Hatena::ブログ(Diary)

himaginaryの日記

2017-03-28

もう二度と計量経済学に触れない学生への計量経済学の教え方

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Marc Bellemare(cf. ここここ)がMetrics Mondayで、先月20日に紹介した Angrist=Pischke論文取り上げている。そこでBellemareは、Angrist=Pischkeは、Dieboldの言うG2ないしノアピニオン氏の言う構造モデルを別に否定しているわけではなく、単に後回しにしろと言っているのではないか、という解釈を示している。

The way I understand their paper, they are not saying that forecasting or proper modeling of the DGP should not be taught–just that it should come after teaching students the relatively simpler, less arcane, and no-less-useful ideas that underlie causal inference and issues of research design.

The way I see it, many undergraduates will never take another econometrics class ever again. Since our job as teachers of undergraduates is to form responsible citizens, and not researchers, I feel like our students are better served when we teach them not to get hoodwinked by causal claims made on the basis of mere correlations. For me, that is a much more important component of critical thinking than knowing which specification test to apply to a regression.

(拙訳)

私が理解したところでは、この論文は、予測やデータ生成過程の適切なモデル化を教えるべきではない、とは言ってない。ただ、それを教えるのは、因果関係の推定や研究デザインの根底をなす、相対的に単純で、難易度が低く、それでいて同程度に有用な考えを教えた後にするべきだ、と言っているのである。

私の見たところでは、多くの学部生は計量経済学の別の講座を取ることは決してない。学部生を教える教師としての我々の仕事は、責任ある市民を育てることであって、研究者を育てることではない。私が思うに、単なる相関に基いてなされた因果関係の主張にだまされないことを教えるのが、学生にとってよりためになると思う。私にとってそれは、回帰にどの検定方法を当てはめるかを知るよりも遥かに重要な、批判的思考法の構成要素である。

2017-03-27

インドの持続的成長のために必要なもの

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ないし、欠けているものについてTim Taylorが、カーネギー国際平和基金から出されたV. Anantha NageswaranとGulzar Natarajanのレポートを基に以下の10項目にまとめている

  • インドの教育システムは子供たちを学校に行かせることに成功したが、教えることに失敗した
  • 女性の労働参加率が驚くほど低い
  • 少数の大企業と多数の極小企業があるが、その中間がほとんど無い
  • 農家の規模が小さく、しかもますます小さくなり続けているため、投資規模の経済がうまく機能しない
  • 地下経済で働く労働者が非常に多い
  • 国内貯蓄と資本蓄積が低水準
  • 税基盤が脆弱
  • インフラ投資GDP比が低下し続けている
  • 政府政府が運営している計画が機能していないことが多い
  • 低賃金製造業による輸出主導型経済成長への道は難しい

2017-03-26

収斂しなくなった生産性

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Tim Taylorが、BOEのチーフエコノミストのアンドリュー・ホールデン(Andrew Haldane)が20日にLSEで行った生産性に関する講演紹介している。それによると、ホールデンは世界的な生産性成長率の傾向について以下の3点を指摘している。

  1. 生産性成長の鈍化は英国に限った話ではなく、世界的な現象
  2. この生産性成長率の鈍化は明らかに近年の現象ではない
  3. 生産性成長の鈍化は先進国新興国の双方で生じた

ホールデンは、その1.75%ポイントの低下は、フロンティアたる米国イノベーションの鈍化よりは、フロンティアから非フロンティアへのイノベーションの普及が鈍化した影響が大きい、と指摘している。その理由の一つは、米国GDPは世界の2割に過ぎないからである。また、米国を基準に取って44か国の生産性水準の分布グラフを描くと、1950年代から1970年代に掛けては収束の動きがみられたが、その後また引き離され、現在は1950年代と同程度の乖離に戻ってしまったという。

ホールデンはこの傾向について以下のように指摘している。

Taken at face value, these patterns are both striking and puzzling. Not only do they sit oddly with Classical growth theory. They are also at odds with the evidence of history, which has been that rates of technological diffusion have been rising rather than falling over time, and with secular trends in international flows of factors of production. At the very time we would have expected it to be firing on all cylinders, the technological diffusion engine globally has been misfiring. This adds to the productivity puzzle.

(拙訳)

額面通りに受け止めると、こうしたパターンは驚くべきであると同時に困惑させられるものである。古典派成長理論と合わないだけでなく、技術の普及速度は時間とともに低下ではなく上昇してきたという歴史的な証拠とも合わないほか、生産要素の国際的な流出入の長期的傾向とも合わない。エンジン全開になるはずというまさにその時期に、技術普及のエンジンは世界的なエンストを起こしてしまった。これは生産性パズルに付け加わる話である。

2017-03-25

財政刺激策は購買と移転のどちらが良いか?

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以前、リーマンショック後の財政政策(2009年アメリカ復興・再投資法=ARRA)の大部分が移転支出だった、というジョン・テイラーの指摘を紹介したことがあった(ここここ)。ロバート・ホールは、そうした移転支出を受けた人が支出を増やしたか、というのは非常に難しい問題である、と述べた。長期停滞の研究をエガートソンらと行っていたNeil R. Mehrotraが、その問題に挑戦している。

以下は彼のEquitable Growthワーキングペーパー「Fiscal policy stabilization: Purchases or transfers?」の要旨。

Both government purchases and transfers figure prominently in the use of fiscal policy for counteracting recessions. However, existing representative agent models including the neoclassical and New Keynesian benchmark rule out transfers by assumption. This paper explains the factors that determine the size of fiscal multipliers in a variant of the Curdia and Woodford (2010) model where transfers now matter. I establish an equivalence between deficit-financed fiscal policy and balanced-budget fiscal policy with transfers. Absent wealth effects on labor supply, the transfer multiplier is zero when prices are flexible, and transfers are redundant to monetary policy when prices are sticky. The transfer multiplier is most relevant at the zero lower bound where the size of the multiplier is increasing in the debt elasticity of the credit spread and fiscal policy can influence the duration of a zero lower bound episode. These results are quantitatively unchanged after incorporating wealth effects on labor supply.

(拙訳)

政府購買と移転はともに、不況対策としての財政政策の使用において主要な割合を占める。しかし、新古典派やニューケインジアンの標準モデルなどの既存の代表的個人モデルは、前提によって移転を除外している。本稿は、移転が重要な役割を果たすようにしたCurdia=Woodford(2010)*1の派生モデルを用いて、財政乗数の規模を決定する要因を説明する。私は、赤字を伴う財政政策と、移転を伴う均衡予算財政政策の等価性を確立した。労働供給への資産効果が存在しない場合、価格が伸縮的な時の移転乗数はゼロであり、価格が粘着的な時には移転は金融政策に対して冗長である。移転乗数が最も重要となるのはゼロ金利下限においてである。その時に乗数は信用スプレッドの債務に対する弾力性の増加関数となり、財政政策はゼロ金利下限の期間の長さに影響を与えることができる。以上の結果は、労働供給への資産効果を取り入れた後も定量的に変化しなかった。


以下は、同論文を紹介したequitablog記事の一節。

What he finds (akin to what other models show) is that fiscal policy in general is most powerful when prices are “sticky,” meaning they don’t change quickly and conventional monetary policy is constrained. Mehrotra’s model shows that the effectiveness of transfer-stimulus programs—think tax breaks—depends on the relationship between household debt and access to credit. The more a decrease in household debt decreases the difference between the rates at which banks borrow and lend to households, the more effective transfer programs are at boosting growth. In other words, if allowing households to pay down debt by giving them government transfers ends up reducing the cost of borrowing, then the result is a bigger boost to economic growth.

This strong relationship between household debt and access to credit means that government transfers boost growth in two ways. The first is that households will spend a larger share of temporary income, which increases the boost in demand in the economy from transfers. The second is that a decline in borrowing costs increases household incomes since households will be spending less to get credit.

(拙訳)

彼が発見したのは、(他のモデルが示したのと同様に)一般に財政政策は、物価が「粘着的」、即ち素早く変化せず、かつ、通常の金融政策に制約がある場合に最も効果を発揮する、ということである。メヘロートラーのモデルは、税控除などの移転による刺激策の効果は、家計の債務融資の利用可能性との関係に依存することを示した。家計の債務の減少が銀行の借入金利と家計への貸出金利との差を縮小させる度合が大きいほど、移転政策が成長を促す効果は高くなる。言い換えれば、政府の移転支出によって家計が債務を返済できるようになり、そのために借り入れコストが最終的に低下すれば、経済成長を高める効果は大きくなる、ということである。

家計の債務融資の利用可能性とのこの強い関係は、政府の移転支出が二つの方法で成長を促す、ということを意味する。第一は、家計が一時所得の大きな割合を支出するようになることであり、それによって経済における移転からの需要が増加する。第二は、家計は融資を受けるために支出を減らすので、借入コストの低下が家計所得を増やす、ということである。

ただ、ここで鍵となる家計の債務と借入コストとの関係は、実証的にはまだ弱い関係しか見い出されていないとの由。

*1cf. ここWP

2017-03-24

実証研究の正しい受け止め方

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引き続きノアピニオン氏の実証研究ネタ。21日付ブルームバーグ論説で氏は、改めて理論に対する実証の優位性を訴えつつも、実証研究の結果は必ずしも確定的なものではない――特に経済学では――ことを踏まえて、そうした結果をどのように受け止めるべきか、について以下の3点を挙げている。

  1. 適度な懐疑主義
    • 研究によって考えを変えるのは良いが、一つの論文を完全に信頼してはいけない。2つの論文の結果が一致したら、考えをもう少し変えてもよい。
  2. 研究の質に注意を払う
    • すべての研究は平等ではない。
    • 高名な学者の主張が怪しい手法に基づいていたら、おそらく経済学者学術誌がそれを見つけて報告するだろう。
    • 一般に、単純な相関に基づく論文は、自然実験を用いた論文信頼性がかなり劣る。
    • マクロ経済学は労働や税制経済学よりも本質的に困難なので、マクロの発見については特に眉に唾すべき。
    • 怪しいと思うような前提に立っている研究については、より疑ってかかるべき。
  3. メタ分析を見る
    • メタ分析=実証結果の確かさを評価するため、多数の研究を集めた研究
    • 例えば、最低賃金の引き上げが雇用に与える影響については多数の論文があり、大きいという論文もあれば、小さいという論文もある。しかしメタ分析によれば、大半の論文では小さいないしゼロの影響しか見い出していない。この結果は一つの論文だけを見るよりも遥かに信頼性が高い。