小津安二郎監督『秋日和』(松竹、1960)。 小津安二郎映画のなかでも、『秋日和』と『小早川家の秋』は、私にとって格別だ。司葉子さんが東宝から招かれて、出演しているからだ。ほかに理由はない。 娘の縁談に心を砕く父親の心境となれば、いく本もの傑作がある。父親とは長年にわたる親友同士の三島雅夫が驚くべき濃厚な味を出した『晩春』や、同じく父親の親友である中村伸郎が素晴しい『秋刀魚の味』など忘れられない。ついでながら『秋日和』でも、中村伸郎は凄い。 父と息子の関係となれば、戦時中の作品に『父ありき』がある。笠智衆と佐野周二の父子だった。 だが夫に先立たれた妻と一人娘との、濃密で細やかな母娘心理を描いて…