文覚は衣を捨てると、雪を踏み氷を割って滝壺に下り、首まで体を沈めた。 みるみるうちに足の手の感覚が失われてゆく。 文覚の唇から白い息とともに慈救《じく》の呪文が滝音に抗するように唱えられた。 こうして不動明王の呪文十万遍を唱え切ろうというのだが、 二、三日は忍び耐えた。五日目にもなれば知覚は体から殆んど消えた。 やがて失神の文覚が浮びあがると、 数千丈の断崖から落下する滝水の勢いにあっという間に流された。 刃のように切り立った岩と岩の間を水にもまれ流されること五、六町、 流木の如く水にもてあそばれて所詮命はないものかと思われたが、 突然何処より現れたか、美しき童子が忽然として姿を見せると、 文…