『マルクスは生きている』

マルクスは生きている』不破哲三
タイトルの通り「マルクスの思想・哲学は現代社会にも通用する、生きている!」という内容の本なのだが、この本はその前半でマルクスの世界観、経済学、未来社会、革命論などのあらましを丁寧に解説している。あまりマルクスになじみの無い読者のための下地づくりといったところか。実は読んでいてこの前半部がなかなか心地よかった。「心地よかった」というのはおかしな表現なのだが、「唯物論」「階級」「剰余価値」「搾取」等の単語に触れるたび、「そうそう、そうだった」と思い出す。かつてマルクス関連の著作に触れたことのある者にとっては久々の復習になるのだが、その度合いが何とも「心地よい」と思えたのだ。

 逆に本書で初めてマルクスの思想に触れる人にとっては少し物足りないかもしれない。この本の前半を読んで、後頭部をガツンと殴られたように「世界の見方が変わった!」という感想を持つひとはまずいないだろう。資本論全三巻をはじめ、幾多の著作、論文を残したマルクスの思想を新書の半分で解説しつくせないのは当然だが、その思想のどの部分をどう取り出してどう語るか・・・・。著者にとっては朝飯前のはず。もっとガツンと語ることもできるはずなのに、あえて熱くならない。今風にソフトに語ったのか?昨今はこのようなソフト路線でないと理解してもらえないのかもしれないが、少し寂しい。

 後半の現代論の中で特に気に入ったのは、現代世界を4つに分類して論じているところ。

[1]発展した資本主義国家 
[2]社会主義を目指す国(中国、ベトナムキューバ
[3]植民地・従属国の状態を抜け出したアジア、アフリカ、ラテンアメリカの諸国
[4]体制崩壊を経験した旧ソ連・東欧圏の国々

先進国vs後進国、欧米vsアジア、北vs南など、世界を分ける切り口は色々あるが、この切り口はなかなか新鮮だ。今のところ[1]が優勢であるのは間違いないが、伸び率という意味では[1]はこの中で最下位になる。さてトップはどこだろうか・・・?

 逆に気に入らなかったのは現代の地球温暖化の問題を資本主義の問題としている点。確かにマルクスの生きた時代に資本家の力によって工業化が進められ、環境破壊の第一歩が踏み出されたのは事実だ。しかし、環境破壊=工業化であっても、環境破壊=資本主義ではないことは現代の中国を見ても明らかだ。社会主義であったら地球温暖化は起こらなかった、などというのはペナントレース後半になってから、○○が監督やっていれば今頃阪神が優勝していたはずだ、と言うのとにている。

 1818年のプロイセンに生まれたカール・マルクス。家族の愛と超人的なバイタリティ、そしてエンゲルスの友情に支えられ猛勉強を続けた大思想家が今、再評価されているという。小林多喜二の『蟹工船』も売れている。スターリンの呪縛からやっと解き放たれたのか、それとも100年に一度の大不況がマルクスを呼びよせたのだろうか。

マルクスは生きている (平凡社新書 461)

マルクスは生きている (平凡社新書 461)