THE ART OF GUNDAM。

 先日からN氏と3連休の行動について打合せていた。以前山頂に辿りつけなかった富士登山か、俺が以前提案しながら実現していない長野県の旧松代大本営跡などいくつかの案が挙がっていた。しかし俺の方が3連休全て休みになるか不透明でぎりぎりまで保留にしていたためN氏の行動意欲をかなり削いでしまったようで、一旦は全て立ち消えの状態となっていた。
 昨日、N氏から本当に休みはないのかと確認が入った。休みにはなったが、俺はN氏がとっくに別行動に決めているものと思い込んでいたので特に予定を立てていない。
 急遽行き先を再検討する中で、大阪で開催中の機動戦士ガンダム展「THE ART OF GUNDAM」へ行こうと思い立って提案してみた。N氏宅から往復5時間程度で十分射程距離に入っている。しかし、N氏は先日金沢で見たガンダム展と同じものならわざわざ見に行くほどでもないし、今更ガンダムなんて…とあまり乗り気にならない。
 こちらで調べる限りでは展示内容は制作に関するものが主体で先日見たものとはほぼ別物のようだ。まぁN氏が来なくても、昔大阪に住んでいた妻を連れてガンダム展を観覧し、可能であれば1泊して日本橋に行こうと脳内で算段を始める。妻に趣旨を説明すると一瞬嫌そうな表情を見せたものの、ガンダムはどうでもいいので私は会場隣の海遊館に行くか、あるいは大学の頃の友達と会って来るとのこと。
 周辺のホテルはUSJのハリポタ効果で満室だろうから、ブリットで行って高速の大阪周辺のSAで帰路に車中泊するかと具体的に検討し始めたところで、N氏からどうしてもお前が行くのなら一緒に行ってやってもいいと大変高飛車な回答が届いた。
 何だよ行くのかよ。俺よりガンダムヲタクのくせに普通人のフリしやがってこいつ。
 会話を聞いていた妻は「…まぁ、その辺は好きな者同士で行った方が楽しめるだろうし私は今回は遠慮しておく」との事。その代わり県都までは連れて行くことになった。義妹が今月中に一時帰国するので義妹宅の掃除をするらしい。
 
 N氏宅に早朝5時に集合の予定だったが、宿泊した義妹宅で畳の上に転がっていたためあまり寝付けず寝坊して1時間ほど遅れの出発となった。
 今回誘ったのは俺の方であるため車は俺が出すことにした。
 高速道路を一路大阪を目指して走る。
 途中、福井県でかなり強い豪雨に遭遇。その最中に南条SAに進入したところ、恐ろしいことに駐車エリアの大部分が浸水!。
 駐車を諦め走り去る車両が起こす波が、店舗に押し寄せる…。
 「降りるか?」
 普段から病院の職員駐車場の冠水でこの程度なら慣れっこの俺は何気なく聞いた。
 「バカ言え!」
 しばらく走ると、ある短いトンネルを抜けた途端に雨が止んだ。ゲリラ豪雨だったようだ。
 
 同方向に走行中の痛車を発見。見事な仕上がりのキルラキル

 しかしN氏の手前、よく分からないけど痛車って増えたよね?的な感じでとぼけておく。
 
 4時間あまり走り続け、大阪市内へ到達。二人揃って「都会だよね〜」とつぶやいてみる。

 ブリットの純正DVDナビは納車後一度も地図ディスクを更新したことがないが、幸いにして市内には道路の大きな変更はなかった。
 阪神高速を降りた直後にUSJが視界に入った。噂のハリー・ポッターエリアが遠くに見えたが、ホグワーツの学校校舎は残念なハリボテ具合が丸見えだった。いずれ行きたいと思っている立場からすると、できればうまい具合に隠しておいてほしいのだが…。
 間もなく、無事目的の大阪文化館・天保山へ到着した。
 ここは海遊館の隣に位置しており、出発前には駐車場を確保することすら困難だろうと予想していた(が、特に対策は立てていなかった…)。ある程度遠くの有料駐車場から歩くことも覚悟していたが、意外にも文化館の駐車場に十分な空きがあり入口近くの好位置に駐車できた。これはひとえに早朝出発のため、まだ開館直後に到着できたためだろう。
 当日入場券を買うためにカウンターに並ぼうとするが、入口前で既に行列が始まっていた。


 列を眺めて通り過ぎるステキカップルや家族連れ。列に並ぶのは、明らかに区別できる高齢の男性ヲタ(大抵独り)。たまに家族連れも混じっているが、現役ヲタの父親と、その後継者らしい若ヲタ息子が抱き合わせになっている。そんな中極々まれに若い女性が見つかるような状態である。
 カウンターまで遠いな…。N氏はあまり気にしていないようだが、列の向こうを眺めてため息をつく。しかしチケットを買った直後に今までの列が予行演習に過ぎないことを知る。1階のカウンターから、会場となる3階へ、そして最初の展示室までにも予想以上の待ち行列ができており、客のあまりの多さに入場制限が始まっていたのだった。
 トイレは1階にしかありません!とスタッフから警告が飛ぶ。数時間は場内に留まるはずなので先に済ませておこうと列をN氏に託してトイレに向かった。
 んん?。

 女性用トイレのアイコンはセイラさんだった(さすがに撮影ははばかられるので省略)。
 そして室内に散りばめられる細かいアクセント。

 これは…使ってみたいが、オールドタイプにはニュータイプ専用機の使用は気が引ける…。
 
 20分ほど行列が続いただろうか。ようやく入場が許可された。
 入場に際しては音声ガイド用の小型端末を1台500円で借りることができる。音声データセットアムロ・レイ古谷徹)版、シャア・アズナブル池田秀一版)、そしてミライ・ヤシマ白石冬美)版の3種類。このガンダム展があと10年早ければアルテイシア様版もあったのだろうか…。
 俺とN氏で1台ずつ違うものを借りて聴き比べてはどうかと提案したがN氏は乗らない。この男、さっきからそこかしこの展示物を見て目を輝かせているくせに、こういう時だけ「俺は別に好きで来たんじゃない、こんなところで金を落とす気なんかない」アピールである。もちろん、その薄い羊の皮は展示の最後で消え去ることになるのだが…。
 ひとまず俺がシャア版を借りてみた。なお、音声データはシャア版で、端末の筐体デザインがシャア専用の特注品を一日数台限定で貸し出しているらしいが既に在庫なしであった。
 最初の展示はガンダム世界のイントロとなるファースト冒頭のビデオ閲覧。シドニーにコロニーが落着する瞬間の映像だが、それよりも同じグループにいる少年が、映像をちらちら見ながら持参の携帯ゲーム機でよく分からないRPGをプレイしているのが気になった。どっちかというのはできないのか。
 そこから進むと、ホワイトベースのブリッジを再現した部屋に入る。前方には舵輪を握るミライさんが、振り返ると艦長席に座るブライトさんを表示するスクリーンがあり、ここであのクラウン焼死からガンダム大気圏再突入成功までのシーンを体験できる。仕掛けは大掛かりだが、再生される映像はMSがCG表現でやや迫力に欠けた。ガンダムシリーズではMS IGLOOやEVOLVEでも感じたことだが、CGでMSの機動を描写すると重量感があまり感じられずひどく薄っぺらくなる。無重力空間で実際にMSの機動を見たことがある者はいないのだからホンモノがどうなのかは分からないが、今のところホンモノ感はない。どうせならアニメーションで表現してほしいところ。
 続く展示は企画初期の設定の変遷を追うエリア、おもちゃ前提のデザインからリアル志向へと変化していく膨大なメカニックデザイン資料や背景美術、そして登場キャラクターの意思を表現する安彦良和氏の原画と絵コンテの展示エリアが順次続く。各エリアの展示は量も質も素晴らしく、観覧にそれぞれ30分は掛けたいところだ。今回は混雑がひどく立ち止まるなと繰り返しアナウンスが流れている。なお展示エリアは撮影禁止である。
 登場人物の設定やデザインも初期に比べて随分変化したようだ。ザビ家の面々も子供にも悪役と印象づけるためか額に謎の印章が刻まれたデザインがあったり、連邦の人物も当初はほとんどが日本人の設定で徐々に多国籍化していったりと、その後のサンライズ制作のロボットアニメでは一般的になった「普通の世界観」がこのあたりで徐々に作られていったことが伝わってくる。
 メカニック設定資料の展示室では、メインデザイナーである大河原邦男氏が新たに書き起こしたファースト登場のメカニック画が壁一面に展示されていた。同じザクII一つ取っても後継作品で若いデザイナー達にリファインを繰り返されて今ではプラモデルでも全く別のデザインに化けてしまっているが、大河原製MSは全く古さを感じさせない。
 一連の展示の最後に、富野由悠季監督が新たに制作する「Gのレコンギスタ」の設定資料が公開されていた。キャラクタデザインが吉田健一でどこからどうみてもエウレカセブン。最近は放送終了後あっという間に忘れ去られるロボットアニメばかりのご時世だが、できれば長続きする作品になってほしい…。
 
 展示エリアを出て一息つくと、目の前にまた新たな行列が現れた。そう、物販エリアの待ち行列である。長過ぎて屋外のロビーにまで迂回させられるほどだが、どうしたものか。
 俺は買い物していきたいのが恐らくN氏は嫌がるだろう。一応声を掛けてみると、もちろん、と言った表情で列につくN氏。何だよさっきまでの素っ気なさはどうしたんだ。
 夏の大阪はクソ熱い。
 コンクリートの上で熱にあぶられながら列が進むのを待つ我々であったが、ふと俺のIS11Tに着信があった。前の職場のI君とS君からだ。出てみると、今日地元の祭りにイベントとして海上自衛隊の艦艇が入港しているが、なぜあなたが来ないのかという。そう言えば以前、自衛隊地方連絡部のKさんと次のイベントで艦艇を持ってきたら必ず行くと話していた覚えがある。どうやらそれでKさんから俺の行方を尋ねられて探しているようだ。後でお詫びしておかねば…。

 少しづつ列が進み、物販エリアに到着。先日県都で開催されたガンダム展の物販エリアとは取扱商品がかなり異なっており、プラモなど本会場限定の商品が多かった。手持ちの現金は少なく、残念ながら購入を見合わせなければならない商品が多数。それでもやはり会場限定の設定資料集やメタリックコート仕様のMS-06とMS-06Sプラモセットなどかなり買い込んでしまった。
 意外だったのはN氏の買い物で、あれだけ冷めた態度だった彼が買い物カゴ一杯の商品を抱えてご満悦の表情である。
 精算列に並ぶと、少し手前に限定のクリア仕様のガンダムを一人で5〜6個抱えた男性がいた。レジのスタッフに片言の日本語で話しかけているところからして中国あたりからの遠征組か留学生だろうか。自分用か、転売目的か。
 
 文化会館を出てすぐの岸壁を散策して見る。岸壁伝いに行くと海遊館である。文化会館側から出てくる客はガンダム展のロゴ入り袋を下げたヲタクばかりで、海遊館側に屯するカップルの群れに突っ込むにはかなりの勇気がいる。岸壁にも容赦なく強烈な日差しが照りつけており、熱風にも耐えられない。天気に文句を言うなとN氏にたしなめられるがとても歩いていられず、海遊館外周を歩いてそのまま駐車場に戻ってしまった。


 どうせなら海遊館土産でも買って、いかにも海遊館行ってきましたという顔をしておけば良かったか。