3.7 THE BUSINESS CYCLE VEIW OF BANK RUNS

前セクションでは、Diamond/Dybvigスタイルの銀行取付のアウトラインを説明しました。そこでは、外生的な不確実性が決定的な役割を果たしました。このフレームワークでは、銀行取付はlate consumerの信念(belief)のため起こります。もしすべてのlate consumerが取り付けが起こると信じれば、途中で全員が資金を引き出しに行きます。もしlate consumerが取り付けが起こると思わなければ、最後まで引き出すのを待つことになります。両方のケースにおいて、信念は自己実現的(self-fulfilling)となります。最後のセクションではsunspotという用語を使って、どのようにコーディネーションが起こるかを説明しました。伝統的な銀行取付の説明は、「暴力的な心理性」(mob psychology)としばしば呼ばれるものであり、銀行取付を起こすモチベーション、あるいは、「パニック」とされます。銀行取付をパニックとする見方は、長い歴史を持つものの、これだけが取り付けの説明ではありません。銀行取付の別の説明は、景気循環の中でファンダメンタルズが弱くなることから自然に起こるというものです。不景気は、銀行資産の価値を減少させ、将来の支払いができなくなる可能性を高めます。もし預金者が不況が深刻なものだと考え、銀行セクターが金融上の困難を予想すれば、彼らは資金を引き出そうとします。このことが危機を突然発生させます。このような解釈によれば、危機というものは決してランダムな出来事ではなく、経済環境に対する合理的な反応だと見ることができるのです。言い換えれば、景気循環と統合的に取り付けを捕らえることができるのです。


1章では、1865年から1914年の間のNational Banking Eraの間に起こった米国での金融危機を議論しました。Gorton[1988]は、銀行危機ににおけるsunspotの見方と景気循環の見方を区別するため、データを使って実証的に分析しました。そして、彼は景気循環によって銀行危機は予測されるという見方をサポートする結果を得たのです。このことから、銀行危機を「ランダム」なイベントであると見ることは困難になります。Table 3.1は、National Banking Eraの間に起こった米国での不景気と危機を示しています。また、この表は、対応する現金/預金比率の変化とGDPの変化(同期間のpig iron productionの変化を代用)も示しています。pig iron productionの変化においてもっとも深刻だった5つの不況は、危機に伴って発生しました。全体で見れば、11つのサイクルのうち、7つは金融危機が起こっています。ビジネスの失敗をあらわす主要な経済指数として負債を用いることで、Gortonは危機は予測可能なイベントであるとしました。すなわち、この主要な経済指数が一定値に到達すれば、パニックは結果として起こるということです。Gortonによって発見されたstylized factは、少なくともUS National Bnaking Eraにおいて銀行危機は、外生的なランダムな変数というより、景気循環と強い関係があるということを示唆します。Calomiris/Gorton[1991]は、この期間の事実を考えることで、銀行におけるパニックはランダムなイベントだとするsunspotをデータはサポートしないと結論付けました。ほかの点についていえば、彼らがフォーカスした5つの危機(episode)において、株価はそれまでのパニック前の期間、もっとも激しく下落したということを見出しました。


このセクションでは、銀行危機のファンダメンタルあるいは景気循環の見方を考えるためのモデルを提示します。特に、長期資産が一定のリターンをもたらすと仮定するのではなく、リターンにはリスクがあると仮定します。このアプローチはAllen/Gale[1998](Bryant[1980]も参照)によって発展されたものです。


●長期資産は規模に対する収穫一定という性質を持つとします。0時点で1単位投資すれば、2期目に確率\pi_{H}R_{H}のリターンをもたらす一方、\pi_{L}という確率でR_{L}というリターンをもたらします。もし長期資産は事前に流動化されれば、長期資産は1期においてrというリターンをもたらすことになります。ここで、


R_{H}>R_{L} >r >0


を仮定します。


銀行は典型的な消費者から1単位の預金を受け入れ、y単位を安全資産、x単位をリスク資産(長期資産)に投資します。その際、


x+y\le1


という予算制約に従います。その代わり、銀行は消費者が1時点で引き出すのであればc_{1}の支払いを約束し、時点2で引き出すのであれば、c_{2}の支払いを約束します。前と同じように、金融機関は消費者のタイプ(early consumerであるかlate consumerであるか)が観察できないとします。それゆえ、それらのタイプに応じた契約が結べないとします。より厳しい要件として、銀行は、リスク資産のリターンに応じた預金契約ができないとします。


銀行セクターでは参入が自由であり、競争があるとします。それゆえ、彼らは消費者の期待効用を最大化することになります。このことが意味することは銀行は均衡では利益をまったく得ないということです。特に、このことは、時点2で残された資産のすべてを消費者が受け取るということになります。時点2という終点の資産価値は不確実であるため、銀行は時点2ですべての資産を吐き出すことになります。一般性を失うことなく、c_{2}=\inftyとし、c_{1}=dという一つのパラメーターで預金契約を特定化することができます。ここでのdは時点1での預金の額面価値を示しているとします。


確率的な資産のリターンという形でリスクを導入することで、Diamond-Dybvigが指摘するような自己実現の予測あるいはsunsupotのコーディネーションによる銀行取付を引き起こさないということにはなりません。事実、Diamond-Dybvigモデルは、現在のモデルをR_{H}=R_{L}とした特別なケースです。銀行取付の説明を区別するため、Diamond-Dybvigの(特有の)現象を仮定により排除し、避けられない「本質的」な銀行取付のみを考えましょう。ざっくりといえば、もし取り付けがないと同時に取り付けも起こるという(複数)均衡が存在するのであれば、ここで考える均衡は、銀行取付があるというより、むしろ銀行取付がないという世界を考えるということです。


ここで、銀行は0時点でポートフォリオ(x,y)と預金契約dを選択するとします。時点1では、予算制約は、


\lambda d\le y


を満たす必要があります。また、一般性を失うことなく、この制約を満たすように、銀行は常に(x,y)とdを選択すると仮定することができます。そうでなければ、銀行は常にでオフとしなければならず、dの価値は関係なくなるのです。その結果、late consumerの消費は、取り付けが起こらないという条件の下では、


(1-\lambda) c_{2s} =R_{s}(1-y)+y -\lambda d


となります。これは、c_{2s}\ge dである場合、あるいは、


d \le R_{s} (1-y)+y


である場合に銀行取付が起こらないということと一貫性があります。この最後の不等式はincentive constraintと呼ばれます。もしこの不等式が満たされれば、late consumerは時点2まで引き出しを待つという均衡が存在します。私たちは本質的な取り付けのみを考えていますから、銀行取付の必要十分条件は、incentive constraintを満たさないケース、すなわち、


d>R_{s}(1-y)+y


ということになります。R_{H}>R_{L}となりますから、この条件により、状態Hの場合は本質的な取り付けは決して起こらず、状態Lでは取り付けが起こることになります。取り付けが常におこるほど大きなdを選ぶことはできませんから、銀行取付が起こる場合は、状態Lのケースに絞ることができます。ここでは考えるべき3つのケースがあります。一つは、incentive constraintがバインドすることは決してなく、破産は起こらないというケースです。二番目は、倒産は起こるものの、銀行はincentive constraintを満たすように預金契約とポートフォリオを選択することを最適とするというものです。この均衡では破産は起こりません。三番目のケースは、預金契約とポートフォリオの選択をゆがめるコストが大きいため、銀行は状態Lが実現したとき、倒産することを最適とするというものです。


Case Ⅰ: The incentive constraint is not binding in equilibrium


このケースでは、銀行の意思決定問題をincentive constraintを考えずに解き、そのconstraintがバインドしているかどうかをチェックします。銀行は、取り付けがないと仮定したうえで、ポートフォリオyと預金契約dを預金者の期待効用を最大化するように選択します。確率\lambdaで預金者は、early consumerであり、状態にかかわらずdを受け取ります。確率1-\lambdaで預金者はlate consumerであり、消費量はリスク資産のリターンに依存します。状態sにおける総消費は、リスク資産のリターンに、early consumerが受け取った後の安全資産のリターンの残る分を加えたもの(R_{s}(1-y)+y-\lambda d)になります。典型的なlate consumerの消費はlate consumerの人数である1-\lambdaで割った値そのものになります。したがって、期待効用は、


 \lambda U(d) + (1-\lambda ) \{ \pi_{H} U( \frac{R_{H}(1-y)+y-\lambda d}{1-\lambda } ) + \pi_{L} U( \frac{R_{L}(1-y)+y-\lambda d}{1-\lambda } )\}


になります。この式は、フィージビリティ制約である0 \le y \le 1\lambda d \le yを制約の下で最大化されます。


最適なポートフォリオでは、[tex:0 R_{L}(1-y)+y]



U^{***}>U^{**}


である場合にのみ、均衡解となります。


最初の条件はincentive constraintが満たされないことを保証します。その結果、銀行は状態Lでデフォルトします。二番目の条件は、デフォルトは支払いを行うより好ましいことを保証します。そうでなければ、銀行は(d^{**},y^{**})を選好し、デフォルトは起こらないことになります。

3.4 BANKING SOLUTAION


銀行は、預金者の投資をプーリングすることによって、preference shockに対する保険を提供し、early consumersに長期資産の高いリターンをシェアさせます。銀行は、時点0で各々のエージェントから1単位の財を受け取り、x単位の長期資産とy単位の短期資産からなるポートフォリオ(x,y)に投資します。この経済では集計レベルでの不確実性がないので、銀行は各々の消費者に対して、確定的な消費プロファイル(c_{1},c_{2})を提供することができます。私たちは、(c_{1},c_{2})を、預金契約と見なすことができます。ただし、このケースでは、預金者は時点1にc_{1}引き出すか、時点2でc_{2}引き出すというどちらかの権利しかありません。


銀行セクターには自由に参入できるとします。それより、銀行同士が競争することで、事前で見た預金者の期待効用を、ゼロ・プロフィット(フィージブル)制約の下で最大化することになります。事実、銀行は、前のセクションで議論したプランナーとまったく同じポジションを持つことになります。事前0では、銀行は、下記の予算制約に直面します。


x+y \le 1\cdots(3.8)


時点1では、銀行は下記の予算制約に直面します。


\lambda c_{1} \le 1 \cdots(3.9)


1期から2期へ短期資産を保有することで購買力を移転することが決して最適にならないことを思い出すと、2期(third date)の銀行の予算制約は、


(1-\lambda)c_{2} \le Rx \cdots(3.10)


となります。形式的には、銀行の問題は、典型的な預金者の期待効用を(3.8)-(3.10)という予算制約の下で最大化します。


\lambda U(c_{1})+(1-\lambda)U(c_{2})


ここでは、明示的にincentive-compatibility制約を課しません。というのも、前も見たとおり、その制約に縛られない最適化問題の解は、自動的にincentive constraintを満たすからです。


c_{1} \le c_{2}


したがって、銀行は消費者にとってファースト・ベストなアロケーションを実現することができるのです。


ここで、この銀行行動の説明方法は、この章の最初で述べた「銀行理論が見たすべき4つの要素」の3要素を満たしている点を指摘しておきます。


●この議論は銀行資産のmaturity structureのモデル化をしています。このケースでは、銀行の資産は1というリターンをもたらす流動性資産とR>1というリターンをもたらす非流動性資産の二つの資産を考えています。


●この議論は、流動性選好の理論も提示しています。すなわち、消費のタイミングに関する不確実性もモデル化しています。maturityのミスマッチは、投資を行ったタイミングで、消費のタイミングについてのpreferenceが不確実であるという形で起こっているのです。


●この議論では、銀行は、流動性ショックに対して預金者に保険を提示するintermediaryとしています。リソースをプール化し、引き出し時点に依存した消費という形のinsurance contractを受け取るという形で、投資家はより良い流動性サービスを受け取ることができるし、オータルキーあるいは資産市場より良い投資リターンを教授できるのです。


前セクションで提示されたefficient allocationの性質は、もちろん、銀行のアロケーションでも適用されます。したがって、ここでは、その議論を繰り返すことはしません。その代わり、最適なリスクシェアリングを達成する上で、銀行が持っている特有の脆さ(fragility)にフォーカスしたいと思います。


3.5 BANK RUNS


この章の最初では、Bryant[1998]とDiamond/Dybvig[1983]の画期的な論文によってなされた銀行理論が4つの貢献をもたらしたという話をしました。我々は、最初の3要素について議論しましたが、ここでは4番目の要素、すなわち、銀行取付(Bank run)の説明をしたいとと思います。このセクションでは、銀行取付をパニックあるいはself-fulfilling propheciesとしてモデル化します。その後、銀行取り付けは、景気循環の過程で起こったファンダメンタルな要素の結果という側面についても議論します。


まず、(c_{1},c_{2})は最適な預金契約であるとし、(x,y)は銀行の最適なポートフォリオであるとします。集計レベルでの不確実性はありませんから、(x,y)は、1期にearly consumerが引き出し、2期にlate consumerが引き出すという形で、各々の時点で適切な量を配分することになります。これは均衡といえます。というのも、銀行はその目的である預金者の厚生を最大化しており、early consumerとlate consumerは各々の消費を最大化するよう引き出しを行うことができるからです。


これまで、我々は長期資産を完全に非流動的なものとして取り扱ってきました。すなわち、長期資産を時点1で消費にかえる術を持っていなかったのです。ここでは、そうではなく、流動性資産を時点1で消費にかえるliquidation technologyがあると想定しましょう。より正確に言うならば、我々は、


●もし長期資産が時点1にliquidateされるのであれば、1単位の長期資産はr\le1単位の財しかもたらさないとする


という仮定を置くことにします。この仮定の下では、長期資産は(R-r)というロスを伴い事前に流動化がなされることになります。もし、時点1で消費者が引き出したいときに、その要求を満たすため資産を流動化しなければならないとすれば、もう一つの均衡が存在することになります。これをみるため、すべての預金者がearly consumerであるかlate consumerであるかによらず、時点1に引き出すことを考えます。時点1で銀行の資産を流動化すると、その価値は、


rx+y \le x+y=1


となります。それゆえ、銀行は時点1では1単位以上を預金者に支払うことができない可能性があります。もし、c_{1}>rx+yとなるイベントがあれば、銀行は支払いを行うことができず、約束した額の一部しか支払えないことになります。より重要なことは、銀行のすべての資産が、early consumerの要求を満たすために、1時点で使われてしまうということです。このことは、最後まで待つ者は何も得られないということになります。このように、late consumerがすべての人々が1期に引き出しを行うと考えている限りにおいて、late consumerは1期に引き出し、2期目まで貯蓄することが最適な行動となります。したがって、銀行取付は均衡となることがわかります。次のペイオフ行列(payoff matrix)は、このcoordication gameの二つの均衡を説明しています。行は、あるlate consumerの行動に対応し、列はその他のlate consumerの行動に対応します。(注意:これは2×2のゲームではありません。列で表される行動は、あるlate consumer以外の全員の行動をさしています。) ペイオフのペアは、区別されたlate consumer(最初の要素)と典型的なlate consumer(二番目の要素)を示します。


[図表]


明らかなことは、


[tex:01]


という不等式を満たします。この条件は、取り付けの可能性があることを意味します。もしすべての預金者が1時点で引き出しをしようとすれば、消費の総需要は、c_{1}^*>1となりますが、長期資産をすべて流動化することによって得られる最大値は1になります。しかしながら、時点2には何ものこされませんから、預金者は2期目まで待って引き出すより、引き出しに走ったほうが良いことになります。


以下では、個人の選好が、


●相対的リスク回避度が1を超える、すなわち、


-\frac{U''(c)c}{U'(c)}>1, \forall c>0


を満たすとします。均衡の特性を簡単化するため、長期資産を流動化する場合、短期資産と同じリターンをもたらす特別なケースを考えます。すなわち、


●長期資産の流動化価値はr=1


となります。このことは、長期資産が短期資産を支配するということです。したがって、一般性を失うことなく、銀行のポートフォリオ全体は長期資産にのみ構成されるということになります。

銀行取付のイベントでは、銀行のポートフォリオ流動性価値は、1単位の財なります。それゆえ、すべての預金者の商品は1単位の財ということになります。もし銀行に支払い世慮置くがあれば、預金者は(c_{1},c_{2})という約束された消費のプロファイルを受け取ることになります。この量は、銀行が支払い可能である場合に適用されるわけですから、銀行が支払い可能である場合の典型的な消費者の期待効用は最大化されることになります。預金契約は、


 max \lambda U(c_{1})+(1-\lambda)U(c_{2})

s.t. R\lambda c_{1}+(1-\lambda)c_{2} \le R


という意思決定問題をとくことになります。なぜ予算制約がこの形をとるかというと、銀行は、early consumerに対して、総額\lambda c_{1}を約束しているからであり、このことから、銀行は1時点で長期資産を\lambda c_{1}だけ流動化する必要があるからです。残された長期資産は(1-\lambda c_{1})であり、これは時点2においてR(1-\lambda c_{1})をもたらします。したがって、late consumerに約束された額である(1-\lambda)c_{2}の最大値は、R(1-\lambda c_{1})以下でなければなりません。その結果、時点1における消費財一単位は、時点2の消費R単位に相当することになります。


Equilibrium without runs


これまで、銀行取付が\piという確率で起こり、銀行はこの確率を所与とした上で最適な預金契約を結ぶとしました。しかし、銀行は十分に「安全」な契約を選択することで取り付けを防ぐことが可能になります。時点1において銀行取付の均衡が存在するという議論では、c_{1}>1という仮定に基づいていることを思い出しましょう。このように、もしすべてのlate consumerが時点1に引き出しに走り、銀行はc_{1}を全員に支払わざるを得ないのです。事実、銀行はすべての資産を流動化しなければならず、ポートフォリオの流動化価値である1を、各々の預金者に支払うことが可能となります。より重要なことは、時点1で銀行の資産がすべて使われてしまうことから、時点2まで引き出しを待つ人は何も得られないことになるということです。


引き出しに走るインセンティブをそぐため、銀行はc_{1} \le 1という追加的な制約を満たす預金契約を選ぶ必要があります。もし、我々が、


 max \lambda U(c_{1})+(1-\lambda)U(c_{2})

s.t. R\lambda c_{1}+(1-\lambda)c_{2} \le R

c_{1} \le 1


という問題を解くのであれば、我々は、(c_{1}^{**},c_{2}^{**})=(1,R)という解を得ることになります。このケースでは、銀行は時点1で約束した支払いであるc_{1}を与えることができるし、引き出しを2期まで待つlate consumerは、すくなくともR>1だけ支払える余力があるということになります。より正確に言えば、もし1-\epsilonの預金者が1期に引き出した場合、銀行は1 - \epsilon単位の長期資産を中道化しなければならず、\epsilonだけの長期資産がlate consumerへの支払いとして残されることになります。したがって、時点2に引き出す預金者は、\epsilon R/\epsilon = R>1を受け取ることになるのです。


A characterization of regimes with and without runs


もし銀行が確率\piで取り付けを予測すれば、確率\piで預金者の消費額は、自らのタイプによらず1になります。確率1-\piで銀行取付はなく、確率\lambdaで預金者はearly consumerであり、消費量はc_{1}^*となります。また、確率1-\lambdaで預金者はlate consumerとなり、消費量はc_{2}^*となります。ありえる結果はFigure3.3に描かれています。典型的な預金者の期待効用は、


\pi U(1)+ (1-\pi) \{ \lambda U(c_{1}^*)+(1-\lambda) U(c_{2}^*) \}


となります。銀行のポートフォリオ選択は(x,y)=(1,0)となり、預金契約(c_{1}^*,c_{2}^*)は、\piの確率で取り付けが起こることを所与として、この目的関数を最大化します。


逆に、もし銀行がすべての取り付けを防ぐ預金契約を結ぶとしてとすれば、典型的な預金者の期待効用は、


\pi U(c_{1}^{**})+ (1-\pi)  U(c_{1}^{**}) =\lambda U(1)+(1-\lambda)U(R)


となります。銀行が取り付けを防ぐか、確率\piで取り付けのリスクを受け入れるかは、各々のケースの期待効用の比較に依存します。正確に言えば、もし、


 \pi U(1) + (1-\pi) \{ \lambda U(c_{1}^*) +(1-\lambda ) U(c_{2}^*) \} > \lambda U(1) + (1-\lambda ) U(R)


である場合、取り付けを防ぐことがより良い状態をもたらします。上式側は、次の二つの凸(convex)の組み合わせになります。すなわち、銀行がデフォルトする際に受け取るU(1)という預金者の効用と、銀行が支払い可能である際の、\lambda U(c_{1}^*)+(1-\lambda)U(c_{2}^*)]という効用の組みあわせです。ここで、\lambda U(1) + (1-\lambda) U(R)という安全な戦略から得られる効用は、


U(1)<\lambda U(1)+(1-\lambda)U(R) < \lambda U(c_{1}^*) +(1-\lambda )U(c_{2}^*)


という二つの値の間の値ということになります。したがって、


\pi_{0}U(1) + (1-\pi_{0}) \{ \lambda U(c_{1}^*) +(1-\lambda) U(c_{2}^*) \} = \lambda U(1) +(1-\lambda) U(R)


を満たすユニークな値0<\pi_{0}<1が存在します。もし\pi=\pi_{0}であれば、二つの戦略は銀行にとって無差別ということになります。明らかに、銀行は\pi<\pi_{0}であれば取り付けを好み、\pi > \pi_{0}であれば取り付けがないことを好みます。これらの位置関係は、Figure 3.5に描写されています。


私たちが示したことは、銀行取付の確率が十分に低い限りにおいて、銀行は取り付けが起こるリスクを受け入れるという均衡が存在するということです。というのも、取り付けを防ぐコストが、防ぐことから得られるベネフィットを上回るからです。このようなケースでは、もしsunspotが高い値をとれば取り付けは起こるし、逆は逆ということになります。しかしながら、取り付けが起こる確率の上限(1以下)はあります。もし取り付けの確率が高すぎれば、銀行は取り付けを防ぐために行動を起こすため、預金者は適切なタイミングで引き出しを行うことが最適になるのです。


注意すべきことは、私たちはsunspotを特定化していないということです。それは外からみれば、確率\pi < \pi_{0}で特定の値をとる確率変数ということになります。もしそのような変数が存在すれば、預金者は原則、銀行取付の均衡をサポートするため、その変数をコーディネートすることになります。

参考

このあいだ演習で僕がテイラー・ルールの話をした際に詳細した本は「脱線FRB」です。同書は電車の中でも読むことができる類の書籍であるため、ぜひ参照してみてください。


脱線FRB

脱線FRB


また、その際、ラジオでテイラーによるテイラー・ルールの説明が聞けると話しましたが、それは下記のサイトで聞けます。英語が苦手だととっつきにくいかもしれませんが、使っている英語はすごくシンプルなので、ipodなどに入れてきいてみてください。

http://www.econtalk.org/archives/2009/07/john_taylor_on_1.html


あと、僕と先生が資産価格にテイラールールを反応すべきかといった議論をしましたが、下記のサイトに基づいています。こちらもご参照ください。

http://www.rieti.go.jp/users/kobayashi-keiichiro/serial/11.html

3章 はじめに

1945年から1971年のBretton Woods体制が敷かれた期間を除き、過去150年の間で金融危機はかなり頻繁に起こっていたということを1章で確認しました。伝統的には金融危機を理解する方法は二つあります。ひとつは金融危機はパニックから起こるというものであり、もうひとつは、景気循環の一部が根本的な原因というもので、両方とも長い歴史を持っています。たとえば、Friedman/Schwartz[1963]とKindleberger[1978]によれば、多くの銀行危機は、パニックから起こります。すなわち、銀行が倒産する際、支払いができない(insolvent)というより、流動性(liquidity)に問題があると考えるのです。一方、Mitchell[1941]などは、金融危機は、預金者が経済のファンダメンタルが将来悪化すると考えたときに起こるものだとします。すなわち、預金者は将来企業のデフォルトが起こることで、銀行が預金の支払いをできなくなることを予測し、今、お金を銀行から引き出すことになります。この場合では、流動性というより支払いの不全を予想していることになります。本章では、この両方のアプローチを取ることになります。


銀行の経済理論は200年以上の歴史を持ちますが、現代的な意味での銀行モデルは、Bryant[1980]とDiamond/Dybvig[1983]という重要な論文によって提示されました。これらの論文が出版されることで、銀行の理論が重要な進歩を遂げたのです。これらの論文の目的は「取り付け」(Bunk Run)を説明することでしたが、ミクロ経済学を用いて、銀行をその他の金融機関と分けて説明したという意味でも、重要性の高い論文といえます。実際、これらの論文は、銀行の理論において四つの異なる要因を考えています。


● 銀行の期間構造(maturity structure):流動性の低い資産は高いリターンをもたらす。

流動性選好の理論(a theory of liquidity preference):消費のタイミングにおける不確実性のモデル化

流動性(選好)ショックに対する保険を預金者に与えるという中間機関(intermediary)として銀行を表現

● 預金者による銀行取り付けの説明。Diamond/Dybvig[1983]の場合、銀行の取り付けを自己充足的予言(self-fulfilling prophecies)あるいはパニックとしてモデル化。Bryant[1980]の場合、ファンダメンタルズの結果として銀行の取り付けをモデル化。


本書のセクション3.1-3.4では、Byrant[1980]とDiamond/Dybvig[1983]のモデルに概ね基づき、これらの要素がどのように構成されているかについて示します。セクション3.5と3.6では、パニックから危機が起こる考え方に基づくモデルを見ます。セクション3.7ではファンダメンタルから危機が起こるという見方に基づいたモデルを見ます。セクション3.8は、文献紹介(Literature Review)であり、セクション3.9が結語となります。


3.1 The Liquidity Problem


銀行が流動的な負債をもち、非流動的な資産をもつことは明白です。言い換えるならば、銀行は資金の借り入れを短期で行い、資金の貸し出しを長期でおこなっているのです。このことにより、銀行が突然の流動性需要にとって脆弱になるのですが(銀行の取り付け)、この議論の詳細は後に回しましょう。このような満期(maturity)のミスマッチは、経済の構造からきています。すなわち、個人は流動性を求めていますが、一方で収益性の高い投資機会は、利益が実現するまで時間が必要になるのです。そのような中、銀行は、技術と流動性選好の間に時間的なギャップがあるということを効率的につなぐ、という仕事をしています。


私たちは、2章で時間の構造をモデルに導入しました。すなわち、3期間を考え、t=1,2,3という形で時間をモデル化しました。各々の時点で、ひとつの財(goods)があり、これが消費、投資、そして、ニューメレール(numeraire)として用いられるものとします。その上で、以下の2種類の資産があるとしましょう。


流動性資産(liquid asset、短期資産[short asset]とも呼ぶ):現時点で一単位投資した場合、次期に一単位のリターンをもたらす。

●非流動性資産(illiquid asset、長期資産[long asset]とも呼ぶ):現時点で一単位投資した場合、2期後にR>1のリターンをもたらすが、次期に換金した場合、[tex:13.2 market equilibrium


流動性の問題を解くために金融仲介機関(intermediaries)を使う前に、市場における解決方法を考えましょう。2章で考えたようなシチュエーションを考えましょう。すなわち、投資の満期と流動性選好のマッチングの問題を考える際、個人は資産のトレーディングができず、自分の今のポジションから得られるリターンから消費を行わなければならないと仮定します。このような状態をオータルキー(autarky)といいます。オータルキーの仮定は非現実的です。というのも、消費者はしばしば流動性を得るために、資産を売ることができるからです。実際、資産市場の重要な目的のひとつは、消費者に流動性を提供することにあるのです。したがって、市場で非流動資産を売る(すなわち、流動化する)ことで何が起こるのかを考えることは興味深くあります。


このセクションでは、自らのタイプがわかる時点1に保有している非流動性資産を売るマーケットがあるとします。したがって、もし自分がearly consumerであることがわかれば、市場における価格で持っている非流動性を売り、消費をすることになります。資産市場が存在するということは、予想ができ、かつ、確かな価格で、資産を販売できるという意味で、必要あらば、非流動性資産を流動性資産に換えることができます。


1期目に非流動性資産を売ることができるということは、流動性ショックに対して、ある種の保険を提供することになります。オータルキーという何も取引できない状況から比べれば、消費者の状況は少なくとも改善することになります。しかしながら、条件付請求権(contingent claim)が完璧にそろっているマーケットから比べれば、劣ることになります。たとえば、1期にearly consumerであったかlate consumerであったかというイベントに基づいて、トレーディングを行うという形で保険を購入したいと思うかもしれません。もし時点0期において、すなわち、自らのタイプがわかる前に条件付請求権をトレーディングすることができるのであれば、最適なリスクの契約(optimal risk contract)を行うことができるのです。条件付請求権を取引するマーケットがないということは、消費者がファースト・ベスト(first best)を実現することができないということの説明になるのです。


時点0において、消費者は1単位の財を与えられ、将来の消費のために流動性資産か非流動性資産に投資するものとします。非流動性資産の保有比率をxとし、流動性資産の保有比率をyとし、個人のポートフォリオ(x,y)としましょう。時点0における消費者の予算制約は、


x+y \le 1


になります。時点1では、消費者はearly consumerかlate consumerであるかがわかります。もし自分がearly consumerであれば、ポートフォリオを流動化し、消費を行うことになります。ここで非流動性資産の価格をPで表すことにしましょう。この場合、流動性資産を持っていることは、y単位の財をもたらすことになります。一方、非流動性資産を持つ場合、(これを1時点で売ることになりますから)Pxの財をもたらすことになります。したがって、時点1における消費は、


c_{1}=y+Px


という予算制約に従うことになります。もし消費者がlate consumerであれば、ポートフォリオのリバランシング(見直し)を行う必要があります。late consumerの最適な消費を計算する上で、時点1においてすべての資産を非流動性資産に投資していると考えても、議論に一般性は失われません。といのも、時点1から時点2という期間では、流動性資産のリターンが非流動性資産のリターンに弱支配(weakly dominated)されるからです。流動性資産のリターンが、非流動性資産のリターンに勝るものとしましょう。この場合、誰も非流動性資産を時点1に持ちたがりませんから、市場取引は成立しません。このように、均衡において、二つの資産のリターンは等しいか、あるいは、非流動性資産のリターンは流動性資産のリターンを上回らなければならないのです(すなわち、時点1において誰も流動性資産を持ちません)。このことは、P \le Rが均衡で成立することになり、late consumerにとって時点1において非流動性資産のみを持つことが最適な行動となるのです。したがって、late consumerによって非流動性資産を保有される量は、x+y/Pとなります。というのも、彼は最初にxという量だけ非流動性資産を持っていますから、流動性資産をy/Pだけトレーディングすることになるのです。したがって、時点2での消費は、


c_{2}=(x+\frac{y}{P})R


という予算制約を満たすことになります。


時点0において、投資家は下記のように、期待効用を最大化するようにポートフォリオ(x,y)を決めます。


\lambda U(y+Px)+(1-\lambda)U[ (x+\frac{y}{P})R ]


時点0における投資家の意思決定は、もし非流動性資産の均衡価格がP=1に決まれば、単純化されることになります。これをみるために以下のようにして考えてみましょう。P>1である場合、非流動性資産は流動性資産より魅力的になりますから、誰も時点0で流動性資産を持たないことになります。この場合、early consumerは非流動性資産を時点1で売却しようとしますが、誰も買い手がいないことになります。したがって、価格は下落しP=0となり、(P>1に)矛盾することになります。逆に、P<1を考えてみましょう。この場合、流動性資産は非流動性資産より魅力的になりますから、時点0で誰も非流動性資産を持たなくなります。early consumerは時点1で、P<1で非流動性資産を売却し、流動性資産から得られるリターンから消費をすることになります。一方、late consumerは非流動性資産を購入し、R/P>Rとなるリターンを得ようとします。結局、非流動性資産を誰も持とうとしませんから、価格はP=Rまで上昇することになり、(P<1も)矛盾することになります。このことから、均衡ではP=1となることがわかります。この価格において、二つの資産は完全に同じリターンをもたらしますから、完全に代替的な商品になります。消費者のポートフォリオの選択は、取るに足らない問題になるのです。以上の結果を考えると、消費者の消費量は、時点1では、


c_{1}=x+Py=x+y=1


となり、時点2では、


c_{2}=(x+\frac{y}{P})R=(x+y)R=R


になります。したがって、均衡での期待効用は、


\lambda U(1) +(1-\lambda)U(R)


となります。ここで実現する厚生(welfare、[消費者の満足量])は、流動性ショックに対して保険を与える銀行システムを持つことの価値を図る上で、ベンチマークとなります。


The value of the market


明らかなことは、消費者はオータルキーである状態に比べ、資産市場にアクセスできることで少なくとも状況を改善することができるということです。通常、何らかの改善がなされます。このことを示すために、マーケットにおける均衡配分(c_{1},c_{2})=(1,R)と、オータルキーにおけるフィージブルな配分を比較する必要があります。


2章で見たように、もし消費者が資産市場にアクセスすることができなければ、オータルキーの状態を余儀なくされ、early consumerの消費は、流動性資産の保有割合であるyになります。一方、late consumerの消費量はRx=R(1-y)となります。したがって、可能となる消費は、


c_{1}=y
c_{2}=y+R(1-y)


となります。この場合、yは0から1の間の値をとることになります。消費は、figure 3.1ではこのように示されます。


[図表:3.1を挿入]


図表でしめされているように、early consumerの消費量の最大値は、y=1のとき達成できるc_{1}=1となりますし、late consumerの消費量の最大値は、y=0の時に達成できるc_{2}=Rになります。したがって、マーケットの配分である(c_{1},c_{2})=(1,R)は、すべてのフィージブルなオータルキーの配分を上回ることになります。したがって、資産市場にアクセスできることは、期待効用を増加させることになるのです。


マーケットによって、投資家は、時点2において保有している非流動性資産を価格P=1で販売することが可能になります。資産市場が完全に競争的(perfectly competitive)であるため、投資家が均衡価格で好きなだけ資産を売り買いできることになります。このことが意味することは、価格がトレードされる資産の量に依存しないという意味で、マーケットが「完全に流動的」(perfectly liquid)ということを意味します。しかしながら、流動性の供給は非効率です。このことの詳細については後に議論しますが、この非効率性について簡単な説明をしておくと、この経済の問題は市場が非完備(incomplete)という点です。特に、投資家が1期目に判明する自分のタイプに依存して財を購入するマーケットが0時点に存在しないのです。もしそのようなマーケットが存在すれば、均衡はぜんぜん違ったものになるのです。


私たちは、流動性の効率的な供給を定義するため、中央計画者(central planner。以下、プランナー)を導入します。すなわち、プランナーは経済における配分の意思決定を行うことができるものとし、プランナーによって厚生(welfare)の水準が決まります。この水準を流動性の効率的な供給の定義として使います。まず、プランナーは、誰がearly consumerであり、late consumerであるかを知るなど、経済について完全情報を持っているものとします。この仮定は後に緩和されます。


プランナーは、per caitaでみたxを非流動性資産に投資し、per capitaでみたy流動性資産に投資します。その際、プランナーは、時点1におけるearly consumerのper capitaでみた消費量を選択する一方、時点2におけるlate consumerのper capitaでみた消費額c_{2}を選択します。プランナーは、フィージブルアロケーションを選択する必要がありますが、その他の条件には従う必要はありません。時点0では、フィージビリティ・コンディションは、単純にper capitaで見た投資額が、per capitaでみたendowmentに等しいというものになります。


x+y=1 \cdots(3.1)


二期目のフィージビリティ・コンディションは、per captaでみた総消費が流動性資産のリターン以下でなければなりません。early consumerの割合は\lambdaであり、early consumer各々は、c_{1}を約束されているため、per capitaでみた(たとえば、人口比でみた一人当たりの)消費額 c_{1}\lambda c_{1}となります。その際、フィージビリティ・コンディションは、


\lambda c_{1} \le y \cdots(3.2)


となります。もしこの不等式が厳密に成立していれば、何らかの財を流動性資産に再投資し、2期目に消費することができることになります。このことから、(per capitaでみた)時点2における総量はRx+(y-\lambda c_{1})となります。一方、2期目のper capitaでみた(人口比でみた一人当たりの)総消費は(1-\lambda)c_{2}となります。というのも、late consumerの割合は(1-\lambda)であり、各々はc_{2}を約束されているからです。したがって、フィージビリティ・コンディションは、


(1-\lambda) c_{2} \le Rx+(y-\lambda c_{1})


であり、これは、


\lambda c_{1} +(1-\lambda )c_{2} \le Rx +y \cdots(3.3)


と記載することができます。プランナーの目的は、(3.1)-(3.3)のフィージビリティ・コンディションを満たした上で、ポートフォリオ(x,y)を選択し、典型的な投資家の期待効用(expected utility)である


 \lambda U(c_{1}) + (1-\lambda)U(c_{2})


を最大化する消費のアロケーション(c_{1},c_{2})を選ぶことです。


このことは、なかなか複雑な問題に思われますが、工夫をすればシンプルな問題に直すことができます。まず、時点1から時点2かけて流動性資産をもつことは決して最適にはならないということを考えます。このことを見るために、y>\lambda c_{1}を考え、1期目に何らかの財を残すものとしましょう。この場合、\epsilon>0だけ時点0に流動性資産に対する投資を削ることができますから、その分だけ非流動性資産に投資することができます。時点2において、\epsilonだけ流動性資産が少なくなりますが、\epsilonだけ非流動性資産が増えることになります。財でみたネットの変化量は、R\epsilon - \epsilon=(R-1)\epsilon>0となりますから、early consumersの消費に影響を与えることなく、late consumerの消費を増加させることが可能になるのです。このことは、最適なプランでは決して起こりませんから、最適なプランにおいて、\lambda c_{1}=y(1-\lambda)c_{2}=Rxとならなければなりません。したがって、xyが一度決まれば、最適な消費のアロケーションは、


c_{1}= \frac{y}{\lambda}


c_{2}=\frac{Rx}{1-\lambda}


という形で決まるのです。(ここでは以下のことを思い出してください。すなわち、yは人口比で見た流動性資産のリターンです。その一方、c_{1}は典型的なearly consumerの消費量であり、c_{1}yより大きくなります。同じように、c_{2}は典型的なlate consumerの消費であり、人口比でみた比流動性資産のリターンを上回ることになります)。もし消費に関するこれらの関係式を目的関数に代入し、時点0のフィージブル・コンディションをx=1-yと書けば、プランナーの問題は、


\lambda U(\frac{y}{\lambda}) + (1-\lambda) U ( \frac{R(1-y)}{1-\lambda} ) \cdots(3.4)


を最大化するy(0から1の値)を選択すればよいことになるのです。y=0y=1という形で境界線上が解になる可能性を排除すれば、yの最適なチョイスのために必要となる条件は、(3.4)の微分(derivative)がゼロになりなります。この関数を微分し、ゼロとおけば、


\lambda U'(\frac{y}{\lambda}) + (1-\lambda) U'( \frac{R(1-y)}{1-\lambda} ) =0


となります。あるいは、消費水準を代入すれば、


U'(c_{1})=U'(c_{2})R \cdots(3.5)


となります。この一階の条件(first-order condition)にはいくつかの面白い点が見て取れます。まず、\lambdaという値がこの方程式には現れてきません。すなわち、目的関数を微分する際に、\lambdaがドロップしたのです。この結果の直感的な理由は、\lambdaは目的関数とフィージブル・コンディションにシステマティックに出てくるということです。\lambdaが増加することは、目的関数におけるearly consumerのウェイトが高まることを意味しますが、同時に、per capitaで見て彼らに与えるコストも増加することを意味するのです。この二つの効果がキャンセル・アウトし、最適な消費水準が変化しないわけです。


The Inefficiency of the Market Solution


二点目に指摘することは、マーケット・ソリューションの(非)効率性にかかわるものです。プランナーの問題にとって、フィージブルな消費のアロケーションは、figure 3.2のようにあらわされます。0から1の間となる各々のyに対し、消費のアロケーションは、


c_{1}=\frac{y}{\lambda}

c_{2}=\frac{R(1-y)}{\lambda}


という方程式によって定義されます。early comsumerの消費は、y=1のとき最大化され、この場合は、(c_{1},c_{2})=(1/\lambda,0)となります。同じように、late consumerの消費は、y=0の際、最大化されますから、この場合、(c_{1},c_{2})=(0,R/(1-\lambda))となります。消費の方程式は、yに関して線形(linear)ですから、(1/\lambda,0)(0,R/(1-\lambda))の間を結ぶラインのどのポイントでも達成することができます。このフィージブルなフロンティアは図表に記載されています。効率的なポイントは、消費者の無差別曲線(indifference curve)とフィージブル・フロンティアが接する(tangency)ところで決まります。消費者の選好(preference)次第で、接するポイントは、フィージブル・フロンティアのどの点でもありうるのです。


マーケットのアロケーションは、フィージブル・フロンティアの中にあります。単純に、y=\lambdaとおくと、


(c_{1},c_{2})=(\frac{y}{\lambda},\frac{R(1-y)}{1-\lambda})=(1,R)


となります。このアロケーションは、効率的になりえますが、普通はそうではありません。これをみるために、たまたまマーケットの均衡がプランナーの問題と同じアロケーションとなったとします。この際、(3.5)の一階の条件(first order condition)は、


U'(1)=U'(R)R


となります。特別なケースにおいては、この条件は満たされるかもしれません。たとえば、投資家が対数効用関数(logarithmic utility function)であるU(c)=ln cを持っているとしましょう。この場合、U'(c)=1/cとなります。この表現を方程式に導入すれば、左辺はU'(1)=1となり、右辺は、U'(R)/R=(1/R)R=1となります。この特別なケースでは、流動性のマーケットの供給は効率的ということになります。つまり、プランナーはマーケット以上に状況を改善することができないのです。ただ、他の効用関数を想定した場合は、そうともかぎりません。たとえば、投資家の効用が、一定の相対的リスク回避度(constant relative risk aversion)を持っているとしましょう。


U(c)=\frac{1}{1-\sigma} c^{1-\sigma}


ここでの\sigma>0は、リスク回避度の度合いを示しております。この場合、U'(x)=c^{-\sigma}となり、これを効率性の必要条件の式に代入すると、左辺は、U'(1)=1となりますが、右辺はU'(R)R=R^{-\sigma}R=R^{1-\sigma}となります。この場合、\sigma=1のケース(これは対数効用のケースと一致します)を除き、R^{1-\sigma} \not=1となり、プランナーの選択するアロケーションは、マーケットのアロケーションと異なることになるのです。これまでのところ、リスク回避度が1でなければ、プランナーはマーケットより高い期待効用の水準を達成することができます。


Liquidity insurance


(3.5)の一階の条件から得られる3つ目の示唆は、early consumerに与える流動性ショックに対して保険(insurance)を与えるということです。たとえ、効率的なアロケーションであっても、個人は消費に対して不確実性をもっています。一階の条件であるU'(c_{1})=RU'(c_{2})が意味することは、[tex:c_{1}1]だけ消費します。したがって、early consumerの状況はlate consumerにくらべ明らかに悪いということになります。もし消費に対する期待価値(expected value)が一定のままであれば、リスク回避的な投資家は、自分がearly consumerであれば、もっと消費したいですし、late consumerであればそこまで消費したいと思いません。面白い問題は、プランナーが流動性ショックに対して保険を提供し、消費のボラティリティを減らすことができるかということです。これができれば、マーケットで実現するアロケーションに対して、early consumerの消費は増え、late consumerの消費は減ることになります。figure3.2では、マーケット・アロケーションの右側では、c_{1}>1かつ[tex:c_{2}1]と[tex:c_{1}=R(1-y)/(1-\lambda)RU'(R)]


ということになります。十分条件は、cU'(c)cについて逓減(decreasing)するというもので、相対的リスク回避度は1以上、ということになります。


\eta(c) \equiv -\frac{cU''(c)}{U'(c)}>1


もし不等式が逆で、\eta <1であったとしましょう。この場合、ベンチマークとなるケースに比べ、early consumerの消費は減り、late consumerの消費は増えることになります。


c_{1}=y/\lambda<1

c_{2}=R(1-y)/(1-\lambda)>R


この結果に対する直観的な説明は次のようになります。まず、相対的リスク回避度が1になる対数効用(logrithmic utility function)を考えます。この関数は二つの異なるケースの境界線に相当するものです。すなわち、相対的リスク回避度が1であるケースでは、マーケットの結果は効率的であり、特にマーケットの提供する流動性は最適になります。もし相対的リスク回避度が1を超えると、マーケットが提供する流動性の供給は非効率的になります。より効率的なアロケーションは、early consumerの消費を増加し、late consumerの消費を減らすことができる保険によって実現されることになります。もし相対的リスク回避度が1より小さい場合、early consumerの消費が減り、late consumerの消費が増えるということが効率的になることから、パラドキシカルなほど流動性か過度に供給されることになります。


この最後の結果により、保険にはコストがあるということがわかります。early consumerに消費を増やすためには、流動性資産の保有を増やし、非流動性資産の保有を減らす必要があります。非流動性資産のリターンは、流動性資産のリターンより高いですから、プランナーのポートフォリオにおいて流動性資産の保有を増やすことは、ニ期間を通した平均的な消費量を減らすことになります。相対的リスク回避度が1を超える限りにおいて、保険から得られる利得は、すくなくともスタート時点では、コストより大きくなることになります。もし相対的リスク回避度が1以下であるならば、保険のベネフィットは、コストを下回ることになります。非流動性資産を持つことで収益を増加させるために、プランナーは効率的なアロケーションのためリスクを増加させる必要があるのです。


なぜ投資家はマーケット・ソリューションにおいて誤ったポートフォリオを持つのでしょうか。彼らがポートフォリオを決める際、非流動性資産の価格であるP=1に影響を受けることになります。この価格は、0時点で投資家は流動性資産でも非流動性資産でもどちらでもよいという条件からきまります。マーケットからは、投資家が自分のタイプがわかることに基づいた資産に、どれだけ支払ってよいかという情報をもたらしてはくれないのです。結果的に、early consumerとして非流動性資産を売却できる価値、あるいは、late consumerとして流動性資産を買うことができる価値を(マーケットの)価格は反映しないのです。


Complete markets


私たちはセクション3.2で次のような話をしました。すなわち、時点0の時点で、early consumerかlate consumerであるかのタイプに基づいた消費を取引する証券(claim、請求券)を個々人がトレードできるという話です。このような市場が存在すれば、プランナーが実現するリスクやポートフォリオ投資を実現することができます。これまで考えてきたような市場とは異なり、個々人の状況に応じたマーケットがある場合、各々の資産の正しい価値、特に流動性の価値をマーケットに正しく反映させることができ、それゆえ、効率的なアロケーションが実現できるのです。これを見るために、個人は時点1の消費量をearly consumerの場合、価格q_{1}で、late consumerの場合、価格q_{2}で買うことができるとしましょう。これらの価格は、時点0の財という観点で評価されていることに注意してください。時点1の財という観点での時点2におけるimplicitな財の価格は通常、p=P/Rとなります。したがって、個人の時点0での予算制約は、


q_{1} \lambda C_{1} + q_{2}p(1-\lambda)C_{2} \le 1 \cdots(3.6)


となります。この式の左側は、時点ゼロの期待消費の現在価値を示しています(集計レベルでの不確実性はありませんから、各々の個人は各々の時点の財の需要の期待価値を支払うだけになります)。確率\lambdaで時点1の消費量であるC_{1}を需要しますから、\lambda C_{1}の現在価値は、q_{1} \lambda C_{1}となります。同じように、確率1-\lambdaで時点2の消費をC_{2}だけ需要することから、(1-\lambda)C_{2}の現在価値は、q_{2}p_{1}-\lambda ) C_{2}となります。


個人は、(C_{1},C_{2})\lambda U(C_{1})+(1-\lambda)U(C_{2})を(3.6)を制約に最大化しますから、一階の条件は、


\lambda U'(C_{1})=\mu q_{1} \lambda



(1-\lambda)U'(C_{2}) =\mu q_{2}p(1-\lambda)


となります。\mu>0ラグランジュ乗数です。したがって、


\frac{U'(C_{1})}{U'(C_{2})} = \frac{q_{1}}{q_{2}p}


となります。


投資に関する技術は規模に対して収穫一定(constant returns to scale)となっていますから、均衡価格は、二つの無裁定条件(no-arbitrage condition)を満たす必要があります。時点1で1単位の消費を提供するために、時点0で1単位の流動性資産に投資する必要があります。したがって、q_{1}=1である場合、流動性資産から得られる利益はゼロになります。同様に、時点2において1単位の財を提供するため、時点0で非流動性資産に1/Rだけ投資する必要があります。それゆえ、pq_{2}=1の場合、非流動性資産に投資することの利益がゼロになります。このことは、


\frac{U'(C_{1})}{U'(C_{2})}=R


を意味します。この条件は、効率的なリスク・シェアリングのために必要になります。


Private information and investive compatibility


これまで私たちは、投資家がearly consumerであるか、late consumerであるかを含め、プランナーが全て知っていると仮定しました。このことによって、プランナーがearly consumerとlate consumerの消費レベルに違いをつけることが可能になりました。ただ投資家の時間選好(time preference)は、私的情報(private information)である可能性が高いですから、プランナーが投資家のタイプを知っているという仮定は弱くない(restrictive)ということになります。もしこの仮定を緩めるならば、次のような問題に直面します。すなわち、もし時間選好が私的情報であるならば、どのようにしてプランナーは誰がearly consumerであり、late consumerであるかを見つけるのでしょうか。もし個人がウソをつくインセンティブをもたないのならば、プランナーは、彼らが表明したタイプを信じることができるでしょう。すなわち、プランナーが選ぶアロケーションは、incentive-compatibleでなければならないのです。


現在のケースでは、最適なアロケーションがincentive conpatibleであることを示すことはきわめて簡単です。まず、early consumerは自分をlate consumerであると偽ることはありません。late consumerは時点2でc_{2}を与えられますが、early consumerは時点1の消費のみに価値を見出します。それゆえ、early consumerが時点2まで待ってc_{2}を受け取ることは確実に状況を悪化させることになるのです。一方、late consumerについては問題があります。なぜなら、late consumerは時点1にc_{1}を獲得し、時点2までそれを蓄えておくことができるため、early consumerとして自らを偽りうるからです。late consumerが自らの選好を偽る可能性を排除するため、late consumerが少なくともearly consumerと道程の消費ができるようにしなければなりません。そのため、


c_{1} \le c_{2}\cdots(3.7)


という条件がincentive compatibleを満たす条件となります。


運がよいことに、プランナーの問題の一階の条件をみれば、[tex:c_{1}1]かつU''(c)<0ですから、最適なアロケーションは自動的にincentive compatibleとなるのです。


incentive constraint(3.7)を制約として、典型的な投資家の厚生(welfare)で最適化されたアロケーションは、incentive-efficientと呼ばれます。このケースは、incentive constraintは、最適条件(optimum)をバインドしませんから、incentive effientなアロケーションは、ファースト・ベストなアロケーションとなります。


incentive compatiblity conditionは最適なリスク・シェアリングなアロケーションに影響を与えませんが、private informationは銀行の役割を説明する上で重要な役割を果たします。特に、銀行がearly consumerとlate consumerを区別できないによって、消費者すべてが時点1に預金を取り崩す可能性があります。このことが取り付け(bank run)のモデルのクリティカルな特徴となります。


The Banking Solution


銀行は、預金者の投資をプールし、選好のショックに対して保険を与え、early consumerに非流動性資産の高いリターンをシェアさせることを可能とします。銀行は、時点0で各々の消費者から一単位の財を取得し、非流動性資産x、流動性資産yのポートフォリオ(x,y)に投資します。この経済では集計レベルでの不確実性はありませんから、銀行は各々の消費者に非確率的な消費プロファイル(c_{1},c_{2})(ここでは、c_{1}はearly consumerの消費であり、c_{2}はlate consumerの消費です)を与えることができます。私たちは、(c_{1},c_{2})を預金契約と解釈することができます。ただ、この契約において、預金者はc_{1}を第一期、あるいは、c_{2}を第二期のどちらかに預金を引き出すことができますが、両方はできません。


ここでは、銀行セクターには参入障壁がないとします。銀行セクターにおける競争により、利益ゼロの(フィージビリティ)制約の下、典型的な預金者の事前の期待効用を最大化させる必要があります。事実、銀行は、前のセクションで議論したプランナーと同じポジションを持つことになります。時点0で、銀行は、


x+y\le1\cdots(3.8)


という予算制約に従います。時点1では、銀行は、


\lambda c_{1} \le y \cdots (3.9)


という予算制約に従います。流動性資産を持つことで、時点1から時点2に消費を移転することは決して最適にならないことを思い出すと、時点2(third dates?)における銀行の予算制約は


(1-\lambda)c_{2} \le Rx \cdots(3.10)


となります。形式的には、銀行の問題は、典型的な預金者の期待効用を(3.8)-(3.10)を制約に最大化することになります。


\lambda U(c_{1})+(1-\lambda)U(c_{2})


ここでは、incentive-compatibility制約を明示的には課しません。というのも、前節で見たように、(incentinve compatibility)制約を課さない最適な問題の解は、自動的にincentive constraintである


c_{1}\le c_{2}


を満たすのです。したがって、銀行は預金者のためにファースト・ベストなアロケーションを達成することができるのです。


ここで、この章の最初で述べた銀行理論の4要素のうち、3要素をここでの銀行の説明では満たしていることを確認しましょう。


●まず、このモデルは、流動性資産のリターンは低いという形で、銀行の資産の期間構造(maturity structure)のモデルを提示していることになります。このケースでは、銀行の資産は、1のリターンをもたらす流動性資産(liquidity short asset)とR>1のリターンを生む非流動性資産(illiquid long asset)の2資産を持つことになります。


●また、このモデルは、消費のタイミングに不確実性をモデリングすることで、流動性選好の理論を提示しています。期間のミスマッチは、投資家が自分の選考が投資する時点でわからないため発生することになります。


●このモデルで、銀行は預金者に対し流動性(選好)ショックの保険を提供する仲介機関(intermediary)となります。銀行のリソースをプーリングし、取り崩す日にちに依存した消費を約束されるという形で保険契約を受け入れることで、投資家は、流動性のサービスと投資のリターンのよりよい組み合わせを達成することができ、資産市場やオータルキー以上の状態を達成することができます。


効率的なアロケーションの性質は、全セクションから導かれましたが、もちろん、銀行のアロケーションに適用することもできます。したがって、ここではそれを繰り返すことはしません。そのかわりに、銀行が最適なリスク・シェアリングを達成するうえで発生する奇妙な脆弱さにフォーカスしようと思います。


3.5 BANK RUNS