富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-02-23

二月廿三日(金)朝五時半起き。六時に雨のなかホテルからタクシーで東京駅。六時半の成田エクスプレスで成田空港。七時半について出国審査潜りCXのラウンジに着くまで45分。この空港第二ターミナル、規模が大きいようでチェックインカウンターエリアの奥行きの浅さ、手荷物検査から出国審査の天井の低さと圧迫感がお粗末。わが国の首都の空港として華がない。第一ターミナルのほうがぜんぜん良い。第一から第二ターミナルに移ったCXのラウンジは香港のラウンジの内装踏襲し、そりゃきれい。いちおう外景見通せるバーカウンターもあり。ここまでやったならCXの評判の高い「ヌードルバー」設けて香港の雲呑麺、台北の南京牛肉麺に続き日本らしく生蕎麦でも供せばいいのに。睡眠不足で席について昨日の蘋果日報と信報、今日のFinancial Timesに目を通しただけで眠りに落ちる。機中、CXでは個人的にあまり好きではないハーゲンダッツのアイスクリームにかわり、この成田→香港便では森永製のFauchonのアールグレイ味のアイスクリーム供され美味。食後のポートワインで復た眠りに落ちる。飛行機が香港での着陸近いのか機体の高度が下がる感じで目覚めると、肘掛けのテーブルにさりげなく一杯の水とおしぼりが置かれている。CXのこういう配慮が嬉しい。香港空港に着いて思うに、Norman Foster卿のこの設計は個人的にはあまり好きではないが「機能的で」「華がある」ことでは成田の第二ターミナルなど比べ物もなく、何より「空港職員という、言うなれば空港の利用者」が例えば出国審査エリアならその場所に外務省だの法務省から届いた馬鹿馬鹿しいポスターを何ら思考もないままに、ただ「お上からの通知」というだけでべたべた貼っている成田に比べ、設計者の空港建築に託した哲学を壊しておらぬ点で香港の国際空港は「機能している」。飛行機の着陸から預け荷物の受取り、Airport Expressの車中で田中長徳『偽ライカ同盟入門』読了。赤瀬川原平『ライカ同盟』にひっかけてのチョートク先生本。チョートク先生のあの筆致が苦手だと読みづらい。苦手だ、と思った箇所はすっ飛ばして読む。紀宮様の旦那の黒田慶樹氏の中古カメラ好きの下りなど興味深し。飛行機が香港の空港に着陸してから70分後には自宅到着。旅の荷を解き荷物片づけ。また30冊ほどの書籍が新に。すでに書棚には収まりきれず。夕方、先週十七日でお店閉じられた天后の利休へ。この店の胡瓜と茄子の漬物が絶品で、女将さんが手塩にかけて糠漬けされた結果だが、閉業にあたり「この糠漬けが食べられなくなると思うと」と思い最初はバーSのM氏に「胡瓜の糠漬けとかお通しで出せば?」とか提案したがバーが糠味噌臭くては、と断念され結局、うちで頒けていただくことに。その糠床を受取りにお伺いした次第。今後は我が家で利休の糠漬けが継承できるかどうか、である。帰宅して荷物片づけ再会。ドライマティーニなど飲みながらカメラの手入れなどする時が一番楽しい。晩に蕎麦を茹でて食す。いつもの刻み葱と海苔に加え今晩は日本橋「みかわ」の天かす、まで入る。幸せ。食後、Z嬢が銀座ヤマハで購入の井上直幸「ピアノ奏法」のDVDを見る。井上直幸先生はあたしが13歳であったかNHKの「ピアノのおけいこ」に彗星の如く現われ、それまでの「かたくてつまらない」ピアノのおけいこで、いきなりドビッシーとか、それもかなり常軌を逸した面白い曲ばかり取り上げ当時かなり話題になり、あたくしも同じクラスのTさんという女の子の「ありゃ面白すぎ」という話で井上直幸の「ピアノのおけいこ」をかなり見続ける。番組のテキスト(楽譜)もかなり売れた記憶。この天才は64歳だかで亡くなったが、このビデオ録画おそろしく精緻な出来。クレジットを見るとテレビマンユニオンの制作で「なるほど」と合点。ところで井上直幸のこのビデオは同氏の「ピアノ奏法」というテキスト本が好評だったこで「実際の奏法を映像で」の要望に応えたもの。でその『ピアノ奏法』は確か吉田秀和氏が朝日「音楽展望」で好評したことで注目集めたもの。秀和先生といえば一昨日の朝日(夕刊)の音楽展望でモーツァルトについて語るが、秀和先生はバルバラ夫人亡くした悲しみを越え、物凄いハレの境地へ達してしまった。加藤周一の悲観超越しての達観した最近の楽天的な見方と同じものあり。晩に田中長徳『さよならライカ』読む。

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