翻訳夜話2 サリンジャー戦記 (文春新書)

翻訳夜話2 サリンジャー戦記 (文春新書)

今年の春に甲殻機動隊S.A.C.に熱中していた。このアニメの軸となっているのが「笑い男事件」で、「笑い男」のネーミングモデルがサリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』に収められているという短篇である。S.A.C. の中で公安9課のトグサがレーガン大統領の銃撃した事件の容疑者が『ライ麦畑』を読んでいたことと内偵で赴いたサナトリウムに書いてあった『ライ麦畑』の一節から事件の真相へ迫っていく構成がおもしろく、興味をおぼえて村上春樹訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を夏休みに読んだ。この『サリンジャー戦記』は『海辺のカフカ』を書き上げたあとで『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の翻訳をした村上春樹とその校閲にあたったらしい柴田元幸の、『キャッチャー』をめぐる対談である。『キャッチャー』に著者サリンジャーの自己が色濃く投影され、またそこに投影された影の像がサリンジャーのその後の生き方を規定するといった見方が面白い。作品に自己を投影した影を放り込むというところが、平行して読んでいる次の本と関連深いテーマである。

影の現象学 (講談社学術文庫)

影の現象学 (講談社学術文庫)

巻末の解説で遠藤周作が戦後の名著であると書いている。興味深い内容を含んでいそうな一冊。アトランダムに手にした『サリンジャー戦記』と『影の現象学』の2冊であるが、関連が深く一方が他を、他方が一方を補填しながら、読んでいる僕の理解を促してくれる。サリンジャー村上春樹の創作の共通点がこの本から見えてきそうな予感がある。


関連する作品

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man [DVD]

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man [DVD]

村上春樹、河合隼雄に会いにいく

村上春樹、河合隼雄に会いにいく

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

キャッチャー・イン・ザ・ライ

キャッチャー・イン・ザ・ライ

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

海辺のカフカ (下) (新潮文庫)