「歯科医ほどつまらぬものはない」 暗澹たること、鄙びた地方の墓掘り人足みたいな貌(かお)で、真鍋満太は言っていた。 自分で選び、自分で修めた道ながら、この職業の味気なさはどうだろう。毎晩毎夜、布団にもぐりこむ度に、我と我が身の儚さがここぞとばかりに押し寄せて、いっそ消滅したくなる。――そういう愚痴を、昭和十年前後に於いて、くどくど掻き口説いている。 「何故かと言って、考えてもみろ。俺が虫歯を治療(なお)してやって、大変見事に出来たとしよう。いや、仮定じゃなく、何度も何度もなんべんも、到底義歯とは見分けがつかぬ、生まれながらの歯みたいに、完璧に仕上げてきたんだが。すると患者はお定まりの口上を、 …