1.水蛭子とは、何者か 2017年夏、私は『詩と思想』の編集委員として詩と思想新人賞の一次選考に参加した。その際、文字通り“度肝を抜かれ”たのが、及川俊哉の「水蛭子(ひるこ)の神に戦を防ぐ為に戻り出でますことを請ひ願ふ詞(ことば)」だった。現代詩のコンクールに“祝詞(のりと)”が出現したのである。及川の一作は、口語自由詩を主体とする大量の詩作品の中でポツンと孤立した、時代錯誤の作品のように思われた。しかし、読み始めて一驚した。イザナギ、イザナミの愛児であるにも関わらず、神として奉られることのなかった「水蛭子」を大神と崇め、あなたが日本を離れている内に(いな、むしろそれゆえに)、私たち日本は戦争…