やおら起きて衣をつけて山を降りた。 毒虫の好餌となってゆがんだ顔で人に尋ねた。 「修行とはこの程度の苦しみなのか」 「いや、そんなことを続けていては、命がいくつあっても持ちますまい」 「これしきのことでか」 といい捨てると再び修行に出かけた。 熊野那智神社に参籠しようとしたが、 まず修行の…