本を買う理由、または、積まれていくものへの言葉

何かの拍子に本を買うと止まらなくなる。恐らく、全治一生の「本を買わないと死ぬ」病にかかっているのだと思う。家のスペースの都合で、なるべく文庫か新書を買うようにしているのだが、どうしても単行本や大型本を買ってしまうこともあり、難儀である。
また、買った本の殆どは積まれていく運命にある。いつか読むだろうという理由で買っているわけではなく、本を買うという行為だけで既に半分くらいは読み終わっているのだ、と開き直っている。読むことは余禄であり、その意味で、純粋な楽しみでもある。
なので、最近買った本の、読書感想文ではなく、読書前感想文もしくは購入感想文を書こうというのがこの文の趣旨である。
 ちなみに、今読んでいる本は、『戦争画リターンズ-藤田嗣治アッツ島の花々』平山周吉(芸術新聞社)だが、カバンに入れると重くて持ち運ぶのが大変なので、早く読み終わりたいものだと願っている。

・『将棋世界8月号』(日本将棋連盟
 『週間将棋』の休刊(多分、事実上の廃刊)は、アナログ派の「観る将」(=「観る将棋ファン」)としては近年の痛恨事で、今や『将棋世界』だけが頼みの綱である。今年の名人戦については、詳細はフォローしていないものの、ようやく訪れた本格的な世代交代の刻を告げる戦いだったのでは、という予感がしているので、佐藤新名人のインタビューだけはすぐ読んだ。土台を固めたかったので、若い頃はすぐに結果がでないような研究を中心にやっていた、という発言に驚愕。今まで、こんなことを言った棋士がいただろうか、記憶にない。渡辺竜王もそうだが、発言が面白いことは、今の棋士に求められる才能の一つなのではなかろうか。

・『科学の発見』スティーブン・ワインバーグ文芸春秋
 週刊文春の「文春図書館」で紹介されていたので購入。思っていたより厚く、すぐ読むかどうかは微妙。古代や近世初期の西洋哲学が科学的に見るとトンデモというのは、実感としてはその通りだと思うが、どういう切り口でそれを語るのかに興味がある。

・『物語イギリスの歴史(上)(下)』君塚直隆(中公新書
 METオペラで何年かに渡って新制作されていたドニゼッティチューダー朝三部作『アンナ・ボレーナ』『マリア・ストゥアルダ』『ロベルト・デヴェリュー』が2015-2016シーズンで完結した。今年夏のMETライブビューイング・アンコールで三部作が全てアンコール上映されるので、その予習用に購入。シェイクスピア没後400年つながりでもある。

・『シェイクスピア河合祥一郎中公新書
 今年はシェイクスピア没後400年、ということで、松岡和子や河合祥一郎の本をいくつか読んだのだが、新刊はまだだったので買ってみた。中味は全く知らない。何冊か読んだ感想として、シェイクスピアの歴史劇を見たいなと思った。過去には、一度だけニューヨークのリンカーンセンターシアターで見て、英語が全く聞き取れずに撃沈したので、リハビリも兼ねて日本語で見たいのだが、今年の秋にやる野田+オンケンセンの『さんだいめ・りちゃあど』だと余りに変化球すぎるだろうか。

・『浮標』三好十郎(ハヤカワ演劇文庫)
 夏にKAAT(神奈川芸術劇場)でやる再演のチケットを買ったので予習用に購入したのだが、はたして見る前に予備知識を入れたほうがいいのかどうか、ちょっと悩んでいる。

・『コペンハーゲン』マイケル・フレイン(ハヤカワ演劇文庫)
 新国立劇場の初演は見ており、少し前に世田パブ(=世田谷パブリックシアター)でやっていた再演は、演出が小川絵梨子だったこともあり観たかったのだが、スケジュールがあわず残念ながら未見、ということで買ってみた。再演しないかなぁ。

・『谷川俊太郎詩集』(岩波文庫
 6月初旬に、ギンズバーグの詩にフィリップ・グラスが音楽を付けて、それをパティ・スミスが朗読し、翻訳字幕は村上春樹柴田元幸が作る、という色々な意味で興味深い企画がすみだトリフォニー・ホールであり、さらに、6月下旬に、池袋の芸劇プレイハウスでロベール・ルパージュの一人芝居『887』を見に行って、クライマックスで朗読されるミシェル・ラロンドの詩「Speak White」を聞いて、ある社会における詩のもつ力について考えをめぐらしたこともあって、でも日本で『887』を作るとすれば最後は谷川さんじゃないよなぁ、やっぱり石牟礼さんかなぁ、詩じゃないけど、などと思いつつ購入。ちなみに、近代美術館の吉増剛造展には行くつもり。

・『チャイナ・メン』マキシーン・ホン・キングストン新潮文庫
・『宇宙ヴァンパイヤー』コリン・ウィルソン新潮文庫
 現在進行中の村上・柴田翻訳堂を応援するため、毎月買っている。読まなくても買うのが真のサポーター。

・『殿様の通信簿』磯田道史新潮文庫
・『江戸の備忘録』磯田道史(文春文庫)
 最近、BSプレミアムの「英雄たちの選択」を何回か見て、司会をしている磯田さんの本を読んでもいいかな、ただし、文庫で、と思っていたので購入。

・『YOKAI NO SHIMA』シャルル・フレジェ(青幻舎)
 画廊じゃない銀座の5大ギャラリーは、私見では、番地の若い方から、ポーラミュージアムアネックス、シャネルネクサスホール、メゾンエルメスフォーラム、GGG(銀座グラフィックギャラリー)、資生堂ギャラリーなのだが、センスの良さでいうとエルメスが抜けていると思う。とにかく、企画に外れがない。これもメゾンエルメスフォーラムでの展示をまとめた写真集だが、習俗を切り取るフレーム力が卓越していて、見ていて飽きない。

・『江戸の悪-浮世絵に描かれた悪人たち』(青幻舎)
 浮世絵も見ようと思えば結構色々なところで見られるが、ビジュアル文庫としてコンパクトにまとまっていて、浮世絵好きだけでなく歌舞伎好きにも楽しめる内容になっている。青幻舎は個人的には最近一押しの出版社。

・『オカルト』森達也(角川文庫)
 映画最新作の『Fake』で久しぶりに森達也の名前を認識したこともあり、文庫の平積みに手が伸びた次第。個人的には全くオカルト系に興味がないのだが、そういう人でも大丈夫そうな気がした。でも、それが正しいかどうかは読んでみないとわからない。

・『映画を撮りながら考えたこと』是枝裕和(ミシマ社)
 是枝さんの作品をたくさん見ているわけではなく、むしろ、弟子の西川美和の作品のほうが多く見ているくらいなのだが、それでも買っておいたほうがいいような気がしたので買ってみた。買ってから気がついたのだが、この出版社の本を買うのは、これが初めてのような気がする。最近映画関係の本は新しい出版社から出ていることが多いような気がするのだが、それも気のせいだろうか。