万葉集には秋をうたった歌がたくさんある。次の一首もそのひとつ。一年〔ひととせ〕にふたたび行かぬ秋山を情〔こころ〕に飽かず過〔すぐ〕しつるかも 万葉集2218*最初私はこの歌の意味を「一年に一度しか訪れることのない秋の紅葉した山を見ていると飽きることはない、時の経つのも忘れて楽しんだことである」と理解したが、そうではなくて「一年に二度とはめぐって来ない美しい秋山の景色を、満足するまで賞美せずにすごしてしまったことである」(岩波、日本古典文学大系)が正解らしい。奈良県立万葉文化館の「万葉百科」というサイトにも同様の解釈が載っている。「情に飽かず」を「満足するまで賞美せずに」と理解するには古語に関す…