アイディアを生み出す組織「IDEO」
前回の「アイディアを生み出す方法」に続き、今回はアイディアを生み出す「組織」。世界トップクラスの「発想する会社」で、カリフォルニア州パロアルトに本拠を置くデザインコンサルIDEO。ビジネススクールでも、innovation や革新製品を生み出す組織論などで取り上げられる代表格。
主な特徴は下記で、とりわけ「プロトタイプを通してより具体的に動詞で考える」姿勢が印象的。
1. Observation
- Be a <....>: 例えばお金の流れを考える場合、お札になって、靴をはいたつもりで観察せよ
- customer journey: 顧客の立場/視点から全体の流れを捉えよ
- change people's behavior: 名詞でなく動詞で考えよ(携帯電話でなく電話を「かける」という視点)
2. Prototyping/ visualizing
- visualize solutions through prototypes: いろいろ考えるより、まず実物を示せ
- democratization of ideas: 実物をベースにすればチーム内の上下関係はなくなる
- Rough, Rapid, Right: プロトタイプを作る場合の心得3R
3. Brainstorming
- always start with the premise that everything we know is wrong: 前提を疑え! 既存ルールに縛られるな
- hire people you do not have a need for: 異質なとがったメンバーを集めよ
4. Failure
- fail often & early but avoid mistakes (失敗は沢山せよ、でも早めの段階で!)
- set up reward system to punish inaction, not failures (失敗ではなく行動しない者を罰せよ、失敗を許容し促す報酬制度を確立せよ)
実例
わずか5日間で新しいショッピングカートのデザインを行う様子が放映され話題となった番組-ABC「Nigitline」:
アイディアを生み出す方法
前回の先見性に関連して、今回はアイディアの生み出し方・・・
アイディア: 既存要素の組み合わせ
名著「アイディアのつくり方」いわく、「アイディアは既存要素の組み合わせである」。その過程は下記の5つで、天与のひらめきと思われがちな発想も、1-2 のように地味な作業をすれば、凡人でもコントロール可能な領域に引き寄せることができる。
- データを収集
- データをそしゃく/グルーピング
- データを組み合わせ
- アイディアを発見
- アイディアをチェック
グルーピングに便利な道具: Evernote
特に2) の「データをそしゃく」はちょっとしたコツがあるので、私的なノウハウを披露。まず、関連のありそうなデータを小グループから中グループ、大グループへとまとめ、全体を俯瞰する作業。その際、独立したテーマごとにメモを追加していく縦のグルーピング機能に加え、異なるテーマ内のメモを横断的な共通点でまとめる横のグルーピング機能があれば便利。加えて、それらをクラウドで電子的に行えれば、iPhoneやPCなどからでも入力できるので、アイディアを生み出す確率は高まる。これらの機能を提供してくれ、個人的にも重宝しているのが、Evernoteの記憶補助サービス。
ポアンカレは「豊かなアイデアにたどり着くのに必要なのは美的直観」といっているが、Evernoteの記憶補助サービスによって、「美的直観 = これまでは無関係と思われていたものの間に関係があることを発見すること」が、凡人でも天才の域に近づくことが可能になった。
直観と先見性 II
直観を磨くには
直観が優れている方は、無意識のうちにツボに相当する本筋を捉えられる。今回の夫婦げんかでは、
多くの感情から-> 敵対的な感情に注目-> 中でも「防衛、はぐらかし、批判、軽蔑」の4つ-> とりわけ男女差がない「軽蔑」にズームイン。
つまり、どうでもいい情報は捨てて、核となる要素に神経を集中させる。優れた判断には情報の節約が欠かせない。
概ね優秀な人材が集まりやすい大企業では、リスク回避思考が強く嫉妬心も加わり、他人のあら捜しをしてつるし上げることを好む文化がある。そこでは、聴衆の反論をかわすため、必要以上に情報を集めて検討しがち。しかし、余計な情報はただ無用なだけでなく、有害でもある。問題をややこしくするから。皮肉にも自信を持とうとすればするほど、正確な判断ができなくなる。
複雑な現象の下に潜む潜在というサインを見つけるには、単純だけど7割程度をカバーする本筋・本流を捉えればよい。そして直観を基に、論理的思考で熟慮する「左脳と右脳のキャッチボール」、熟考と直観的思考のバランスが必要。いずれも訓練と経験によって、瞬時の判断力を高めることができる。
羽生義治 棋士の直感とは
若手は、簡単な一手を指すにも数百もの膨大な手を読んで指すが、ベテランは勘でパッと見当をつけて指す。パッパッと指す手には邪念がないから、基本的に悪くない。全体を判断する目、大局観、本質を見抜く力、ばらばらな知識のピースを連結させる知恵といってもいい。逆にいうと、余計な思考を省き、近道を発見するようなもの。その思考の基盤になるのが、勘、つまり直感力や感性。直感の7割は正しい。・・・中学の図形問題では補助線がひらめかないと解くのが難しいが、将棋もこの補助線のようなひらめきが浮かぶがどうかが、強さの決め手。・・・・将棋を通して、知識を知恵に昇華させるすべを学んだ。
よい経験を積むこと by 「脳には妙なクセがある」
自由意思とは本人の錯覚にすぎず、実際の行動の大部分は環境や刺激によって、あるいは普段の習慣によって決まる。私たちは「自分で判断した」「自分で解釈した」と自信満々に勘違いしがちだが、実際はその人の「思考癖」や「環境因子」など、脳という自動判定装置に起因する。つまり、本人が過去にどれほどよい経験をしてきているかに依存する。だから、「よく生きる」ことは「よい経験をする」こと。すると「よい癖」が出てくる。
「頭のよさ」=「反射が的確であること」と解釈するなら、その場その場に応じて、適切な行動ができること。適切な行動は、その場の環境と、過去の経験とが融合されて形成される「反射」。だからこそ、人の成長は「反射力」を鍛えるという一点に集約される。そのためには、よい経験をすることだ。
例えば、骨董品の鑑定士は、実物を見ただけで、本物か偽物か、また本物だったらどれほど芸術的価値があるかを、瞬時に見分けることができる。ほとんど反射。真贋(しんがん)を見極める力は、経験がものを言う。どれほどたくさんの品を見たことがあるのか、どれほどすばらしい逸品に出会ってきたか。素晴らしい経験はかけがえのない財産となり、適切な反射として実を結ぶ。センスや直感などもすべて経験の賜物。
先見性の片言隻句:
- 「桐一葉 落ちて天下の秋を知る」、あるとき桐の葉が一枚、足元に落ちるのを見て、政権が衰退に向かっていることを察したという名句。桐は落葉樹の中でもより早く落ち葉となるので、桐一葉は衰亡の兆しの象徴とされるが、全く無関係な現象からものごとの潮流を感じ取ったという、常人からすればちょっとあやしげなことわざ。
- 韓非子いわく、「聖人は微を見て以って明を知り、端を見て以って末を知る」。かすかな兆候から将来の全体を推し量り、わずかな部分を見て結果を知ることができる。こんな人いるのかなというスーパースター像。
- 易経いわく、「易は聖人の深きを極め、幾を磨く所以なり」。「幾」とは兆し、時の機微。磨くとは、微細な粉末にすり砕くほど研究すること。時の機微を察知するために、ただひたすら易学や様々な体験から学び、反復し、努力精進して、研ぎ澄まされた洞察力と直観力を養いなさいとの教え。
直観と先見性 I
概ね「現状」の問題解決や対応が得意な左脳・論理思考タイプと、「将来」のリスク回避や機会発見など予見が得意な右脳・直観タイプの2つに分かれる。変化が激しく乱気流の世界では、とりわけ先見性が企業の生死を分ける。今回は、私の人生を通じた主要課題の一つ「先見性」について、その基点となる直観とからめて・・・
わずかな兆しで将来を察する直観力
誰にも分かる現象化された点「現象の極点」と、目に見えない「潜象の極点」にはかなりのズレがある。例えば、症状が出て気付く病気。健康に気を配っている人が、いつもとは違う違和感を重病の兆しと直観し、病院で検査したら初期ガンだった。
あるいは、「よりよい未来へといざなうこと」が必須な経営者、その中でも超一流クラスでは、
- 「一つのことを一生懸命やっていると、そのものごとについて、ある程度予見できるようになる」 松下幸之助
- 「百歩先を見るものは狂人扱いを受け、現状のみを見るものは落伍する。十歩先を見る者のみが成功する。」 阪急グループ創業者 小林一三
推理や分析によらず、わずかな兆しで将来を察する直観力。まだ現象化されない潜み隠れた震えのような物事のかすかな動き、「兆し」というシグナルをだれもが受け取っているものの、それを前兆・予兆として直観し、行動できるかどうか。
「軽蔑」表現に注目すると夫婦関係は15分で予見可能
『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』によると、わずか15分間、夫婦げんかのビデオを見るだけで、その夫婦の15年後を9割の確率で予測できたという実験。
私は敵対的な感情に注目すれば分かるはずと思っていたが、数ある中から「防衛、はぐらかし、批判、軽蔑」の4つ、とりわけ「軽蔑」の感情が最も重要とのこと。それは、夫婦げんかで相手を批判しあい、それが相手を見下す軽蔑 (英語では文字通りlook down on) したような話し方をすると、より関係が悪化しやすいため。その背後には、相手を自分より下に置いて、上下関係を作ろうとする支配欲がある。
敵対的な感情は男女で違いがあり、女性はより批判的な一方、男性は問題をはぐらかそうとする傾向がある。例えば、妻が子供を私立に入れるか公立にするのか教育問題などについて話し始め、詳細な将来設計まで及ぶと、次第に夫は「そんな先のことまで分かるわけがない」と、イライラして顔を背ける。すると妻はさらに夫を批判し、過去の問題などをも蒸し返して、よりこじれる。あるいは、浮気の気配を察知した妻が夫をヒステリックに問い詰める一方、夫は「僕たちは深い信頼関係でつながっているのに、ほかの女性となんてありえない、なんでそんなことを言うの? 好きなのは君だけだよ」と、はぐらかす。
しかし、軽蔑には全く男女差がない。この感情さえ測定できれば、夫婦関係について全て知る必要はない。つまり、夫婦関係の分水嶺は、「軽蔑/敬愛」にある。
参考-「敬愛」: 円満な夫婦関係の潤滑油
「軽蔑」という本筋の妥当性について、「敬愛」という観点から禅僧 南直哉さんいわく、
愛の本質は、自己愛=エゴ=愛欲。愛するという根底に、愛されたいという思いがあれば、それは取引。一生続く愛というのは、母親の愛以外に殆どなく、多くは相手を思い通りにしたいという支配欲がある。仏教では「慈悲」という言葉があるが、そこには支配する感情はない。あくまで結果として相手が感じること。相手を理解しようという想像力があって、手を差しのべた相手がそれを慈悲だと感じたとき、成立する。相手への想像力が支配欲を超える。その大前提が、「相手のことは分からない」ということ。だから分かろうとする、想像する、全部分からなくても何かは分かるだろう、分かりたいと思うこと。そこに慈悲の核心がある。あなたのことは全部分かっているという能動的な言い方や態度だと、愛情はあるかもしれないが、どうしても支配が残る。だから相手は心を開かない。逆に分からないから教えて、聞かせてという受動的態度だと、相手は心を開く。「分からない」ということが、理解しようとする基本。
見合いの当日に初めて主人に会ったという檀家のおばあちゃんが何人もいるけど、彼女たちは本当に相手を大事に思ってきたし、亡くなった後も心から悼んでいる。それは、長年生活を共にすることで、苦労を分かち合ってきたから。人間関係で唯一頼りになるものがあるとすれば、利害関係を超越した関係、ある経験を共有したゆえの理解と敬意において成立するもの。この人に裏切られるんならしょうがない、この人と一緒ならお金が少なくてもいいや、と思える関係。敬意と愛情との決定的違いは、支配欲。尊敬する人には、思い通りにしたいという感情はわかないはず。愛の上に敬をつけて、敬愛。この敬の根本も想像力。その大前提が、『相手のことは分からない』。
ネット系ビジネスモデル-III
陣形の組み方 (仕組みの差別化)
ネットの世界では、単独で戦う局地戦ではなく、ネットワークでつながった企業群の総合力が決め手。ダイエーの価格訴求-> セブンイレブンの価値訴求-> ネット世界では「ネットワーク価値」訴求の時代へ。
- バリューチェーン (垂直統合): 多様性のアンドロイドに対し、iPhoneなど品質や統一性重視のapple
- エコシステム・経済圏 (平面的連合):
- 仮想通貨:楽天ポイントを媒介に自国経済圏内で顧客をシェア/囲い込み、新規サービスでも顧客獲得コストを抑え、迅速なスタートダッシュで他社を圧倒
- 補助金型 (win-win型): Amazonのアフィリエイトなどパートナーにも成功報酬を分配することで、勝手に宣伝してくれる仕組み
- Open ID: Facebook connect などIDで顧客データを囲い込み
- 財閥型 (収益プール型): グループ内で発生する収益機会を取り込める事業を立ち上げ、グループ外へ流出を防止。証券事業を核としたSBIグループでは、VC事業により証券顧客にIPOの当選確率を上げ、証券事業には主・副幹事のうまみを提供。また、グループ内から金融コンテンツを買い上げその事業を育成するなど、グループ内に強固なインキュベーション機能を確立し、グループ内IPOの確率もアップ。
ネット系ビジネスモデル-II
利益の生み出し方
「利益= 売上(価値) -費用(機会損失コスト)」なので、売上を上げるか、コストを下げるかの2通り。売上を上げるには、顧客に利用してみたいな、買いたいなと思わせるバリューを提供しなければならないが、その本質は差別化。そして、different, special, better を追求し、改善すること。切り口は、製品と時間軸。
1) 売上アップ: 原則は差別化、different, special, better を追求
2) コストダウン: 1割の削減を考えるより半分にする方法を考えるとうまくいく -by 松下幸之助
製品の売り方
いかに顧客をつなぎとめられるか、自社製品のサポーターでいてもらえるかのアイディア合戦。切り口は、製品と顧客。
- 垂直型 (ピラミッド型): 価格帯の異なる製品を提供し、顧客の上昇志向を刺激、高価格帯ほど高利益率(カローラ-> マークII-> クラウン-> レクサス)
- 水平型: 同一価格帯で異なるブランドを提供 (異なる味の菓子類、原料の異なるシリアルなど)
- コピー型: ディズニーキャラクター (テーマパーク、アニメ映画/DVD、グッズ、携帯や服などとコラボ)
- Freemium型: 無料で有料への敷居を低くし、いかに有料サービスへ促す仕組みをつくるか、attract-> addict-> covert モデル
- バンドル型: パッケージで割安感を演出
- 影響力xレバレッジ: オピニオンリーダーなど影響力のある層をテコにレバレッジを効かせて拡散
ネット系ビジネスモデル-I
今回はネット系ビジネスに関し、ビジネスモデル、利益の生み出し方、製品の売り方、陣形の組み方、持続可能な仕組みについて、基本事項のほか他の業界からも引用し、頭の整理用として簡潔にリストアップ。主な切り口は、自社、顧客、ライバル、サポーター、時間軸。各役者が時空間を伴った舞台上でどう関わるのか。
まずは、ネット系ビジネスの収入源。概ね以下の3つで、それぞれが独立というわけではなく、広告と有料を組み合わせるなど、収益の多角化・安定化をはかる場合も多い。