研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

『脱貧困の経済学』+『税を直す』:所得税入門書としても読める。(追記1〜7あり)

頼んでいた荷物を送ってもらったついでに、気になっていた2冊も送ってもらい、さっそく斜め読み。

脱貧困の経済学-日本はまだ変えられる

脱貧困の経済学-日本はまだ変えられる

税を直す

税を直す

前者は、経済学者の飯田氏と運動家・作家の雨宮氏の対談本。飯田氏は、前作『経済成長って何で必要なんだろう?」に引き続き、経済成長の必要性、金融政策の重要性を説きつつ、所得税の累進性強化やベーシックインカムの導入可能性について語っている。所得課税や資産課税は強化すべき+消費税・法人税は理想論としては廃止でいいっていうのは、後者の本でも頻繁に引用されている経済学者の八田達夫氏に近い立場ということなのかもしれない。

後者は、社会学者の立岩氏と院生による共著。立岩氏の部分は、過去2〜30年くらいの税をめぐる議論(by政府税調や党税調や経済学者)の知識社会学的考察(注:知識社会学というくくりは違うだろうというところもあるかもだが、大雑把には、ということで)という感じ。税調資料や経済学者の啓蒙本・啓蒙文章の引用が盛りだくさんで、それをいつもの立岩節でのらりくらりと分析・考察していく。多くの経済学者・財政学者の言説およびその推移が検証されており、経済学者が読んでも面白いと思う。こういう検証は、経済学者自身によってもなされるべきだと思うが、ジャーナルには載らないだろうから研究インセンティブは低そうだ。知識社会学のような自己省察的な研究が経済学研究の一分野として確立していないことは、経済学にとって哀しいことだと思うが、経済思想史研究ってのはそれに近いのだろうか。

院生パートについては未読だがそのうち読んでみたい。

目次や文献はこちら。ちなみに本では文献表が年代別でかなり使いにくい。ネットにアルファベット順も掲載していると書いてあるが見つけられず。
http://www.arsvi.com/ts2000/2009b2.htm

所得課税や資産課税についての立岩氏の政策的立場は前者の飯田氏の政策的立場とかなり近いと思うので(すなわち、ここ20年で所得税の再分配機能は弱くなりすぎたので強化すべきという立場)、両者は補完的にも読める。

斜め読みだし勉強不足だし、たいしたコメントはできないが、飯田氏や立岩氏がいうように、消費税の議論に比べて所得課税や資産課税の検討が政策論議としてあんまり盛り上がっていないというのは、ちょっといびつかもしれない。自分ももっとちゃんと税のお勉強をすることにしよう。

追記1:消費税の逆進性について(大竹・小原論文、八塩・長谷川論文)
ただし、私は二人よりも(景気回復後の)消費税増税に肯定的だ。消費税は逆進的といっても一括税ではなく比例税だし、給付面での累進性を考慮すれば、消費税も十分に再分配機能を果たせる可能性が高いし、(飯田氏も少し言及していたが)所得は少ないが裕福な高齢者などから税を徴収するには消費税のほうが政治的にも簡単かもしれない。ここらへんは経済学的な「効率性」や「公平性」(こちらは統一見解はないが)の議論や立岩社会学的な「正しさ」「まっとうさ」の議論に加えて、日本の社会保障給付サイドの再分配効果や社会保険料の逆進性の問題なども含めた検討が必要だし、ヨーロッパ諸国がなぜこんなにも消費税に頼っているのかを、その歴史的な経緯も含めて検討する必要があると思う。

ちなみに「消費税、逆進性」についてググったらいろいろでてきたので、2つだけメモ。これ以外にも昔権丈氏の議論を紹介したので、あとでリンクはる予定。

消費税は本当に逆進的か(大竹文雄、小原美紀)
http://www2.e.u-tokyo.ac.jp/~seido/output/Horioka/horioka027.pdf

わが国家計の消費税負担の実態について(八塩裕之、長谷川裕一
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis200/e_dis196.html

追記2:所得税の累進性・限界税率について(八塩・長谷川論文)
ちなみに上記の八塩・長谷川論文(2008)は、少なくとも所得最上位層については日本の限界税率が国際的にみても高いことを指摘している。ただし、それが労働供給に及ぼす影響については、立岩氏が経済学者の言説の特徴として指摘しているように、「労働供給や租税回避行動に影響をおよぼし、非効率性を引き起こしている可能性がある。」と、「可能性がある」という留保の言葉が入っている。

一方、表によると、所得最上位の第X 階層の所得税・住民税負担が第IX 階層に比べて急激に増加する。第IX 階層の所得税・住民税負担が9.6%(金額では85 万円)であるのに対して、第X 階層のそれは16%(260 万円)に跳ね上がる。先に述べたように、日本の所得税・住民税の特徴は所得控除による課税ベースの縮小であるが、一方で所得税は基幹税として一定の税収を上げる必要があり、そのため税率の引き下げはあまりなされてこなかった。そのため、所得税・住民税トータルの最高税率は50%と、諸外国と比較してもかなり高くなっている(注17)。すなわち、日本の所得税・住民税の特徴は狭い課税ベースと(とくに所得上位階層で)高い限界税率であるが、こうした一部の所得だけに高い税率を課す構造は、労働供給や租税回避行動に影響をおよぼし、非効率性を引き起こしている可能性がある。

注17:たとえば税制調査会(2005)によると、地方税までいれた場合の所得税最高税率アメリカ(ニューヨーク)47%、イギリス40%、ドイツ42%、フランス48%、カナダ(オンタリオ州)46.4%、韓国38.5%、オーストラリア47%である。一方日本より最高税率が高い国は、国民負担率が70%をこえる北欧諸国(スウェーデンストックホルム)55.5%とデンマークコペンハーゲン)59%)である。これらの北欧諸国では、日本では別途社会保険料として課されている負担が所得税として課税されており、その部分が所得税率を引き上げている。この点を考えると、日本の最高税率は世界的にみても非常に高くなっている。

(上述論文p.8)

追記3:消費税の逆進性について(権丈エッセー、加藤本)
権丈氏の「消費税を社会保障目的税とすれば、消費税は累進税となる」という主張についてはこちら。

大きな政府」なら「逆進課税」、「小さな政府」なら「累進課税」というビジョンになる?「大きな政府」派の主張。
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20061026#p3

消費税と福祉国家の関係についてはこちら。

メーデー雑感+加藤淳子(2003)『逆進的租税と福祉国家
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20060502#p1

追記4:消費税の逆進性について、北欧の消費税・地方所得税(宮本発言)
福祉国家研究者、スウェーデン政治研究者の宮本氏の発言。

宮本 消費税が低所得者に重い負担になる「逆進性」の議論がありますね。それは事実ですが、私は税制だけとって議論してもあまり意味がないだろうと思います。それでいうならば北欧は、非常に逆進的なんです。消費税率が21%、地方所得税もほとんどフラットの30%くらいで累進制が弱い。ただ、他方でジニ係数とか相対的貧困率とか、出生率を見ていると非常に数値がよろしい。要するに格差が抑えられているんです。だから、税制の仕組みを問うだけじゃなくて、税金がきちっと使われているのかというところが分岐点なんです。ところが今の日本の税制論議は、いろんなシミュレーションをやって、「消費税は逆進的じゃない」っていってみたり、批判派は「こんな状況で上げたら格差が広がる」と主張したりと議論がかみあっていない。何でこうなったかというと、行政、政治をみなが信用していないから。税金に対して、「持ってけ、どろぼー」みたいな感じなんですね。返ってくると思っていない。

http://mainichi.jp/select/biz/katsuma/k-info/2009/06/post-32.html

追記5:所得税が労働供給に与える影響について(日本のケース:Bessho&Hayashi論文)

Bessho&Hayashi(2005)Economic studies of taxation in Japan: The case of personal income taxes, Journal of Asian Economics

Bessho&Hayashi(2009)Labor Response and Preferences Specification: Estimates for Prime‐Age Males in Japan
http://www.econ.hit-u.ac.jp/~hayashim/Works/WP/LaborResponseInJapan090803.pdf

追記6:高所得者の税負担について(松田論文(2005)
追記2についての追記:ただし、「所得最上位層」といっても、平均所得は1500万円程度である。高所得者層の税負担については以下のような指摘もある。

松田(2005)「二元的所得税における税負担の累進性 : スウェーデンを素材として」
http://nels.nii.ac.jp/els/110004025021.pdf?id=ART0006282308&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1254085499&cp=

日本では、2000〜3000万円の所得のところで税負担は最も重くなり、これを超える高所得層については、むしろ税負担が軽減されている。

p345-6。図表8も参照。ただし1990年のデータとのこと

そのうちちゃんと頭を整理しよう。

追記7:岩本康志氏の資料・論文・エントリ

研究進む「最適」所得税
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~iwamoto/Docs/2007/KenkyuSusumuSaitekiShotokuZeisei.html
最適所得税の導出について
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~iwamoto/Docs/2007/SaitekiShotokuzeinoDoshutsuniTsuite.pdf
岩本・濱秋(2008)租税・社会保障制度による再分配の構造の評価
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~iwamoto/Docs/2008/SozeiShakaiHoshoSeidoniyoruSaibunpainoKozonoHyoka.pdf
財政政策のマーフィー式採点法(その3,公的資金限界費用
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/24460518.html

大澤真幸が京大を辞職

どうやらセクハラによって辞職ということのようだ。ただのよくある”セクハラ”だったのか、学生との恋愛がこじれたのかはわからないが、本当ならば、冗談ではなく皮肉でもなく、是非、自ら社会学的に分析して文章にほしい。相手の心情やプライバシーのことなどを考慮すると難しそうだが、内容の抽象度をあげる、理論色を強めるなどの回避手段はあるだろう。いろいろな意味で重要なテーマだとも思うので。こんな本も書いていることだし↓(未読)、妻の吉澤夏子はフェミニズム研究者なので、共著というのもありだと思う。

恋愛の不可能性について (ちくま学芸文庫)

恋愛の不可能性について (ちくま学芸文庫)

性愛と資本主義

性愛と資本主義

大学の先生は、自己防衛のためには、少なくとも相手が学生のうちは、指一本触れないほうがいいのだろう。実際にそうしている先生もいる。でもたまに元教え子と結婚している先生っているけど、それは卒業後からなのだろうか。それと、卒業後に1人の性愛対象として口説いて嫌がられてセクハラと訴えられた場合は、どうなるんだろう。ケースバイケースなのだろうか。