Hatena::ブログ(Diary)

himaginaryの日記

2014-07-31

自存自衛の為に蹶然と起つことの経済学

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Roberto Bonfatti(ノッティンガム大)とKevin Hjortshøj O'Rourke(オックスフォード大)という2人の研究者が「Growth, Import Dependence and War」というNBER論文書いている

以下はその要旨。

Existing theories of pre-emptive war typically predict that the leading country may choose to launch a war on a follower who is catching up, since the follower cannot credibly commit to not use their increased power in the future. But it was Japan who launched a war against the West in 1941, not the West that pre-emptively attacked Japan. Similarly, many have argued that trade makes war less likely, yet World War I erupted at a time of unprecedented globalization. This paper develops a theoretical model of the relationship between trade and war which can help to explain both these observations. Dependence on strategic imports can lead follower nations to launch pre-emptive wars when they are potentially subject to blockade.

(拙訳)

先制攻撃による戦争についての既存の理論は、追いつきつつある追随国に対して先導国が戦争を仕掛けるであろうと予測するのが常である。というのは、追随国が国力を増した将来においてその力を使わない保証は無いからである。しかし1941年には日本が西側に対し戦端を開いたのであって、西洋が日本に先制攻撃を仕掛けたわけではなかった。似たような話として、多くの人々は貿易によって戦争の可能性が減少すると論じてきたが、第一次世界大戦グローバリゼーションがかつてないほど進んだ時に勃発した。本稿は、この2つの現象を共に説明するのに有用な、貿易と戦争の関係についての理論モデルを構築する。戦略面で輸入に依存していることが、封鎖の可能性が生じた際に追随国を先制攻撃による戦争に駆り立てる可能性がある。

2014-07-30

公的債務はインフレで減らせるか?

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について調べたNBER論文「Inflating Away the Public Debt? An Empirical Assessment」(ungated版)をコロンビア大のRicardo Reisとブランダイス大のJens Hilscher、Alon Ravivが書いている。

以下はその要旨。

We propose and implement a method that provides quantitative estimates of the extent to which higher- than-expected inflation can lower the real value of outstanding government debt. Looking forward, we derive a formula for the debt burden that relies on detailed information about debt maturity and claimholders, and that uses option prices to construct risk-adjusted probability distributions for inflation at different horizons. The estimates suggest that it is unlikely that inflation will lower the US fiscal burden significantly, and that the effect of higher inflation is modest for plausible counterfactuals. If instead inflation is combined with financial repression that ex post extends the maturity of the debt, then the reduction in value can be significant.

(拙訳)

我々は、予想より高いインフレ率が政府債務残高の実質価値をどの程度低めるかについての定量的な推計値を提供する手法を提案し、実際に推計を行った。我々は、ルッキングフォワード観点から債務負担の式を導出したが、その式は債務の満期と保有者に関する詳細な情報に依存し、かつ、異なるホライゾンのインフレリスク調整済み確率分布を構築するのにオプション価格を用いる。推計は、インフレが米国の財政負担を顕著に低めることは無さそうだと示唆しており、より高いインフレの効果は、あり得る複数の反実仮想シナリオにおいて小幅なものにとどまるとも示唆している。ただし、もしインフレ率が、事後的に債務の償還期限を延長する金融抑圧と結びつくならば、負債額の減少は顕著なものとなり得る。

2014-07-29

シャドウバンキングのマクロ経済学

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イェールのAlan MoreiraとNYUのAlexi Savovが「The Macroeconomics of Shadow Banking」というNBER論文書いているungated版初稿)。以下はその要旨。

We build a macroeconomic model that centers on liquidity transformation in the financial sector. Intermediaries maximize liquidity creation by issuing securities that are money-like in normal times but become illiquid in a crash when collateral is scarce. We call this process shadow banking. A rise in uncertainty raises demand for crash-proof liquidity, forcing intermediaries to delever and substitute toward safe, collateral- intensive liabilities. Shadow banking shrinks, causing the liquidity supply to contract, discount rates and collateral premia spike, prices and investment fall. The model produces slow recoveries, collateral runs, and flight to quality and it provides a framework for analyzing unconventional monetary policy and regulatory reform proposals.

(拙訳)

我々は金融部門における流動性の変換に焦点を当てたマクロ経済モデルを構築した。仲介部門は、通常時には貨幣のように機能するが担保が少なくなる危機時には非流動的となる証券を発行して流動性の創出を最大化する。我々はこの過程をシャドウバンキングと呼ぶ。不確実性が高まると、危機に耐え得る流動性への需要が増大し、仲介部門はデレバレッジを行って安全で十分に担保された負債で置き換えることを余儀なくされる。シャドウバンキングは縮小し、それによって流動性供給も収縮し、割引率や担保のプレミアムが上昇し、物価投資は下落する。モデルは、遅い回復、担保の一層の要求、および質への逃避を生み出し、非伝統的金融政策や規制改革の提案を分析する枠組みを提供する。

2014-07-28

なぜ政権党によって米国経済のパフォーマンスに差が生じるのか?

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について調べたNBER論文ungated版)をブラインダーらが書いている(H/T Economist’s View)。論文のタイトルは「Presidents and the U.S. Economy: An Econometric Exploration」で、著者はAlan S. Blinder、Mark W. Watson(いずれもプリンストン大)。

以下はその要旨。

The U.S. economy has grown faster—and scored higher on many other macroeconomic metrics—when the President of the United States is a Democrat rather than a Republican. For many measures, including real GDP growth (on which we concentrate), the performance gap is both large and statistically significant, despite the fact that postwar history includes only 16 complete presidential terms. This paper asks why. The answer is not found in technical time series matters (such as differential trends or mean reversion), nor in systematically more expansionary monetary or fiscal policy under Democrats. Rather, it appears that the Democratic edge stems mainly from more benign oil shocks, superior TFP performance, a more favorable international environment, and perhaps more optimistic consumer expectations about the near-term future. Many other potential explanations are examined but fail to explain the partisan growth gap.

(拙訳)

米国経済は、大統領民主党の時の方が共和党の時よりも成長率が高く、他の多くのマクロ経済指標でもパフォーマンスが良かった。戦後における完了した大統領の任期は16期あるに過ぎないが、(我々が焦点を当てる)実質GDP成長率を含む多くの指標において、パフォーマンスの差は大きくかつ統計的有意であった。本稿ではその理由を問う。答えは(トレンドの差や平均回帰といった)時系列の技術的な話では無く、民主党政権下の金融ないし財政政策が一貫してより拡張的だということでも無かった。民主党の優位性は主に、より良性の石油ショック、優れた全要素生産性のパフォーマンス、恵まれた国際環境、そしておそらくは近未来に対して消費者がより楽観的な予想を抱いていたことに起因しているように思われる。それ以外の説明候補も数多く調べたが、党による成長の差を説明することはできなかった。


以下は論文中の図。

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2014-07-27

DSGEなんかいらない?・続き

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昨日紹介したヘックマンのインタビューの最初の引用部の直後には、以下のようなやり取りがあった。

What about you? When rational expectations was sweeping economics, what was your reaction to it? I know you are primarily a micro guy, but what did you think?

What struck me was that we knew Keynesian theory was still alive in the banks and on Wall Street. Economists in those areas relied on Keynesian models to make short-run forecasts. It seemed strange to me that they would continue to do this if it had been theoretically proven that these models didn’t work.

(拙訳)

あなたはいかがですか? 合理的期待が経済学を席巻していた時、あなたはどう反応されたのでしょうか? あなたが基本的にミクロの人だということは存じていますが、当時のお考えをお聞かせください。


私が印象深く思ったのは、ケインズ理論が銀行やウォール街で依然として健在だということを我々は知っていた、という点です。その分野のエコノミストは短期予測を行う際にケインジアンモデルに頼っていました。もしそれらのモデルが機能しないと理論的に証明されたならば、彼らがそうし続けるのは変だ、と私は思いました。


これについてノアピニオン氏は、「ケインジアン」モデルは無条件予測については問題無いが、政策条件付き予測については問題あり、というのが標準的な回答になる、とこちらのエントリの追記で指摘している。とは言え、DSGEは政策条件付き予測について理論上は最善のモデルとなる、と謳っているのだから、ヘックマンの疑問は、なぜ金融業界でDSGEが使われていないのか、という同エントリの本文*1で展開されているノアピニオン氏のかねてからの疑問に通ずる、とも併せて指摘している。


一方、ロバート・ワルドマンは自ブログでこのノアピニオン氏のエントリにコメントし、優れた記事と誉めつつも、1970年代のマクロ経済学思想史に関する氏の記述について以下の4点の異議申し立てを行っている。

  1. ケインジアンの構造計量経済モデル(structural econometric modeling=SEM)は、FRB金利を引き下げれば景気は良くなるはずと予言したが、有害無益インフレを作り出しただけだった」というノアピニオン氏の記述は完全な誤り。
    • 1980年頃にボルカーは、GDPの方向を急速に転換させる力を彼が持っていることを示した。
    • データは短期金利と成長率の間の(周知の6ヶ月程度のラグを以っての)強い相関を示している。
  2. ロバート・ルーカスは、一時的FRBインフレ目標を高めてはどうかというノアピニオン氏の提言に対し、「我々は(馬鹿げた)インフレを試した!それは(まったく)効かなかったのだ!」と叫んだというが、本当に試したのか?
    • ケインズ主義者のインフレ主唱者の具体名や具体的な発言が引用されていないということは、藁人形ということではないか。
  3. 構造計量経済モデルをデータに合うように調整できる、というノアピニオン氏の記述について2点:
    1. それらのモデルはインフレ失業の長期のトレードオフが無いように調整された。
    2. 古い構造計量経済モデルは1970年代のデータに適合している*2
      • 1973年、および1980年時点で利用可能だったデータは、当時最先端の新しい古典派モデルにまったく当てはまらなかった。一方、1971年時点の古いケインジアンモデルには非常に良く当てはまった。
      • 古いケインジアンモデルに対し施された調整(=賃金インフレが数期のラグを以って物価インフレ失業に依存するという1960-70年代の昔ながらのフィリップス曲線の関係を、インフレの変化が失業に依存するという関係に置き換えた)は、当時利用可能な米国データにも現在利用可能な米国データにも当てはまるモデルを、それらのデータに当てはまらないモデルに置き換えるだけに終わった。
  4. ルーカスルーカス批判論文で述べているように、彼の議論は独創的なものではまったくなく、構造計量経済モデルの開発者が開発時に既に展開したものだった。
    • 実際にカネを賭けている人々がDSGEを使わないことには何の不思議も無い。DSGEが学界のマクロ経済学を乗っ取ったことこそが不思議(ワルドマン自身はその転換が起きた時ではなくその直後にこの世界に入った)。ノアピニオン氏がエントリで提示しているそれが起きた理由の説明候補は、有効なものではない。それらの説明が依拠している定型化された事実は誤っている。

*1氏のブルームバーグコラムの転載。以前こちらで紹介したエントリをより一般向けに書き直したもの。

*2cf. ここで紹介したワルドマンの推計。

でsでs 2014/07/27 23:32 一か所 DGSE になってますが

himaginaryhimaginary 2014/07/29 01:43 ご指摘ありがとうございます。修正しました。