ちょっと信じ難いような話だが――。 京の街では昭和三年に至るまで、江戸時代が生きていた。なんと牛車が街中を相も変わらず往行し、その巨体が、体臭が、日々の暮らしの風景に、ごくさりげなく溶けていた。 (昭和初頭の京都駅) 牛車といっても貴人が使う、籠に簾に蒔絵にと、漆を塗られ黒光りする車体を更に装飾して彩った、高級車輛のことでない。 もっと簡素な、米だの酒だのなんだのと、重量のある荷物を運ぶ、輸送車輛の方を指す。 そもそも論を展開すれば、何かにつけて守旧を好む住民の気質も手伝って、京都は他の諸都市に比較(くら)べ、発展の遅れた街だった。 「時流に取り残されている」ということが、いっそ、却って、もう…