人気ブログランキング ——およそ足利家の者にとっては、 先々代の主君家時の話というのは禁句だった。 なぜならば、絶対に公表できない原因で、 しかもまだ三十代に、 あえなく自殺した君だからである。 ところが。 ——その家時の血書の“置文”(遺書)というものが、 菩提寺鑁阿寺のふかくに、 家時の霊牌とひとつに封ぜられているということを、 重なる家臣は知っている。 ——で、又太郎高氏が元服報告の日にも。 「——もはや御元服なされた上は、お見せすべきだ」 という臣と。 「——いやまだ時節でない。 もっと若殿が御成人の後ならでは」 という臣と、両者二説にわかれたため、 その折にも、それはついに開かれずに…