蜂の巣にキス/ジョナサン・キャロル
- 作者: ジョナサン・キャロル,浅羽莢子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/04/22
- メディア: 文庫
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今回は、完全にミステリ。ホラーやファンタジーの要素はない。しかし、物語の要所に埋め込まれた、人間の心の闇に潜む何かが、クライマックスに向けて徐々に姿を現してゆくような感興があって、ここら辺の不気味な情感は完全にいつものキャロル、素晴らしいキャロルである。ミステリとしての出来栄えもなかなか堅牢であり、ガチガチの本格としてはともかく、スリーピング・マーダーものとしては水準を優に超えるものと言えるだろう。だが最も素晴らしいのは、男と女、父と娘の姿が、感情の襞に至るまで精妙に描き込まれているということだ。やはりキャロルはキャロル、いい仕事をしてくれているのである。
とは言いつつ、キャロルの素晴らしさを理解するには、やはりダーク・ファンタジーと呼ばれているような分野の作品を読んだ方が手っ取り早いようにも思う。「キャロルが書いたミステリってどんな感じなんだろ?」という興味を持てる人が読めば、快楽をもたらしてくれる作品と言えるだろう。
火薬船/海野十三
- 作者: 海野十三
- 出版社/メーカー: 三一書房
- 発売日: 1998/06
- メディア: 単行本
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物語は正直中だるみ。大体《平靖号》の所期の目的が明示されないまま終わってしまうので、据わりの悪いこと夥しい。全集でなければ読む価値はない作品といえよう。
なお、作品の質云々とは全く関係ないが、「火薬船」は明らかに戦意高揚のために書かれた小説で、少年向けにこのようなことが大っぴらに書かれる世相には背筋が寒くなる思いだ。何が怖いといって、日本への自画自賛のベタ誉めもさることながら、外国人(主に西洋人)を憎々しげに描くことで、敵愾心を煽り立てる点が怖い。
ニューヨーク・フィルハーモニック
- ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」op.92
- チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.35
- ベルリオーズ:幻想交響曲op.14
- (アンコール)ビゼー:《アルルの女》第2組曲より《アダージョ》
- (アンコール)ビゼー:《アルルの女》第2組曲より《ファランドール》
- リディア・バイチ(ヴァイオリン)
- ロリン・マゼール(指揮)
名高いマッシブさ、豪奢な音と指揮者による完璧なコントロール、そして時折顔を出す、リズムやパートバランスでの珍奇な《遊び》。なかなか面白い演奏であった。しかし、何かが足りないような気もする。マゼールが制御し過ぎてオケの自発性を奪い去っているからか、そもそもあんまりやる気がないのか。表現が難しいのだが、《弾むリズム》というものがなくて、本音を言えばムニャムニャという感慨を抱いて帰途に着いた。トスカニーニ・フィルの時は、オケの平均年齢の若さでここら辺をカバーしていたのかも知れぬと、今にして思う。バイチはちょっと粗かったような……。勢いはありましたけどね。