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himaginaryの日記

2015-01-29

ヘクシャー・オリーンの定理は何についてであって何についてでないか・補足

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一昨日紹介したこちらのブログエントリのコメント欄で、assafzimというコメンターが、ヘクシャー・オリーンの定理について別の表現を示した:

The way I think about the HO framework is that it is a model of how open economies absorb abundant factors, which is very different from what happens in a closed economy. In a closed economy (and in the intuitive thinking of 98% of economists…) the way abundant factors are absorbed is by a decline in their relative price. However, in an open economy, according to HO, this will not happen. Instead, the economy will specialize in industries that make intensive use of the abundant factor. Now, the reason this production effect isn’t the end of the story is the Stolper-Samuelson effect. If an economy produces more of a labor intensive good, and consumes it domestically, this will push down the price of that good, which, according to the Stolper-Samuelson theorem, will lower the price of labor. So, for the HO story to work (absorbing through specialization without a lowering of the price of a factor), the country must export this increase in production of the labor intensive goods.

(拙訳)

私は、ヘクシャー・オリーンの定理の枠組みを、開放経済が豊富な要素を如何に吸収するかのモデルと捉えている。そこで起こることは閉鎖経済とは随分違う。閉鎖経済(および、経済学者の98%の直観的な考え)では、豊富な要素は、相対価格の低下という形で吸収される。しかし開放経済では、ヘクシャー・オリーンの定理によれば、そうはならない。開放経済では、経済は豊富な要素を集中的に使用する産業に特化する。ただし話はこの生産効果では終わらない。その理由は、ストルパー=サミュエルソン効果にある。経済がより労働集約的な財を生産し、それを国内で消費すれば、その財の価格は下がり、ストルパー=サミュエルソン定理により、労働の価格も下がる。従って、ヘクシャー・オリーンの定理が働くためには(=要素価格を下げることなしに特化を通じて吸収するには)、国はそうした労働集約財の増産分を輸出しなければならない。

従って、消費に関する都合の良い仮定だけによって生産と輸出が結びついているわけではない、というのがこのコメンターの指摘である。それに対しブログ主のDingelは全面的な同意を示している。

2015-01-28

2014年に雇用が300万人伸びた理由

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ぐぐってみると既にunrepresentative agentさんがディーン・ベーカーによる反論も含めて丁寧に解説されているが、マンキューが表題の問いに対する回答として以下の要旨のNBER論文ungated版)を紹介している論文のタイトルは「The Impact of Unemployment Benefit Extensions on Employment: The 2014 Employment Miracle?」で、著者はMarcus Hagedorn(オスロ大学)、Iourii Manovskii(ペンシルベニア大学)、Kurt Mitman(ストックホルム大学)。

We measure the effect of unemployment benefit duration on employment. We exploit the variation induced by the decision of Congress in December 2013 not to reauthorize the unprecedented benefit extensions introduced during the Great Recession. Federal benefit extensions that ranged from 0 to 47 weeks across U.S. states at the beginning of December 2013 were abruptly cut to zero. To achieve identification we use the fact that this policy change was exogenous to cross-sectional differences across U.S. states and we exploit a policy discontinuity at state borders. We find that a 1% drop in benefit duration leads to a statistically significant increase of employment by 0.0161 log points. In levels, 1.8 million additional jobs were created in 2014 due to the benefit cut. Almost 1 million of these jobs were filled by workers from out of the labor force who would not have participated in the labor market had benefit extensions been reauthorized.

(拙訳)

我々は失業給付期間が雇用に与える影響を測定した。我々は、大不況の最中に導入された前例の無い給付期間の延長を更新しないという2013年12月の議会の決定により生じた変動を利用した。2013年12月初め時点では米国の各州においてゼロから47週までの幅があった連邦給付の延長期間は、突然ゼロに削減された。我々は、識別を行うため、この政策変更が米国各州にとって外生的であったという事実を用い、州境での政策の不連続性を利用した。我々は、給付期間の1%の減少が0.0161対数ポイントの統計的に有意雇用の増加につながることを見い出した。水準で言えば、給付削減により2014年に180万の職が追加的に創出された。その職のうち100万近くは労働力人口の外にいた労働者によって埋められたが、彼らは給付延長が更新されていたならば労働市場に参加していなかったであろう人々であった。

2015-01-27

ヘクシャー・オリーンの定理は何についてであって何についてでないか

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18日エントリに元中央大学教授の塩沢由典氏からコメントを頂き、なるほどそういうものかと改めてコーエンのエントリを読み直していたところ、コメント欄でシカゴ大学准教授のJonathan Dingelが、表題の自ブログエントリ(原題は「What the Heckscher-Ohlin theorem is and is not about」)にリンクする形でコーエンに反論していることに気付いた。

Dingelはコーエンの挙げた4点のうち、2点目(資本と労働の「実効単位」を同定することは重要であると同時に困難)と3点目(ヘクシャー・オリーンの定理は絶対量ではなく比率の話)には賛意を表している。しかし、1点目――ヘクシャー=オリーンの定理は輸出が相対的に資本集約的になるか労働集約的になるかの話であり、生産それ自体の話ではない――については、こちらの論文を援用しながら異を唱えている。

Why does production composition determine net export composition in this model? Well, the factor-abundance theory is a story about economies’ endowments determining the pattern of trade. To talk only about endowments (and thus only about supply-side elements), we have to neuter demand by assuming identical, homothetic preferences. Given commodity-price equalization and homothetic preferences, each country has a consumption vector that is proportionate to its share of world income. With no differences in the composition of consumption, differences in the composition of production translate into differences in the composition of net exports, which are simply production minus consumption.

Thus, the prediction about the pattern of trade simply falls out of the prediction about the pattern of production.

(拙訳)

なぜこのモデルでは生産の構成が純輸出の構成を決定するのか? 要素賦存定理というのは、経済に与えられた賦存量が貿易パターンを決める、という話である。賦存量のことしか取り上げない(従って供給要因しか取り上げない)ため、我々は同一で相似の選好を仮定することによって需要を中立化しなくてはならない。財価格の均等化と相似的な選好という前提の下では、各国の消費ベクトルは、世界における自国の所得の占有比率に比例する。消費の構成には差が無いため、生産の構成の差は純輸出の構成の差になる。ここで純輸出は単純に生産から消費を差し引いたものである。

従って、貿易パターンに関する予測が単純に生産パターンの予測から出てくることになる。

2015-01-26

長期のブルベア

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というNBER論文上がっている。原題は「Long-run Bulls and Bears」で、著者はRui Albuquerque(ボストン大)、Martin Eichenbaum(ノースウエスタン大)、Dimitris Papanikolaou(同)、Sergio Rebelo(同)。

以下はその要旨。

A central challenge in asset pricing is the weak connection between stock returns and observable economic fundamentals. We provide evidence that this connection is stronger than previously thought. We use a modified version of the Bry-Boschan algorithm to identify long-run swings in the stock market. We call these swings long-run bull and bear episodes. We find that there is a high correlation between stock returns and fundamentals across bull and bear episodes. This correlation is much higher than the analogous time-series correlations. We show that several asset pricing models cannot simultaneously account for the low time-series and high episode correlations.

(拙訳)

資産価格における主要課題は、株式のリターンと観測できる経済ファンダメンタルズとの間の弱いつながりである。我々は、このつながりが従来考えられていたよりは強いという証拠を提供する。我々はブライ・ボッシャン法の修正版を用い、株式市場の長期の振れを特定した。我々はそれらの振れを長期の強気相場と弱気相場と呼ぶ。強気相場と弱気相場を通して株式のリターンとファンダメンタルズの間には高い相関があることを我々は見い出した。この相関は似たような時系列相関よりかなり高い。我々は、幾つかの資産価格モデルは、弱い時系列相関と高い相場相関を同時に説明できないことを示す。

論文のungated版は見当たらなかったが、スライド版はこちら

ブライ・ボッシャン法の日本語での説明はこちらの内閣府資料の最後の「(参考1)」を参照。

スライド版によると、論文のブライ・ボッシャン法の修正版では、移動平均の代わりにバンドパスフィルタを用いるといった修正を施したとの由。その上で、株価指数だけを対象にその手法適用し、米国の1871-2006年の期間において以下のように山谷を判定したという。

f:id:himaginary:20150126225645j:image

そしてその「強気相場(ブル)期」と「弱気相場(ベア)期」で区分けすることによって、以下のように株式のリターンと他のファンダメンタルズ指標との間に高い相関が見られたとのことである。

平均強気相場弱気相場全期間
年数16.84.20
割合0.800.20
株式リターン9.13-3.886.55
債券リターン1.980.011.65
エクイティプレミアム7.15-3.894.90
消費の伸び2.73-0.971.78
生産の伸び2.980.642.08
配当の伸び3.47-3.140.99
利益の伸び5.8-9.671.63

また、通常の1年や5年といった期間の相関と、相場期での相関を比較したのが下表である(=米国の1871-2006年における株式リターンと各ファンダメンタルズ指標の伸びとの相関)。

消費生産配当利益
1年0.0900.136-0.0390.126
(0.089)(0.101)(0.0956)(0.1038)
5年0.3970.2490.3820.436
(0.177)(0.137)(0.148)(0.179)
10年0.248-0.0010.6420.406
(0.184)(0.113)(0.173)(0.125)
15年0.241-0.0360.6020.425
(0.199)(0.148)(0.158)(0.111)
相場0.6150.3080.7130.708
(0.271)(0.303)(0.305)(0.292)
加重相場0.6310.2680.7870.692
(0.147)(0.168)(0.131)(0.149)

(括弧内は標準誤差)


著者たちは米国だけではなく17のOECD諸国と7の非OECD諸国についても同様の分析を行っている。米国先進国の各相場期の同期性は高く、0から1の値を取る同期性測定指標は最高で0.93に達し(カナダオランダ)、また、韓国コロンビアを除きすべて0.5を超えたという。


スライドの最後では、時間を表す古代ギリシャの2つの単語としてクロノスカイロスを持ち出し、クロノスは通常の時間だが、本研究では、何か特別なことが起きる不確定の時間であるカイロス資産価格が相関していることを示した、と述べている。

2015-01-25

最も財政の信頼性が高い国

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についてローレンス・コトリコフが書いている(H/T マンキュー)。

Economists have been slow to realize that the official debt and its annual change – the deficit — measures fiscal language, not fiscal policy. But the profession is now clear on the point. Over 1,200 economists, including 17 Nobel laureates in economics, have endorsed www.theinformact.org, a U.S. federal law mandating infinite-horizon fiscal gap accounting by government agencies.

Fiscal gaps are measured as the share of GDP needed to be raised each year in additional taxes to permit the government to meet all its expenditure commitments through time, including those labeled “debt service.” The most recent measurement of EU fiscal gaps was done in 2012 for 24 member states by the European Commission. The results are shown in Table 3.5 of the European Commission’s Fiscal Sustainability Report 2012.

(拙訳)

経済学者たちは、債務の公的数字とその年間の変化額――財政赤字――は財政の言語の指標であり、財政政策の指標ではないことに気付くのが遅れた。しかし今やその点についての経済学者たちの意見は明確になっている。17人のノーベル経済学賞受賞者を含む1200人以上の経済学者が、無限期間の財政ギャップ会計を政府機関に義務付ける米連邦www.theinformact.orgを支持した。

財政ギャップは、「債務元利払い」と呼ばれているものを含めた全期間のすべて支出義務を賄うことを可能ならしめるために、毎年の追加的な税金という形で調達すべき額のGDP比率として測られる。直近のEUの財政ギャップの計測は2012年に欧州委員会によって24の加盟国について行われた。その結果は欧州委員会2012年版財政持続性報告書の表3.5に示されている。

その表からコトリコフは以下の数字を引用している。

ルクセンブルク9.7%
ベルギー7.4%
オランダ5.9%
英国5.2%
フィンランド5.1%
スペイン4.8%
フランス1.6%
ドイツ1.2%
イタリア-2.3%

24ヶ国で最も財政ギャップが低かったのはイタリアで、1800億ユーロ支出増加余地があるとの由。二大年金改革医療費支出の抑制が効を奏したという。欧州全体の平均は2.4%。一方、米国は10.5%になるとのことである。にも関わらず、政治家たちが財政の持続性の言語指標と経済指標を区別できず、完全な破綻状態にある米国が巨額の紙幣を印刷しながら極めて低コストでの借り入れができる半面、イタリア自国より財政状態の悪い国から財政の慎重さについて説教を受ける、という奇妙な世界になっている、とコトリコフは皮肉っている。


ちなみに日本については、2010年のこちらの論文で、中央・地方政府ベースで10.1%、一般政府ベースで15.0%という試算が示されている。