流行 鶴岡 卓哉 僕は、最近、新しく新興スーパーが出来て、廃れてしまっているエース・ストアでバットマンに盗まれそうになった声を体からひとり絞り出した。 「なんのスプレーを買うべきだろうか?」 彼女はスプレーが好きだ。ただ、僕は絶対に買わない(この舞台になっている頃は、オゾン層破壊の物質、フロンガスがスプレーを噴霧するときに出ていた)。僕は地球に優しい男なんだ。 スプレーとひとことに言ってもあまりにも範疇が広すぎるが。「彼女は」とうわずった声で僕が言った。「五本もあれば、充分じゃないかしら」、「と彼女は言った」と僕は言った。 僕はなんの根拠もなく、「十本買っちゃうもんねえ」とおチャラけて言う。今…