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himaginaryの日記

2014-04-19

サマーズ「金融政策よりは公共投資を」

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FT Alphavilleでイザベラ・カミンスカが、INETコンファレンスでのサマーズのインタビューを書き起こしている。以下はその概要。

  • 2008年の金融危機は世界にとってひどい出来事だったが、内省を余儀なくさせたという点で経済学にとっては良いことだった。過去25年間におけるニューケインジアンや古典派経済学の通念は再考を余儀なくされた。
  • マクロ経済学が取り組むべきは生産ギャップであって、生産の変動性ではない。今日教えられている事実上すべてのモデルは、政策が影響を与えられるのは生産の変動性であって平均水準ではない、と仮定しているが、それは完全に的を外している。生産ギャップを回避することこそ真の課題であり、確率過程ではなく出来事に取り組むべき。2004年から2005年に掛けてのGDPの細かな変動などではなく、2008年の金融危機、日本のバブル崩壊大恐慌北欧危機のような出来事に取り組むべきなのだ。
  • 事実上すべてのマクロ経済学は、余暇が良くて労働が悪い、と前提しているが、これは正しくない。引退が健康に良くないという医学証拠は山ほどあるし、本コンファレンスの参加者の大部分も、同じ給料を貰い続けながらすべての職から外されることを快く思わないだろう。確かに人々がこれ以上働きたくないと思う限界点は存在するが、今のマクロ経済学の単純な前提よりは話は複雑。
    • 技術進歩に纏わる構造的および循環的な事象に取り組む際に経済学は、自分が何がしかの貢献を行ったことからもたらされる人々の基本的な満足感、というものを認識する必要がある。それは、今の経済学の教科書にはまったく載っていない。
  • ここまで、マクロ経済学が適切なものとなるために教科書に載せるべきことを幾つか挙げたが、今後十年の現実を見据えるならば、長期停滞も教科書に載せるべき。
  • 長期停滞は、人々の貯蓄性向と、その貯蓄を投資に振り向けたいと思う欲望との間の、慢性的かつ構造的なミスマッチ。その理由として考えられるのは:
    • 名目金利のゼロ下限によって投資を貯蓄と均衡させる金利が制約されている
    • 貯蓄の金利への反応度が均衡を可能ならしめるものではない
    • 完全雇用において貯蓄と投資を等しくする金利が、それによって生み出されるポンチ金融バブルのせいで維持可能な金融と両立しない
  • ケインズはその著書を、特定の状況下における雇用・利子および貨幣の特別理論、と題するべきだった。その特定の状況とは、慢性的な需要不足。その問題についての彼の洞察は、金融政策よりは財政政策の方が相対的に効果があり望ましい、というものであり、経済が自己修復するという前提には根拠が無い、というものだった。これはまさに我々が置かれているマクロ経済的状況に当てはまる。
  • 工業国において、構造改革抜きでは金融政策が完全雇用金融安定を同時達成するのは非常に困難、というのが自分の所見。以下のことがその考えを支持している:
    • 米国が直近に完全雇用に近かった2003-2007年において、明らかに我々は金融面で持続可能な政策を追求していなかった
    • 日本において、金融政策が完全雇用と整合的な生産水準をもたらすことに根本的な困難が伴った
  • 自分の所見が間違っていたら良いと思うし、判断に確信を持っているわけではないが、今後の政策を考える上で考慮しておくべき話ではある。不況突入以降の米国の成長率は官民の予測を下回ったし、ましてや生産ギャップを埋めることも叶わなかった。
  • インフラ投資の余裕は無い、という人もいるが…
    • GDP乗数効果を考えれば、インフラ投資が自らを賄う可能性は十分にある。
    • 今日の不況を緩和すれば明日の潜在生産力が上昇するのは今や明らかな事実。これは、需要不足が将来の供給不足を創り出すという逆セーの法則インフラ投資は生産能力を上げて将来の生産を増加させる。
    • 財政赤字を心配する人は、子供たちを心配することにかけて倫理的独占権を有していると思っている。自分に言わせれば、科学の発展への投資の不在、インフラの維持管理の先延ばし、人員削減で機能しなくなった公共部門を子供に引き継ぐ方が、実質ベースで1%未満の金利で累積する「紙の負債」を引き継ぐより余程心配。
      • 維持管理を先延ばしして問題を悪化するに任せた場合、費用は実質ベースで1-2%よりもっと早いペースで増大する。
  • 長期停滞への対処法は3つある:
    1. いずれ問題が解消すると願う
    2. 実質金利がマイナスになる必要があるというならば、そこまで下げる
    3. 所与の金利水準での需要水準を上げる
  • 自分が実質金利引き下げより需要喚起策を好むのは、金利引き下げ効果に確信が持てないため:
    • 今の金利水準で投資しない企業で引き下げれば投資する企業はどれだけあるのか?
    • 金利金融の安定性はどうなるのか?
    • 社会の上位層が資産を独占している状況下で、金利を引き下げて資産価格を上昇させたら所得分布はどうなるのか?
    • 金利が極端に低く、債券の利払いがゼロに近いと、リチャード・クーが力説しているように、ゾンビ企業が大いに長らえてしまうのではないか?
      • それは民間部門にとって非常に健全な環境とは言えまい

2014-04-18

金融危機時にはテイラールールは役に立たない

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という趣旨の論文「Macroprudential Regulation and the Role of Monetary Policy」をランカスター大のWilliam TaylerとRoy Zilbermanが書いている。

以下はその要旨。

This paper examines the macroprudential roles of bank capital regulation and monetary policy in a Dynamic Stochastic General Equilibrium model with endogenous financial frictions and a borrowing cost channel. We identify various transmission channels through which credit risk, commercial bank losses, monetary policy and bank capital requirements affect the real economy. These mechanisms generate significant financial accelerator effects, thus providing a rationale for a macroprudential toolkit. Following credit shocks, countercyclical bank capital regulation is more effective than monetary policy in promoting financial, price and overall macroeconomic stability. For supply shocks, macroprudential regulation combined with a strong response to inflation in the central bank policy rule yield the lowest welfare losses. The findings emphasize the importance of the Basel III regulatory accords and cast doubt on the desirability of conventional Taylor rules during periods of financial distress.

(拙訳)

本稿は、内生的な金融摩擦と借入コストの経路を持つ動学的確率的一般均衡モデルで、銀行の資本規制および金融政策のマクロプルーデンシャル的な役割を調べた。我々は、信用リスク、商業銀行の損失、金融政策ならびに銀行の所要資本規制が実体経済に影響する様々な伝達経路を特定した。これらの伝達機構は顕著なフィナンシャルアクセラレーター効果をもたらすため、マクロプルーデンシャル政策を正当化する。信用ショックの後は、金融物価マクロ経済全体の安定を促進する上で、反景気循環的な銀行の資本規制の方が金融政策より有効であった。供給ショックについては、中央銀行の政策ルールにおけるインフレへの強力な対応を伴ったマクロプルーデンシャル規制が厚生損失を最小限に留めた。これらの発見はバーゼル3規制の重要性を際立たせ、金融危機時に従来型のテイラールールを適用することの望ましさについて疑念を投げ掛けるものである。

2014-04-17

満期からの逃走

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というイェール大の3人の研究者が書いた論文がNBERに上がっている。原題は「The Flight from Maturity」で、著者はGary B. Gorton、Andrew Metrick、Lei Xie*1

以下はその要旨。

Why did the failure of Lehman Brothers make the financial crisis dramatically worse? The financial crisis was a process of a build-up of risk during the crisis prior to the Lehman failure. Market participants tried to preserve an option or exit by shortening maturities – the “flight from maturity”. With increasingly short maturities, lenders created the possibility of fast exit. The failure of Lehman Brothers was the tipping point of this build-up of systemic fragility. We produce a chronology of the crisis which formalizes the dynamics of the crisis. A crisis is a dynamic process in which “tail risk” is endogenous.

(拙訳)

なぜリーマンブラザーズの破綻は金融危機を劇的に悪化させたのか? かの金融危機は、リーマン破綻以前のリスクの積み上げ過程であった。市場は満期を短くすることによって出口のオプションを確保しようとした――「満期からの逃走」である。満期がますます短期化するに連れ、借り手は早期の出口の可能性を高めた。リーマンブラザーズの破綻は、この積み重ねられたシステミックな脆弱性臨界点となった。我々は危機の動学を明確にする年代記を作成した。危機とは、「テールリスク」が内生的であるような動学過程なのだ。

*1:なお、2012年9月2日時点のWPではXieの肩書きはイェールだが、現在のNBERの登録はAQRキャピタルマネジメントとなっている。

2014-04-16

ロゴフのグローバルインバランスの認識は的外れ?

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デロングがロゴフの4/8付けProject Syndicate論説批判している


デロングの批判はまず、2000年代の米国の経常赤字に関するロゴフの認識に向けられている。これについてデロングは概ね以下のようなことを書いている。

  • 米国への投資は相対的に低リターンであったが、投資家リスク調整後の高リターンではなく政治的リスクへの保険を求めていたと思われる。結果、米国の対外純資産残高が2000年代に大きく損なわれることはなかった。経常収支の世界的な不均衡によって米国の対外純資産残高の維持が不可能となり、必然的にドルの暴落とドル危機を招く、という懸念は杞憂に終わった。
  • 次いで持ち出された懸念が、いざ世界的な不均衡が是正される段になると、米国は、消費財や国内建設やその他の投資部門から輸出部門に円滑に労働者を移行させることができず、高い構造的失業が生じるだろう、というもの。この懸念も外れていたことが2008年に明らかになった。米国は部門間で労働者と資源を問題なく移行することができた――危機が生じるまでは。
  • ロゴフが後知恵的に持ち出した3番目の懸念は、2000年代の経常赤字が、住宅購入のための家計の借り過ぎを背景としていた、というもの。確かに借り過ぎと建て過ぎはあったが、それは全体から見れば小さなものだった。住宅の過剰供給は1兆ドル、住宅の購入者、建築主融資者の総損失は5000億ドルに上ったが、ITバブル崩壊時に4兆ドルに上ったIT関連企業の価値の喪失よりは小さい。200兆ドルの資産を有する年間50兆ドルの世界経済においては、5000億ドルの損失は1日の株式市場の下げ幅に相当するに過ぎず、世界経済を10年に亘って不調に陥らせるような不均衡とはなり得ない。問題は借り過ぎや建て過ぎではなく、銀行の過剰レバレッジだったが、それについてロゴフは言及していない。

次いでデロングは、ドイツが財政政策を発動しても欧州が受ける恩恵は限られるだろう、というロゴフの見解に矛先を向けている。デロングによれば、その見解を打ち出すに当たってロゴフが依拠した研究は、ゼロ金利下限制約の無い状況に関するものであり、現状では無関係、とのことである。通常でない時に通常であるかのように話を進めたため、ロゴフの議論は大きく迷走している、という辛辣な言葉でデロングはエントリを締め括っている。

2014-04-15

労働者にとっては小さな数歩、生産性にとっては偉大な飛躍

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昨日紹介したディローのGDPギャップ批判において、GDPギャップがミクロ的基礎付けを欠いている、という主張の展開に際し表題の論文が援用されていた。原題は「Small steps for workers, a giant leap for productivity」で、著者はIgal Hendel(ノースウエスタン大)、Yossi Spiegel(テルアビブ大)。

以下はその要旨。

We document the evolution of productivity in a steel mini mill with fixed capital, producing an unchanged product with Leontief technology. Despite the fact that production conditions did not change dramatically, production doubles within the sample period (almost 12 years). We decompose the gains into: downtime reductions, more rounds of production per time, and more output per run. After attributing productivity gains to investment and an incentive plan, we are left with a large unexplained component. Learning by experimentation, or tweaking, seems to be behind the continual and gradual process of productivity growth. The findings suggest that capacity is not as well defined, even in batch-oriented manufacturing.

(拙訳)

我々は、固定資本でレオンチェフ技術によって同じ製品を生産し続ける電炉鉄鋼メーカーの生産性の向上を調べた。生産条件が大きく変化しなかったにも関わらず、調査対象期間(ほぼ12年)で生産は倍増した。我々は生産性の上昇を、不稼働時間の削減、時間当たりの生産の回転数の増加、生産の一回転当たりの生産量の増加、に分解した。生産性の上昇を投資と動機付け計画に帰した後には、大きな説明できない要因が残った。実験や微調整によって学習するということが、継続的かつ逐次的な生産性上昇の背景にあるように思われる。この発見は、生産能力というものが、生産過程が一括処理的な製造業においてすら、きちんと定義できないことを示唆している。