シンクロニズム 戦艦の論 5-6 「母さん、おおかみってどうしていつもわるものなの?」





[ポーカーゲームとマネーウォーズ] 製作・監督ジェームズ・キャメロン 方面



 〜 「僕は貧乏人だ、そう言ってくれても平気だよ」 〜

平穏に余生を過ごしていた「ローズおばあちゃん」は、ある日テレビニュースの映像に釘付けとなった。そこに若き日の自分を描いた絵画が映し出されたからだ。さるプロジェクトのリーダーは、連絡を受けるとローズをさっそく海上に呼び寄せた。付き添いのお孫さんへの謝礼や、ヘリのチャーターなどにかかる経費は、ざっと見積もっても数百万円はくだらない。その予算執行に、いささかも躊躇がいらない程の情報をそのおばあちゃんは持っていたのである。


深海に横たわる『タイタニック』探索事業の総バジェットは莫大だ。準備計画から最新技術の採用、優秀なスタッフのリクルーティングに、チームの維持管理運営費用、、。外注先に支払うものまで合わせれば余裕の億円単位だろう、伊達や酔狂で遂行できるレベルではない。研究機関のバックアップやドキュメンタリー番組のタイアップが付いたとしても、収支にさほど貢献はない。それだけの資本を投じても釣り合いがとれるビジネス、それが「碧洋のハート回収ミッション」であった。つまり、その投資額に見合う貨幣交換価値が、巨大ダイヤモンドにはあったのだ。


参考〔1億4千万円で落札 タイタニックのバイオリン〕
http://sankei.jp.msn.com/world/news/131020/erp13102009150002-n1.htm


しかし、ダイヤがあるはずの金庫から出て来たのは泥だらけの紙切れ一枚だった。洗い流すと、魅惑の瞳を向ける、若く肉感的で、もっとも美しかった頃のローズが現れた。チームは老いたヌードモデルを目の前にして、柔らかに起伏する白い胸元に、唯一まとった「それ」のありかが語られるのを、固唾を飲んで見守っている。



話は、ポーカーの大勝負をするジャックのエピソードから始った、、。タイタニックの客室内には、格差社会の縮図のように、金を腐らせている超上流階級もいれば、全財産をはたいて、やっと乗船できた貧しい民もいた。船代も持ちえないジャックは、さらにそれ以下であった。



約三時間。おばあちゃんはタイタニックの中で起こった出来事を、まるで今体験して来たかのように物語った。そこには多種多様な人生があり、立消えた尊い命があった。他人を押しのけて逃げ出す人もいれば、自らを犠牲にして他人を救う者もいた。それを聞いた皆は感動し、涙を流さなかったメンバーはいなかった。ダイヤを売っぱらって、その金を山分けすればしばらく遊んで暮らせる、そう考えていた彼らは自らを反省した。そのような歴史的ドラマの存在に気付かなかったチームリーダーは、ダイヤの代わりに大事なものを得たと一人納得し、その在処の追求を忘れた。



タイタニックがたどった北海航路へ到達する迄に、一度として所持品検査をされなかったおばあちゃんは、人生最後の大仕事として、おもむろに「碧洋のハート」を深海に投げ入れた、眠っているジャックに届くように ___ 。

だれにも語られることなく、どんなにお金に困ろうと手放さなかった巨大宝石は、なんとプロジェクトチームの目の前にあった。「換金できるのに、なぜ海に捨てるんだもったいない」と感じた人は、資本主義経イデオロギーに多少なり毒されている。幸福度合いを、差し当たって数値変換して、他人との優劣を競わせるのがその役割であるけれども、決して万能システムではない。少なくとも人生を幸せにまっとうするのに、かんたんネット査定や、株式の利回り計算や、生涯賃金算出方法なぞ、これっぽっちも必要なく、大切な人との思い出があればそれで十分なのだ。


ジェームズ・キャメロンは私財を投げ売り、配給権利を切り売りして、絶対沈没すると言われた大作プロデュースの賭けに打って出た。そして傍観的な評論家の期待を裏切り、映画を大大ヒットさせた。海に投げた碧い輝きは、キャメロンがマネー至上主義の興行界に対しはきかけたツバだ。たった10セントでBETされた(描かれた)ジャックの絶作はローズの手に戻り、すり抜けた宝石で支払われた対価は、無名作家のものとしては、絵画取引史上最も高額に達したのであった。








花札サマーウォーズ]1  監督 細田 守 方面




 〜 八月二日 上田合戦 始る 〜


 「半端な男はいらない。じゃなきゃ、家族や郷土を守れるものかい」

  陣内 栄 (おおばあちゃん/89歳)








 「言い方がダメ。もっと取引先に言うみたいに言って」
  池沢 佳主馬



 「よぉババァ、まだ生きてたか」
  陣内 侘助



 「そうだお母さん、紅白まんじゅう、、」
  陣内 理香



 「あっ、葬式まんじゅうに代えてもらわないと」
  陣内 万理子



 「まんじゅうの話じゃねぇ、敵討ちだ」
  陣内 万助



 「ミリ波通信用のアンテナモジュール。松本の駐屯地から借用してきた」
  陣内 理一



 「掛金は、あたしの家族よ!!」

  篠原 夏希 (おおばあちゃんの長男の長女「雪子」の娘/18歳)




平穏に余生を過ごしていた「栄おばあちゃん」宅に招かれた数理系高校生「健二」は、ある日テレビニュースの映像に釘付けとなった、目に横棒を入れられた自分の顔写真が映し出されたからだ。原因は、彼のネット上の『アバター』が、政治経済交通娯楽医療宗教科学軍事ほか、人に関わるすべての所業を集中管理するシステムに、不正アクセスしていたことにある。「愉快犯だねこりゃ」と、傍観的な時事解説者はしたり顔で語った。



 「ユカイハンを発見しましたー、タイホだー」
  親戚の悪ガキども



ジャックやコナンや金田やシンジや「青い瞳のキャスバル」のように、鋼鉄の手錠をかけられた健二は、アバター乗っ取りにあっていた。便利過ぎるITプログラムの盲点を突いたのは、大ばあちゃんの養子「侘助」が開発したハッキングAI(人工知能)だ。偽装健二のお陰で、その日から現実システムも大大混乱に陥り、その余波で、持病を抱えた「栄おばあちゃん」はあっけなく亡くなった。しかし、誕生日を祝うために集まっていた親族一同に、悲しんでいる暇はない。


AI「LOVEマシーン」は、ヤマトのエネルギーを食べて成長するガス生命体のごとく、あるいはドズル・ザビの死期に現れた悪の化身のごとく、あるいは覚醒した鉄男が膨張したごとく、あるいはシシ神が姿を変えたデイダラボッチのごとく、あるいは綾波レイを補食した使徒のごとく、巨大かつグロテスクに進化していた。これに立ち向かわなければ、全人類が破滅するのだ。


夏希の本家で始った夏戦争の「落とし前」は、あらゆる方面に、秀でた才能を伸ばし、世界に散って活躍する、陣内家の子、孫、ひ孫に養子に彼氏、婿に嫁に教え子たち、全員の一致協力でつけられた。そして、世間の常識や偏見にとらわれず、個性溢れるひとりひとりの能力を見つけ、愛情をそそぎ、時に厳しく指導し、おぼつかない朝顔の茎をしっかり支え、大輪の花を咲き揃えさせたのが、他ならぬ「栄おばあちゃん」だったのである。



 「私は、あんたたちがいたおかげで、たいへん幸せでした。」

  陣内 栄







花札サマーウォーズ]2  監督 細田 守 方面



 〜 陣内家の中心で愛を叫んだけもの 〜

そもそも「陣」とは、戦闘を指揮する場所を意味し、その防御力と攻撃力を徹底強化した所在は「城」になる。また、城に機動力をプラスした実体、動く城のことを「戦艦」と呼ぶ。今日、防御と攻撃と機動の「戦争三点セット」を仮想実現化するに及び、陣の内(「情報」)のみをもって地球防衛を託された屋敷は、事実上世界の中心になった。


偽装健二が大暴れしているスーパーウォーズの最中も、栄おばあちゃんは、ちゃんと真実の健二と向き合っていた。陣内家直系の子孫である夏希が連れて来た男が「タダものであるわけがない」そう信じ、ふたりで花札をしながら「ある賭け」に出る。弱気でなよなよした健二に「よろしく頼むよ。」と、その遺言を重く受け止めた彼の中で何かが変わる。八月朔日生まれのおばあちゃん最後の手札は、八月の花札 「すすきに満月」(最高得点)。満たされた思いの暗喩であり、獣に変身する合図でもあった。



 「よろしくおねがいしまああああす!」

  小磯 健二



世界中の人々が利用する仮想世界のアバター数は莫大だ。この相当数、億人単位を掌中にした「LOVEマシーン」に対し、陣内家の子孫は無謀にも、たった20人のアバターで挑んだ。支配をすり抜けた命で支払われた花札勝負の掛金は、夏希が勝ち進むにつれ、賭博世界史上最も高額に達したのであった。


ところで、なぜか主要登場人物のアカウントは、ウサギやシカやリスの獣耳をつけた偽装人間形態をしている。そして、その伝統は細田監督次回作にも継承された。







[ウルフ・オブ・レイニー・デイ] 監督 細田 守 方面




 〜 ある一匹の狼は、人に偽装し人に恋をした。 〜


いつか語られる『おおかみこどもの雨と雪』へ、つづく















にほんブログ村 アニメブログへ
にほんブログ村