司法に対する民主的統制

陸山会事件:小沢元代表初公判 意見陳述(全文)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111007ddm012010046000c.html
>起訴状への見解を申し上げます。検察の不当な捜査で得た調書を唯一の根拠にした検察審査会の誤った判断に基づくものに過ぎず、裁判は直ちに打ち切られるべきと思います。
>検察は、特定の意図で国家権力を乱用し、議会制民主政治を踏みにじったということにおいて憲政史上の一大汚点として残るものであります。
>特に許せないのは国民から何も負託されていない検察・法務官僚が議会制民主政治を踏みにじり、公然と国民の主権を侵害したことであります。
>悲劇を回避するには、国家権力の乱用をやめ、政党政治への信頼を取り戻し、真の議会制民主主義を確立するしかありません。まだ、間に合うと私は思います。裁判官の皆様の見識あるご判断をお願い申し上げ、私の陳述を終わります。ありがとうございました。

 司法は,客観的事実を証拠に基づいて認定し,法の客観的意味内容を探り,認定事実を法に当てはめて執行する作用です。そこには,科学的態度で合理的で理性的判断が求められ,民主主義的統治の原理による多数決ではなく,自由主義的統治の原理(裁判官の独立)がはたらき,多数決をもってしても奪えない少数者の人権をも保護します。
 そのため,司法府には民意の直接流入は政治的圧力となって望ましくない*1のが原則です(司法権の独立)*2。しかし,司法の暴走を抑止するため(三権分立による抑制と均衡),裁判所には国民による最高裁判所の国民審査と内閣による裁判官の任命と国会による弾劾裁判によって,準司法機関である検察庁には,例外的に準起訴手続き(裁判所の決定)や検察審査会(くじで選ばれた有権者の判断)によって,民主主義的統治の原理が自由主義的統治の原理を例外的に牽制します。
 検察審査会による起訴強制制度は,このような文脈での立法裁量ですし,国民一人一人で是非や程度について意見が分かれると思うので是非内容には言及しませんが,鳥瞰図的に見た制度趣旨では,検察官の起訴独占主義の暴走を抑止する安全弁の役割で設けられた制度です。
 いま,検察庁は一連の大阪特捜不祥事事件で政府と国民から改革が求められ,検察権行使への民主的牽制がひときわ必要とされています。その限りでは,起訴強制手続きを認めるか否かを問わず,検察審査会による検察官の起訴権限の事後的審査(不当不起訴の牽制*3 )は維持した方が良いと思います。
 エントリの記事にある事案では,検察審査会の起訴強制手続きの適法性(法律上の問題点)もありますが,どうも基本論点は,客観的証拠に基づく客観的事実の認定問題(事実認定上の問題点と証拠上の問題点)にシフトしていくような予感がします。

*1:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%B4%A5%E4%BA%8B%E4%BB%B6

*2:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B8%E6%B3%95#.E5.8F.B8.E6.B3.95.E6.A8.A9.E3.81.AE.E7.8B.AC.E7.AB.8B

*3:不当起訴の牽制は裁判所本来の権限と責任で,大阪特捜事件から裁判所の検察官調書へのチェックが厳しくなったのはその証左の感じを受けます

司法から民主的基盤の牽制

格差是正、定数削減に全力を」首相、民主幹部に指示
http://www.asahi.com/politics/update/1007/TKY201110070501.html
衆院選挙制度は、最高裁が「違憲状態」としている。6日の与野党幹事長・書記局長会談では、全党が選挙制度改革の必要性を確認。民主党の改革案は、各都道府県にあらかじめ1議席ずつ配分する「1人別枠方式」を廃止したうえで、比例区の定数は80削減、小選挙区は「5増9減」または「6増6減」の2案としている。ただ、各党の意見との隔たりは大きく、次の臨時国会で成案を得られるかどうか不透明だ。

hascup_jr 2011/10/09 18:57
http://d.hatena.ne.jp/hascup_jr/20111009#c1318154250
(前略)
 法的な法益衝突場面としてみると,自由主義と民主主義が緊張状態になる牽制と均衡場面の典型例だと思います。
(中略)
 しかし,司法が政治論争過程に巻き込まれて司法権の独立を脅かされないようにするため,立法裁量の尊重等の司法消極主義(vs司法積極主義)という概念が導かれます。
 同じく議員の地位を奪い自分達の首を絞めかねない議員定数不均衡違憲訴訟では,立法裁量を尊重して政治過程に司法が巻き込まれるのを防ぐため,立法裁量で合憲〜格差が3倍超過で是正の合理的期間内を経るまで合憲という司法消極主義の時代が長く続きましたが,一票の格差は3倍以内の是正に改正法が終始していたためか,最近は2倍超過で是正の合理的期間を経て違憲という立法裁量に踏み込んだ司法積極主義とでもいう違憲宣言で請求棄却(事情判決*1 )となり,少数意見では「是正の合理的期間を超過した条件付き将来的違憲判決」という怒り?の意見も出るようになりました。
 ときの政治権力などの高度に政治性を有する事案では,三権分立の牽制と均衡も難しいところがあるかと思います。
(後略)

 多分に自コメントの手前味噌ですが(^^ゞポリポリ。長らく一票の格差衆院では3倍以内・参院では6倍以内(半数改選という憲法上の制約を考慮)という時代が続きましたが,「人が他人の2倍や半分の人権を持つのはオカシイ?」というもっとも単純な平等法理で,ついに最高裁は,2009年衆院選(2009年8月30日総選挙)につき,平成23年3月23日付けで,格差2.30倍を違憲状態と認める判例判決を下しました。\(^o^)/*2 *3