Hatena::ブログ(Diary)

himaginaryの日記

2016-04-28

南部の富は風と共に去ったのか?

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「The Impact of the Civil War on Southern Wealth Holders」というNBER論文上がっている。著者はBrandon Dupont(西ワシントン大)、Joshua Rosenbloom(アイオワ州立大)。

以下はその要旨。

The U.S. Civil War and emancipation wiped out a substantial fraction of southern wealth. The prevailing view of most economic historians, however, is that the southern planter elite was able to retain its relative status despite these shocks. Previous studies have been hampered, however, by limits on the ability to link individuals between census years, and have been forced to focus on persistence within one or a few counties. Recent advances in electronic access to the Federal Census manuscripts now make it possible to link individuals without these constraints. We exploit the ability to search the full manuscript census to construct a sample that links top wealth holders in 1870 to their 1860 census records. Although there was an entrenched southern planter elite that retained their economic status, we find evidence that the turmoil of 1860s opened greater opportunities for mobility in the South than was the case in the North, resulting in much greater turnover among wealthy southerners than among comparably wealthy northerners.

(拙訳)

南北戦争奴隷解放南部の富のかなりの部分を消滅させた。だが経済史学者の大半における主流の見方は、そうした衝撃にも関わらず南部の農園主のエリートは相対的な地位を保つことができた、というものである。しかし従来の研究は、国勢調査の各年の個人をどこまで紐付けられるか、という限界が障壁となって、1つないし2〜3の郡内における継続性に焦点を当てることを余儀なくされていた。最近、連邦国勢調査の原稿への電子的なアクセスに進展があり、そうした限界が取り払われた形で個人が紐付けできるようになった。国勢調査の完全な原稿が検索できるようになったことを利用し、1870年の上位の資産保有層を1860年国勢調査の記録に紐付けたサンプルを構築した。経済的地位を保った固定的な南部の農園主のエリートも存在したものの、1860年代の戦乱によって北部よりも南部で移動可能性が高まった結果、裕福な南部の人々においては比較可能な裕福な北部の人々に比べて遥かに大きな入れ替わりが生じた、という実証的証拠を我々は見い出した。

ungated版によると、Ancestry.comのデータベースを利用したとの由。

2016-04-27

何が外国人戦闘員をISISに参加させているのか?

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という、かなり時事的な国際政治のトピックを扱ったNBER論文上がっている。原題は「What Explains the Flow of Foreign Fighters to ISIS?」で、著者はEfraim Benmelech(ノースウエスタン大)、Esteban F. Klor(ヘブライ大)。

以下はその要旨。

This paper provides the first systematic analysis of the link between economic, political, and social conditions and the global phenomenon of ISIS foreign fighters. We find that poor economic conditions do not drive participation in ISIS. In contrast, the number of ISIS foreign fighters is positively correlated with a country's GDP per capita and Human Development Index (HDI). In fact, many foreign fighters originate from countries with high levels of economic development, low income inequality, and highly developed political institutions. Other factors that explain the number of ISIS foreign fighters are the size of a country's Muslim population and its ethnic homogeneity. Although we cannot directly determine why people join ISIS, our results suggest that the flow of foreign fighters to ISIS is driven not by economic or political conditions but rather by ideology and the difficulty of assimilation into homogeneous Western countries.

(拙訳)

本稿は、経済的・政治的・社会的状況と、ISISの外国人戦闘員という国際的な現象との関係を体系的に分析した初めての論文である。我々は、貧しい経済状況がISISへの参加を促しているわけではない、ということを見い出した。むしろ、ISISの外国人戦闘員の数は、出身国の一人当たりGDPおよび人間開発指数と正の相関があった。実際、多くの外国人戦闘員が、経済が高度に発展し、所得格差が小さく、政治制度も高度に発達した国から来ている。それ以外のISISの外国人戦闘員数の説明要因は、出身国のイスラム教徒の数と、民族的な均一性であった。人々がISISに参加する理由を直接的に判定することはできないが、我々の得た結果は、ISISへの外国人戦闘員の流入は、経済的もしくは政治的状況ではなく、イデオロギー、および、均質的な西洋諸国に溶け込むことの難しさに起因していることを示唆している。

2016-04-26

クルーグマンがファンブルしたこと

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クルーグマンが、自らの1990年代末の日本に関する分析を振り返り、自分の最良の仕事であった、と書いている。そして、モデルを書き下ろすまでは流動性の罠など幻想に過ぎず、日本の金融当局が仕事をしていないだけだと思っていたが、モデルを書いてみたらそうではなく、流動性の罠が現実であることを認識した、と述べている。

今までもクルーグマンは同様のことを度々述べているが、今回、その際に失敗も犯したことをさりげなく認めている。

Oh, and the model also said positive things about fiscal policy — actually, a multiplier of one even with full Ricardian equivalence, although I bobbled that in the original paper, because I didn’t use the model carefully enough. That was definitely not what I was looking for at the time.

(拙訳)

なお、モデルは財政政策についても肯定的なことを述べていた。実際のところ、完全なリカードの等価性の下でも乗数は1となった。ただ、最初の論文ではモデルを十分に注意深く扱わなかったため、私はその結果を取りこぼしてしまった。それは当時私が求めていた結果ではまったく無かったからだ。


かつてサマーズは、クルーグマンの誇るこの研究を、「缶切りがあると仮定しよう」という経済学ジョークに相当するものだと批判したことがあったが、クルーグマンが同じモデルから当時と今で異なる含意を導き出している(当時=金融政策、現在=財政政策)のを見ると、「試験問題は同じだが回答が変わる」という別の経済学ジョークに通ずる気もする。

2016-04-25

貿易赤字はいかに職を奪うのか?

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アラン・ブラインダーが貿易に関するWSJ論説を書き、マンキューが「Alan Blinder has a great column」としてリンクした一方で、ディーン・ベーカージャレッド・バーンスタインが反発している。

両者が特に反発したのが以下の一節。

The U.S. multilateral trade balance — its balance with all of its trading partners — has been in deficit for decades. Does that mean that our country is in some sort of trouble? Probably not. For example, people who claim that our trade deficit kills jobs need to explain how the U.S. managed to achieve 4 percent unemployment in 2000, when our trade deficit was larger, as a share of GDP, than it is today.

(拙訳)

米国の多国間貿易収支――すべての貿易相手国との収支――は何十年も赤字である。これは我が国が何らかの問題を抱えていることを意味するのだろうか? おそらく違う。例えば、我々の貿易赤字が職を奪っていると主張する人たちは、我々の貿易赤字が対GDP比率で今日より大きかった2000年に4%の失業率をいかに達成したかを説明する必要がある。


これについてベーカーは以下のように書いている。

I assume that Blinder knows there is an easy answer to his challenge to explain 4.0 percent unemployment in 2000 "when our trade deficit was larger, as a share of GDP, than it is today." We had a huge stock bubble in 2000. This led to what was at the time a record low savings rate as people spent based on their bubble generated stock wealth. We also had a surge of tech sector investment as tech companies were directly financing investment with stock sales.

When the bubble burst, there was no easy way to make up this demand. The economy had negative job growth for two and half years and didn't make up the jobs lost in the recession until January of 2005, the longest period without positive job growth since the Great Depression (since surpassed by the Great Recession. When job growth eventually did resume it was on the back of the housing bubble, which also did not end well.

(拙訳)

「我々の貿易赤字が対GDP比率で今日より大きかった」2000年における4.0%の失業率説明せよ、という彼の課題には簡単な回答が存在することをブラインダーは知っているものと思う。2000年には我々は巨大な株式バブルを抱えていた。それが当時としては記録的な低貯蓄率をもたらした。人々がバブルによって膨らんだ株式資産を基に支出を行ったためだ。また当時は、技術系の企業が株式の売却で直接投資を賄っていたため、技術業界の投資が大きく増加していた。

バブルが弾けた時、そうした需要の穴埋めをする簡単な方法は存在しなかった。経済雇用の伸びは2年半もの間マイナスとなり、不況で失われた職は2005年1月まで戻ることは無かった。これは、大恐慌以降、雇用のプラスの伸びが無かった最長期間だった(その後に大不況で更新された)。雇用の伸びが最終的に回復したのは住宅バブルのお陰だったが、そのバブルも良い終わり方はしなかった。


バーンスタインは以下のように反応し、かつ、以下の文章全体を斜体字にして強調している。

No one is saying that trade deficits prevent full employment. What we are saying is that the magnitude of the trade deficits we’ve run—averaging -4% of GDP since 2000 and -2.8% in the most recent quarter—must be offset if we are going to get to full employment.

(拙訳)

貿易赤字完全雇用を妨げると言っているわけではない。我々が言っているのは、完全雇用に到達するためには、我々が抱えているような貿易赤字の規模――2000年以降は平均してGDPの-4%で、直近四半期では-2.8%――を相殺する必要がある、ということである。


ベーカーはその点についてより具体的な数字を出している。

In short, if the trade deficit is 3.0 percent of GDP (@$540 billion a year) as opposed to its pre-East Asian bailout average of just over 1.0 percent of GDP, then it has an equivalent impact on the economy of cutting annual government spending by $360 billion. And, in the model that Blinder used in his analysis of the bailout and stimulus, that would cost millions of jobs.

(拙訳)

要するに、東アジアの救済前はGDPの1.0%強だった貿易赤字GDPの3.0%(年間5400億ドル)にもなれば、年間の政府支出を3600億ドル削減するのと同じ影響が経済にもたらされる。そして、ブラインダー自身が救済と刺激策についての分析に用いたモデルによれば、それは何百万という職を犠牲にする。

2016-04-24

サンダース経済分析騒動・余聞

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サンダース候補の経済政策の効果についての分析で騒動を引き起こしたジェラルド・フリードマンがINETブログに記事を書きEconospeakのProGrowthLiberal(PGL)クルーグマンの反発を買っている*1

特に反発を買ったのが、ローマー夫妻も新しい古典派に取り込まれている、と述べた点で、それについてクルーグマンは以下のように書いている。

For those of us who participated in the austerity debates, that’s pretty amazing and disheartening. Remember when Robert Lucas accused Christy Romer of corruptly producing “schlock economics” to justify government spending? Remember the long fight against the doctrine of expansionary austerity and the mythical cliff at 90 percent debt? There was a huge division between Keynesians and anti-Keynesians, in which people like the Romers faced a torrent of abuse from the right. And there has also been a huge intellectual vindication, with interest rates, inflation, and output looking much more like Keynesian predictions than like what those on the right were predicting.

Oh, and on the issue where Lucas accused Romer of corruption: her estimate of a multiplier of 1.5 turns out to be very close to the numbers most researchers have found in the aftermath of the disastrous turn to austerity.

(拙訳)

緊縮財政の議論に参加した者にとって、これは極めて驚くべき、かつ、がっかりさせられる言葉である。ロバート・ルーカスが、クリスティーナ・ローマーは政府支出を正当化するために不道徳にも「くだらない経済学」を使った、と非難した時のことを覚えているだろうか?*2 あるいは、拡張的緊縮策と90%債務の架空の崖というドクトリンとの長い闘いのことは? ケインジアンと反ケインジアンの間には大いなる分断があり、ローマーのような人々は右派からの絶え間ない悪態に曝されてきた。そして、大いなる知的な立証もあった。金利インフレ率、ならびに生産は、右派の人々が予測していたものより、ケインジアンの予測に遥かに近いものとなったのである。

それと、ルーカスローマーを不道徳と非難した問題についてだが、彼女の1.5という乗数の推計値は、緊縮に転じるという惨事の後に多くの研究者が見い出した数字と極めて近いものだった。


このローマーの乗数の推計については、PGLも後続エントリで以下のように書いている

Mark Zandi was McCain’s economic adviser in 2008 who had the good sense to tell the Senator we had a Keynesian problem. Of course the Senator failed to listen to his own economic adviser. Lucas was criticizing Dr. Romer for using Zandi’s model. Now we see criticism from the left for her use of this same model. Go figure! But to be fair – his model is probably best tossed into the waste bin given what we know now. Did I say hindsight is 20/20?

(拙訳)

マーク・ザンディは2008年にはマケインの経済顧問で、賢明にも上院議員に、我々はケインズ的な問題を抱えている、と伝えた。そして上院議員は当然のごとく自分の経済顧問に耳を傾けなかった。ルーカスローマー博士をザンディのモデルを使った咎で批判した*3。そして今や左派が、彼女のことをそのモデルを使った咎で批判している。いやはや何たることか! しかし公平を期すならば、我々が今知っていることに鑑みると、彼のモデルはゴミ箱に捨てられたものの中でおそらく最善のものだ。後知恵は洞察力に富む、と先に言ったよね?

*1ノアピニオン氏のエントリも参照。

*2ここでデロング経由で引用したルーカスの言葉の原文を参照。

*3cf. 前注。ちなみにPGLルーカスのこのローマ批判の問題点を指摘する際にクルーグマン2011年末のエントリを援用しているが、そこでクルーグマンリカードの等価性の話(cf. ここ)を持ち出している。