翡翠輝子の招福日記

フリーランスで女性誌の原稿書き(主に東洋占術と開運記事)を担当し、リタイア生活へ移行中。2023年秋、スペイン巡礼(フランス人の道)。ウラナイ8で活動しています。日本文芸社より『基礎からわかる易の完全独習』刊行。おかげさまで重版になりました。

『百年の孤独』を代わりに旅する

百年の孤独』は読者を選ぶ本です。私の場合は続きが読みたくて夢中になり気がついたら夜明けになっていました。その一方で、最初の1ページで投げ出したという人も多いのでは。

そんな人にはこの一冊を。

百年の孤独』は読者をからかう冗談話だから、読む側もある種の冗談的な方法で受けて立つとあります。大いに共感。ノーベル文学賞だからと気合いを入れて読むと挫折します。

そうやって読めば遠く離れた『百年の孤独』の世界が身近に感じられます。ブエンティーノ一族に起こったことは私の家系にも起こっているから、ページをめくるのも手が止められなかったのです。

 

まず、章のタイトルからしておもしろおかしい。

・引っ越し小説としての『百年の孤独

・来る者拒まず、去る者ちょっと追う『百年の孤独』のひとびと

・パパはアウレリャノ・ブエンディア大佐

・マコンドいちの無責任男

・NYのガイドブックで京都を旅したことがあるか?

・如何にして岡八郎は空手を通信教育で学んだのか?

・思い出すことでしか成し得ないものごとについて

 

最終章では、マコンドを沸かせたバナナ産業を日本の半導体産業になぞらえています。

 日本の敗戦直後、真空管に代わるものとして、半導体が海の向こうで発明された。伝わってくる少ない情報を手に入れ、日本の研究者たちはどうにかして日本でも半導体を作ろう、先端技術に追いつこうと日夜研鑽を積んでいた。

 その涙ぐましい努力の結晶は、マコンドにジプシーたちが運んでくる発明品のようだった。

このあたり、コンピュータサイエンスの研究者・技術者として働くかたわら、作家・編集者としても活動する著者の友田とん氏らしい解説です。

私たちはその後、日本の半導体産業がどのような道筋を辿ったかを知っている。多くの半導体工場が日本から消失し、工場跡地だけが残された。多くの技術者は他の分野へ、他の町へと散り散りになった。それはマコンドも同じだった。

 

とんでもない話のようでいて、どの家にも、どの国にも起こりそうなことが書かれているからこそ、『百年の孤独』は普遍的な物語として世界中から支持されています。

その現場を一目見てみたいとアラカタカ(マコンド)には、全世界からガルシア=マルケスのファンが訪れているそうです。私もその一人になりたいのです。

 

パンプローナの街でマコンドという看板を目にしました。カフェバーらしいのですが、いつ開店するのかも定かでなく、翌日は夜明けと共に歩き出さなくてはいけないので、店内に入ることができませんでした。1日ぐらい予定をずらしても、行ってみるべきでした。

 

2023年のスペイン巡礼。

ウラナイ8ではメンバーの7人が持ち回りで1週間に一回デイリーメッセージを担当しています。7週間かけて歩く予定だったのですが、7本の原稿を書き溜めていくのはやはり無理。ウラナイ8関係者で書くことが好きな7人に代わりに書いてもらいました。

歓送会的なイベントも開いてもらい、なんとなくみんなの代わりに歩くような気分に。

 

帰国後、7本のお礼メッセージを書きました。

uranai8.jp

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一人でできることには限りがあります。ブログやYouTubeで自分の体験を交換すれば、誰かの代わりに何かをすることになります。この時代に生きていてよかったとしみじみ思います。今回のコロンビアも誰かの代わりの旅になるかもしれません。

東京大学文学部で『百年の孤独』を学ぶ

易者にとって一年で一番忙しいのは、陰が極まって陽に転じる冬至の日。一年の成り行きや指針を得る年筮を立てる日です。

だったら陽が極まって陰が転じる夏至にも何かしようとウラナイ8の天海玉紀さんと始めた会。

note.com

陽が極まる日だからこそ、自らの内に秘めた欲望をオープンにしてフランクに話し合える場。今年も濃い時間となりました。

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欲望の塊である私は、インナーチャイルドカードの会の合間を縫って東京大学文学部、柳原孝敦教授の『百年の孤独』再読講座へ。

www.l.u-tokyo.ac.jp

 

ネットで事前登録が必要ですが、無料でこのような講座に参加できるとは、本当にいい時代です。

 

 

「奇跡のような、ありえない出来事が、その他の面ではリアリズムを標榜している語りのなかで起きる」という、デイビッド・ロッジ『小説の技巧』のマジック・リアリズムの解説が紹介されました。

マジック・リアリズムは、特に現代ラテンアメリカ文学と結びつけて考えられることの多い手法だが、ほかの大陸にすむ作家たちの小説にもそれは見出される。ギュンター・グラスサルマン・ラシュディミラン・クンデラ。これらの作家たちに共通していることは、歴史的にも個人的にも大きな変動を生き抜いてきて、穏やかなリアリズムではその体験を十分表現できないと感じている点である。イギリスの場合はおそらく、比較的傷の深くない現代史を経て来たから、伝統的なリアリズムの枠内にとどまりがちなのだろう。

 

なるほど。文学ではそうなのかもしれませんが、占いの世界ではマジック・リアリズムは身近なもの。個人的な経験を奇想天外な物語として語るおもしろさがあるのです。

 

本を読むのは好きだからこそ、学問として追求するのはおもしろくなさそうだし、現世の金儲けには役立ちそうにないと文学部を選びませんでした。こんな講座を受けられるのなら文学部で学びたかったと思いましたが、アカデミックな世界ではつま弾きにされるのがオチ。

そう思い至ったのは、質疑応答の時間。「黄色い蝶、黄色い汽車など『百年の孤独』で黄色が象徴することは?」という質問が出たのですが、柳原教授は「そんなことは考えたことなかった。どなたか詳しい方は?」と会場に振るのです。

思わず手が上がりそうになりました。ガルシア=マルケスのラッキーカラーは黄色。だけど、世俗の富を象徴する黄金は嫌っていました。

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昨年、文庫化されて3か月で33万部を売り上げた『百年の孤独』ですが、実際に読み通した人のほうが少数派かも。質問者の中にも「読んでいる途中ですが」という人もいて「再読というテーマなのに読み通さずに来て、質問までするのか!」とびっくりしました。ここで手を挙げて小賢しく語っても、感謝されるどころか東大教授に意見する素人として白眼視されるだけです。

 

東大を後にして、遅めの昼食兼早めの夕食をゆっくりと楽しみ、欲望を語る宴へ。「こんなことを言ったらどう思われるか」なんて考えずに自由に発言できるウラナイ8号室は貴重な場所だと改めて痛感しました。

添乗員という仕事

結婚40周年で参加した上高地・飛騨高山・太平洋フェリー・仙台のパッケージツアーは女性の添乗員さん同行でした。

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今回の添乗員さんの仕事ぶりを観察したり裏話を聞くのが、観光地巡りの何倍もおもしろかった!

仕事であちこち行ける添乗員という仕事。旅好きならあこがれがちですが、煩雑な業務を目の当たりにすると、私にはとても無理だとわかりました。「好きなことを仕事にしてはいけない」というのは添乗員こそ当てはまります。今回の旅は夫婦限定だったので穏やかなムードでしたが、中にはむずかしいお客さんもいるだろうし。

 

飛騨高山から白川郷へ向かう高速道路が事故で通行止めになり、急遽、郡上八幡に行先が変更になったのが、旅のハイライトの一つでした。

 

旅好きの熟年夫婦ツアーですから白川郷にも行ったことがある人も多く、不満の声は一切出ませんでした。むしろ、こんなことがなければ郡上八幡なんて訪れることがないから喜んでいる人が多かったのでは。

 

郡上八幡は水の町。山々に囲まれ、澄み切った水が町中を流れています。長良川との合流地点まで歩くと、長良川鉄道も走っていました。

 

飛行機が遅延すると、エコノミークラスの客はCAに怒り、ビジネスクラスの客はスケジュール変更に没頭し、ファーストクラスの客はCAを気遣うという話があります。

この機会はファーストクラスの客に擬態する絶好のチャンス! 集合場所に早めに行き添乗員さんに「郡上八幡の駐車場を押さえたり、観光情報を集めてくださって、大変だったでしょう」と声をかけました。添乗員さんは満面の笑みを見せてくれ、時間のある時は裏話も聞かせてくれるようになりました。

 

一番聞きたかったのは、添乗員さんの立場。旅行会社の正社員か契約社員派遣社員かです。とても仕事のできる方だったので正社員かと思ったのですが、専門の派遣会社所属でした。正社員で添乗員なのは、現場を経験するための若い人だけだそうです。

 

おもしろかったのは、添乗員の食事事情。フルコースのフレンチを謳ったツアーでも添乗員に出されるのはパスタ一皿だけなんてこともあるそうです。

 

最終日に泊まった秋保温泉の佐勘の朝食バイキング。

寝起きが悪いので遅めに行くと座席もゆとりがありました。添乗員さんの姿もあったので、彼女も充実したバイキングを楽しんだのだろうとうれしくなりました。添乗員さんのお母さんは膵臓がんで亡くなったのですが、最後の家族旅行で選んだのが佐勘だと聞きました。旅のスタッフも手厚くもてなす宿。これから何度も訪れたいものです。

 

そして名古屋から仙台への太平洋フェリーでは他のツアー団体客も乗船していました。添乗員同士の情報交換で、割り当てられる船室のランクの違いが明らかに。「窓のない内側だけど、シングルルームが確保されていた」という添乗員さんに対して、会社から支給されたのが大部屋だった会社があったとか。参加者のチケットや現金も持ち歩いているため自腹で個室にランクアップしたとのこと。その会社のツアーには絶対に参加したくないと思いました。

 

こうして振り返ると、なかなか充実した旅。パッケージツアーなんてつまらないという偏見を持っていたことを反省しました。

もうダメかもしれないと思いつつ生きる

久々に顔から血が引くような大失敗がありました。

 

ウラナイ8の夏瀬杏子さん主催の八卦マンダラチャートのワークショップ。

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午後1時開始だったのに、2時からだと勘違いをしていました。毎月の易の読み会が2時だからごっちゃになってしまったのか、旅が続いて落ち着かない日を過ごしていたからか。

虫の知らせか、何気なく杏子さんの案内を見直していて1時開始だと気づいたのが12時45分。絶対に間に合わない! 大慌てで着の身着のまま家を出て駅まで走る。幸いなことに新宿行の総武線にちょうど乗れました。杏子さんに遅刻の連絡。先に八卦の説明を始めてもらうことにして、10分ほどの遅刻で会場に走り込みました。

 

こんな失敗をしでかし、もうダメかもしれない。

思い出すのは、湯島聖堂で陰陽五行を教わった東洋哲学の先生。大学も退官されて80代半ば。ご本人は引退したがっていたのに、生徒のほうが懇願して続けてもらっていたのです。体調を崩されて休講になることもあり、もう来年はお願いしても無理かもと思っていた矢先、時間になっても先生が現れない日がありました。

事務局からご自宅に連絡すると外出中とのこと。途中で何かあったのではないかと教室がざわつきました。結局、講義の日を忘れて床屋に行っていたとのことで、ほどなく「こんな失敗をして、とても続けられない」と講義辞退の申し出がありました。

 

しかし、今は超高齢化社会で70代でも働くことが推奨される世の中。若い頃もたまにこういうミスをしていたから、認知症が始まったわけではないかも…といったことを悶々と考えました。

 

高齢者が「老害」として嫌われがちですが、占い業界中でも東洋占術は年長者が大きな顔をしやすい稀有な世界です。

マンダラチャートのワークショップでは各自が八卦の象意に従ってできるところまで64マスを埋めて、差支えのない部分を発表して意見交換しました。

若い世代のマンダラチャートを覗かせてもらうと、知らなかったことや参考になる話が盛りだくさん。こちらのほうが教わっているようなものでした。

杏子さんの発表は「食べたこともないものを食べる」。食べ物を八卦に当てはめていくのは楽しいものです。

 

そして私は「アルコールとの健全な付き合い方」という退廃的なテーマにしました。認知症におびえているのなら、アルコールによる脳の萎縮を防ぐために禁酒すべきなのに、ついずるずると飲んでしまうから。

 

先日の夫婦限定ツアーで泊まった秋保温泉の佐勘の朝食は、圧巻のバイキング。朝からビールとワインが飲み放題という悪魔の朝食です。

飲み物はキーウイスムージーと赤ワインにして、オムレツを焼いてもらいました。宮城県産のお米に貝出汁のうどん、シェフのパスタ、オーダーして作ってもらえるサンドイッチなど目移りするほどでしたが、ランチは塩釜で握り寿司というプランだったので、朝の炭水化物はパスしました。食べ物には自制心が働くのに、アルコールになるとどうしてだめなんでしょう。さすがに朝ですから1杯だけにしておきましたが。

 

パッケージツアー、パッケージライフ

コロンビア旅行を前にガルシア=マルケスの著作を再読するのに忙殺されているうちに、結婚40周年となりました。

ジューンブライドにあこがれて梅雨入り前のタイミングで、夫との共通の母校のチャペルで挙式。40年も過ぎたなんて信じられないのは、独身時代よりも伸び伸びと好きなことに没頭できてあっという間だったからでしょう。

 

記念に夫婦で旅行するとして、どこがいいか?

夫婦とはいえ趣味も嗜好も異なります。旅先で険悪になったら目も当てられません。そこで選んだのが、ちょっと変わったパッケージツアー。

東京から上高地へ向かい、飛騨高山で宿泊。2日目は名古屋から太平洋フェリーに乗船。3日目の夕方に仙台に到着して、秋保温泉泊。4日目に松島観光で新幹線で東京に戻るという日程。

上高地は小学生の時に親戚に連れて行ってもらったことがあり、再訪したいと思っていました。上高地の帝国ホテルに泊まるのも検討しましたが、行って帰るだけでは味気ない。飛騨高山は共立メンテナンスの温泉宿のワーケーションプランを利用しましたが、夫は行ったことがありません。飛鳥Ⅱはあまり楽しめなかったけれど、太平洋フェリーならちょうどいいのではないか。そして仙台の秋保温泉の宿が佐勘だったのが決め手となりました。

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8年前の仙台旅行で宿泊してとても気に入ったので、結婚40周年で訪れるのにぴったりです。

ちなみにこのツアー、夫婦参加限定です。事実婚同性婚はどうなんでしょうか。特急あずさや新幹線はグリーン車太平洋フェリーは特等客室のツインと乗り物にはこだわっています。

 

新宿の集合場所に来たのは9組。私たちのような熟年夫婦ばかりでした。会話もあまりないから、とりあえず予定が詰まっている旅がいいのでしょう。かといってスケジュールぎっしりでは疲れるし、宿もそこそこのところに泊まりたいという熟年夫婦のニーズを満たすツアーです。バスは40人乗りで、夫婦で一列を使います。並んで座って、空いている席に荷物を置いてもいいと言われましたが、全員、二座席に一人で左右に離れて座っていました。

 

予定していた白川郷への高速道路が事故で一時的通行止めとなり、通常のツアーなら解除を待つところですがフェリーの時間があるので予定を変更して郡上八幡を観光することに。クレームを口にする人は一人もおらず、淡々とおだやかムード。超ラブラブなカップルもいなければ、喧嘩も皆無。女性同士のおしゃべりがないので、全体的に静かな旅でした。

 

上高地はマイカー規制をしているので、観光バスか路線バス、タクシーでしか行けません。自分の乗るバスを覚えておくようにと念を押されました。旅慣れた人が多いのか、迷う人はいませんでした。「集合時間前ですが皆さんお揃いなので」ということが多く、これは絶対に遅れることはできないと思いました。

 

パッケージツアーはやはり楽。これだけの場所を個人で一度に回るとしたら、かなりの手間です。バスや電車の時間を調べることもなく、添乗員さんの言う通りにしていれば目的地に着きます。

 

人と同じがいやで、個性を発揮して生きようとしてきたけれど、そろそろ潮時かも。譲れないことだけ我が道を行き、その他のたくさんのことはパッケージされたプランに乗ったほうが楽なのではないかと思い至りました。