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himaginaryの日記

2016-06-27

ブラッド・デロングへの現状に関する10の質問

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デロングが現在の経済の状況について10の質問を自問自答している自ブログエントリ。H/T Economist’s View)。以下はその概要。

  1. 景気後退の可能性?
    • 小さいが、極めて小さいというわけではない。
  2. 長期停滞?
    • 我々が「長期停滞」と呼んでいるものが主に供給側の話ならば、各部門で需要が供給を超過してボトルネックにより価格に上昇圧力が掛かっている兆候を今よりも多く目にしているはず。現在ボトルネックと価格上昇圧力がみられるのは世界の主要都市での住宅価格のみであるが、そこでは地域住民エゴという力学が働いている。
  3. 金利の均衡水準?
    • 市場が示す水準は低い。残る問題は、その原因が、利益をもたらす投資機会の不足か、それとも世界的なリスク負担能力の不足か、ということ。いずれの理論にも支持する証拠がある。
  4. FRBは12月に金利を引き上げるべきだったか?
    • 否。プラス面が無くマイナス面が見えていたのだから、事前的にも間違いだった。マイナス面が現実のものとなった事後的には中程度の間違い。
  5. インフレ目標の引き上げ?
    • 1990年代半ば時点で2008-2016年のような状況が生じる可能性が予見できた場合、年率2.5%のCPIインフレ目標を合理的と考える人はいない。4%が合理的だと考えたはず。どの時点から見ても賢明でない政策にこだわる理由は存在しない。愚かであることについて信認を得たいとは思わないはず。
  6. FRBのパフォーマンス?
    • バーナンキもイエレンも、職への備えという点でも知力と能力という点でも世界的水準にあり、1995年以降のどの第一世界の中央銀行家よりも優れた実績を残した。我々は幸運であった。彼らは以前の間違いの繰り返しを回避した半面、彼ら自身の間違いを犯し、これからも犯すだろう。しかし我々がリアルタイムないし事後に指摘する政策の失敗は、彼らの不適格性ではなく直面する課題の難しさを示すものである*1ブッシュオバマが彼らを指名したことは幸運だったのであり、それに同意しなかった上院議員は自らを大いに恥ずべきである。
  7. トランプ?
    • ハリウッドスタイルで政治に挑んで失敗したシュワルツェネッガーの轍を踏むことが望まれるが、ベルルスコーニのような成功を収めることが危惧される。もっと悪いシナリオはムッソリーニ
    • トランプが勝利して思ったよりもまともな人物だった場合、もしくはクリントンが勝利した場合は、3つのシナリオが考えられる:
      1. 完全なグリッドロック
      2. ワシントンを機能不全にするのは良くないということに人々が気付き、頑なにイデオロギーをふりかざす代わりに、1993年以前のように折衝を繰り返す、というかつて正常と見做されていた状況が復活する。
      3. トランプのお蔭で共和党議会での力が失われる。
  8. 中国
    • 習近平の望む「民主的中央集権制度」への回帰が、繁栄する現代の経済と両立するものなのかどうかは不明。19〜20世紀の欧州の経験するからすると答えは否だが、欧州が良い手本とは限らない。中所得の罠についても、中南米特有の現象かもしれない。
    • 中国の長い歴史は、世界人口の5分の1を擁する国が世界で最も繁栄し最も平和的な地域として主導的な地位に立つのが自然、ということを示している。ただ、200年のスパンで考えればそうかもしれないが、50年のスパンでは懸念が大いにある。
    • 中国ショックの米国への影響の大きさは中程度に留まると考えられ、FRBFRB以外の政策当局に総需要を安定させる意思と能力があれば懸念には及ばない。しかし、FRBには意思があっても能力が無いかもしれない。そしてFRB以外の政策当局には能力があっても意思が無い…。
  9. ブレグジット
  10. 新興国市場のリスク
    • 教科書的なモデルでは、新興国通貨の価値が市場に従っているならば、米国の金融引き締めは新興国市場にとって拡張的となる。それは間違っているように思われるが、間違いの理由が明らかでない。新興国は海外からインフレファイターとしての信認を得るために通貨を完全なフロート制にするわけにいかないのが理由、という人もあれば、国際的な資本の流出入には資金調達だけでなくリスク負担や起業家精神という要因もある、という人もある。従って、モデルから導かれる理由はかなり曖昧模糊であるものの、現在のFRBの引き締めサイクルは大いに懸念すべき。
    • 経済成長が期待外れに終わるのは、いつものこと。西欧の栄えある30年の収斂、アジアの虎、日本の明治・昭和、現代の中国ウィルヘルム時代のドイツに注目しがちだが、それらは例外。1850年頃にカール・マルクスジョン・スチュアート・ミルは、それぞれ異なる理由(ミル=世界貿易・親市場的な英国の制度の移植・ミルらが仕切るインド総督府の優れた政治、マルクス=共産主義革命)で、今後50年以内にインド産業構造生産性水準が英国レベルに収斂することを予測したが、両人とも間違っていた。今日、情報や知識が安価に入手できるようになったにも関わらず、依然として10億人が産業革命時代以前の人と変わらぬ暮らしを送っている。

*1:デロングがイエレンと同程度にFRB議長に推していた師匠のサマーズはもう少し辛口の評価のように思われるが…。

2016-06-26

ドイツがオーストリアとも米国ともイタリアとも違った理由

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前回エントリで紹介したProject Syndicateの引用部の続きをMostly Economicsが別エントリで紹介している。そちらの引用部では、オーストリアと同様の失敗をドイツが犯さなかった理由が述べられている。

Germany’s growth was not similarly affected, for three reasons. To begin with, after the fall of Communism, Austria reoriented its foreign direct investment almost exclusively to Eastern Europe, which accounted for nearly 90% of its FDI outflows. In Germany, just 4% of FDI moved to Eastern Europe in the 1990s, reaching 30% at the turn of the century. As a result, Austria became much more integrated with Eastern Europe.

Second, Germany was richer in skills than Austria. In 1998, the share of the German population with academic degrees was 15%, more than double the Austrian level. German firms did relocate high-skilled work to the east, but not to the extent that Austria did. As a proportion of the workforce, German affiliates in Eastern Europe employed three times as many people with academic degrees as their parent firms did. And German subsidiaries employed 11% more researchers than their parent companies.

Finally, many of the Austrian parent companies were themselves subsidiaries of foreign firms, while German firms were German multinationals, which transplanted their corporate culture to their Central and Eastern European subsidiaries. They employed more German managers relative to local managers, which gave them more control over innovation. Furthermore, most German investments were based on the transfer of an established technology; only 8% of the country’s FDI in the region involved cutting-edge research.

By contrast, Austrian firms adapted their business to the region’s environment and employed more local managers than Austrians. As a result, their subsidiaries were more autonomous in their innovation decisions. There was no mechanism that guaranteed that the knowledge created in a subsidiary also benefited the parent company.

(拙訳)

ドイツの成長率はそのような影響を受けなかったが、それには3つの理由がある。第一に、共産主義の崩壊後、オーストリアは海外直接投資を専ら東欧に振り向け、その割合は対外投資の90%近くに達した。ドイツでは、90年代には海外直接投資の4%が東欧に向けられたに過ぎず、世紀の変わり目に30%になった。その結果、オーストリアの方が東欧とより密接に統合された。

第二に、ドイツの技能はオーストリアより高かった。1998年時点で、ドイツの人口に占める学位保有者の割合は15%で、オーストリアの倍以上だった。ドイツの企業も熟練度の高い仕事を東欧に移転したが、その程度はオーストリアほどではなかった。東欧でのドイツ子会社は、労働人口比にして親会社の3倍の学位保有者を雇った。またドイツ子会社研究者を親会社に比べ11%多く雇った。

最後に、オーストリアの親会社の多くはそれ自身が海外企業の子会社であったが、ドイツ企業はドイツ多国籍企業で、自分の企業文化を中東欧子会社に移植した。現地の管理者よりもドイツ人管理者を多く雇ったため、技術革新をコントロールすることができた。また、ドイツ投資の大部分は既存技術の移転をベースとしていた。同地域への海外直接投資最先端の研究に関連していたのは8%に過ぎなかった。

対照的に、オーストリア企業は自社ビジネスを地域の環境に適合させ、オーストリア人の管理者よりも現地の管理者を多く雇った。その結果、技術革新の決定において子会社はより自律的となった。子会社で創造された知識が親会社をも益することを保証する仕組みは存在しなかった。


一方でMostly Economicsは、同じ著者がVoxEU論説で、上記の記述と一見矛盾することを書いていることを指摘している。

In a new piece by the same author Prof Dalia Marin, she says Germany inequality is lower than US. Guess the reason? It is because German firms relocated work to Eastern Europe and reduced the skill wage premium!

Income inequality is less severe in Germany than in the US. Part of this is due to CEO pay in the US growing faster than in Germany. This column offers some novel explanations for these observations. From the mid-1990s, Germany began offshoring managerial tasks to Eastern Europe, reducing demand for German managers. In addition Germany offshored skill-intensive jobs to Eastern Europe, reducing the skill premium.

Based on both, it seems inequality might be much lower for Austria but has backfired in terms of growth.

Complicated economics. Move one thing and other falls. Save the other and the first falls..game goes on..

(拙訳)

同じDalia Marin教授の新しい記事では、ドイツの不平等度は米国より低いと書かれている。理由は何か? ドイツが職を東欧に移転して技能の賃金プレミアムを削減したためとのことである!

ドイツ所得格差米国ほど深刻ではない。その理由の一つは、米国でのCEOの報酬がドイツに比べ急速に伸びていることにある。この論説記事では、そうした観察される現象についての新たな説明を提供する。1990年代半ばから、ドイツは管理業務を東欧に移転するようになり、ドイツ人管理者への需要が減少した。また、ドイツは技能集約的な仕事も東欧に移転し、技能プレミアムが低下した。

二つの話を総合すると、オーストリアでは不平等度は一層低くなったが、成長という点では逆効果が生じた、ということになるかと思われる。

複雑な経済学である。あちらを立てればこちらが立たず、こちらを維持しようとするとあちらが倒れる。そしてゲームは続く…。


ちなみにMostly Economicsの別のエントリでは、ドイツの内なる東欧であったとも言える旧東独地域の経済発展について、別の著者*1によるVoxEU記事紹介している

Since Italy’s monetary unification some 155 years ago, income per capita in the South (the Mezzogiorno) has fallen from virtually the same level as in the Centre-North to little more than 55% of the Centre-North’s level. This column asks why East Germany hasn’t suffered the same fate since German monetary unification 25 years ago. East Germany is not like the Mezzogiorno because of labour market flexibility, different evolutions of the tradeable sector, and the weight of history.

(拙訳)

およそ155年前のイタリア通貨統合以降、南部(メッツォジョルノ)の一人当たり所得は、北・中部と事実上同レベルの水準から、その55%強の水準まで低下した。本論説では、25年前のドイツ通貨統合以降に東ドイツが同様の運命を辿らなかった理由を探る。東ドイツがメッツォジョルノと違っていたのは、労働市場の柔軟性、貿易部門の発展の違い、歴史の影響*2においてであった。

*1:Andrea Boltho(オックスフォード大)、Wendy Carlin(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)、Pasquale Scaramozzino(ロンドン大東洋アフリカ研究学院、ローマ大学トルベルガータ校)。

*2cf.ブログでの関連エントリ12。なお記事では、東独地域の社会資本共産主義時代の40年間で失われなかった証左として、同地域におけるボランティア仕事や非営利組織や臓器提供の頻度が西独地域と同等か(臓器提供の場合)それ以上であることを挙げているが、それらは社会主義体制における滅私奉公文化の名残りという気がしなくもない。

2016-06-25

オーストリア経済の蹉跌をオーストリア学派はいかに解決するか?

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と題したエントリで、Mostly Economicsがミュンヘン大学のDalia MarinのProject Syndicate論説紹介している。以下は論説からの引用部。

Austria was once lauded as Germany’s more successful neighbor, one of Europe’s fastest-growing countries. But its economy has been sputtering since 2012, with GDP up last year by a meager 0.7%; only Greece and Finland performed more poorly. And Austria’s unemployment rate has soared, from 5% in 2010 to 10% today.

These developments have their origins in how Austria engaged with Central and Eastern Europe after the fall of communism. At first, Austria benefited from the European Union’s eastern enlargement. International trade soared, Austrian firms invested heavily in the region, and Austrian banks opened subsidiaries there, financing these countries’ modernization. All of this was good for business, and the Austrian economy grew rapidly.

But a hidden dynamic ultimately turned the tables on this success. Central and Eastern European countries had low per capita income, but were rich in skills. Austria, far wealthier, was not. In 1998, 16% of Central and Eastern Europeans (including Russia and Ukraine) had academic degrees, compared to just 7% of Austrians. So, when Austrian firms invested in Eastern Europe, they did not just relocate low-skilled manufacturing jobs; they also offshored the parts of the value chain that required specialized skills and produced valuable research.

According to my research, from 1990 to 2001, Austrian subsidiaries in Eastern Europe employed five times as many people with academic degrees, as a percentage of staff, as their parent firms did. They also engaged 25% more research personnel in their labs.

This relocation of research activity lowered growth in Austria and boosted growth in Eastern Europe. Research spills over to the rest of the economy, as new knowledge diffuses into commercial activities. Tapping the knowledge produced by Austrian subsidiaries was one of the ways Eastern European economies were able to grow so quickly.

Today, Bratislava, Prague, and Warsaw – the location of most Austrian subsidiaries – have higher per capita incomes than Vienna. Indeed, according to the Hungarian economist Zsolt Darvas, in terms of purchasing power parity, all three cities surpassed Vienna in 2008. This is a remarkable development, given that Vienna has served as a reference point for these capitals for centuries.

(拙訳)

かつてオーストリアは、ドイツよりも成功した隣国欧州で最も高い成長を遂げている国の一つ、と称えられた。しかし2012年以降その経済は軋んでおり、昨年のGDPはわずか0.7%しか増えなかった。それを下回ったのはギリシャフィンランドだけである。そしてオーストリア失業率は2010年の5%から今日の10%まで大きく上昇している。

こうした展開は、共産主義の崩壊後にオーストリア中東欧とどのように関わってきたかに淵源がある。当初、オーストリアは、欧州連合東方拡大から裨益した。国際貿易は増加し、それらの地域にオーストリアの企業は多額の投資を行い、オーストリアの銀行は支店を開設して各国の近代化のために融資を行った。そうしたことすべては景気にプラスに働き、オーストリア経済は急速な成長を遂げた。

しかし隠れていた動学が最終的にはこの成功を引っ繰り返した。中東欧諸国は一人当たり所得は低かったが、技能は優れていた。オーストリアは、遥かに裕福ではあったものの、そうではなかった。1998年時点で(ロシアウクライナを含む)中東欧の人の16%が学位を持っていたのに対し、オーストリアでは7%に過ぎなかった。そのため、オーストリアの企業が東欧投資した時、移転したのは低熟練の製造業の仕事だけに留まらなかった。特別な技能を必要とするような価値ある研究を生み出すバリューチェーンの一部も移転したのである。

私の研究によれば、1990年から2001年に掛けて、東欧オーストリアの子会社は、職員の割合にして、親会社の5倍の学位保有者を雇った。研究所での研究者の数も25%多かった。

こうした研究活動の移転は、オーストリアの成長を低め、東欧の成長を押し上げた。新たな知識が商業活動に浸透することにより、研究は経済の他の部分にも波及効果をもたらした。オーストリアの子会社がもたらした知識に触れたことが、東欧経済があれほど急速に成長できた理由の一つである。

今日、オーストリアの子会社の大部分があるブラチスラヴァプラハワルシャワは、ウィーンよりも一人当たり所得が高い。実際、ハンガリー経済学者ツォルト・ダルヴァスによると、購買力平価ベースでは3都市とも2008年にウィーン超えているウィーンが何世紀もの間これらの首都の基準として機能してきたことを考えると、これは驚くべき展開である。


これについてMostly Economicsは以下のようにコメントしている。

Austrian school most likely would give thumbs up to the companies chasing higher returns abroad. But could be amazed to see how this could actually hurt the Austrian economy. What would be their suggestions?

(拙訳)

オーストリア学派は、海外で高い収益率を追い求める企業に賛意を表するだろう。しかしそうした動きがいかにオーストリア経済を損なったかを見て驚くだろう。彼らの提案はどんなものになるのだろうか?


ちなみにMarinが提唱する解決策は、高度な技能を持つ移民難民の受け入れである。

2016-06-24

サマーズ「世界的な財政出動を」

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22日エントリで紹介した記事でブレグジットの危険性を訴えていたサマーズが、ブレグジットが現実化したのを受けて早速「Why Brexit is worse for Europe than Britain」という記事を書いているWaPoFT。FT記事のタイトルは「The waves from Brexit start to spread」)。

サマーズの記事は市場(Markets)、経済(Economics)、概観(Broader Observations)の3つに分かれている。以下は経済のセクションからの引用。

As suggested by the fact that stock markets in Italy and Spain are down almost twice as much as in the UK, the prospects for Europe may in some ways be worse than for the UK. There is the real risk of “populist exit contagion” in a number of countries. A credit crunch is a serious risk. Unlike in Britain, the trade weighted exchange rate is unlikely to decline very much. The central bank has less room for incremental policy measures.

The effects on the rest of the world will depend heavily on psychology. I continue to be alarmed as I wrote in this space a few days ago that this unexpected outcome in the UK will raise the spectre of “Trump risk”. If the UK can vote for Brexit perhaps the U.S. can vote for Donald Trump. I fear this possibility will lead to a freezing up of spending decisions particularly on the part of internationally oriented businesses. The odds of U.S. recession beginning within the next 12 months are I think now in the 30 percent range. Also noteworthy is that an environment of increased risk aversion and flight to quality will complicate Japan’s problem of generating inflation, and China’s challenge of attaining currency stability.

To an extent that is underestimated in some quarters and understated in others, the world economy is far more brittle than usual because of the inability almost everywhere to lower interest rates substantially. Normally in response to incipient downturns central banks lower rates by 400 basis points or more. Nowhere do they have that kind of room. Nor is there large scope for reducing term and credit spreads given their very low levels. This is no time for austerity. Greater use of fiscal policy should be on the agenda almost everywhere and certainly with the change of government in the UK.

(拙訳)

イタリアスペイン株価英国の倍近く下落したという事実が示唆しているように、欧州の見通しはある意味英国よりも悪い。多くの国への「ポピュリスト的な離脱の伝染」というリスクが現実に存在している。クレジット・クランチも深刻なリスクだ。英国と異なり、貿易で加重した為替相場はあまり低下しそうにない。中銀の追加的な政策手段の余地も限られている。

それ以外の世界への影響は心理に大きく左右される。数日前にこの欄に書いた時と同様、英国におけるこの予期せぬ結果が、「トランプリスク*1」という恐ろしい見通しを惹起するのではないか、という点を私は引き続き警戒している。英国ブレグジットに投票するのであれば、あるいは米国ドナルド・トランプに投票するかもしれない。そうした可能性が、特に国際的な活動を行う企業における支出の決断を凍結させてしまうのではないか、と私は危惧している。今後12ヶ月以内に米国景気後退が始まる可能性は今や30%程度になった、と私は思う。また、リスク回避と質への逃避という傾向が増した状況下で、日本のインフレ醸成という課題、および、中国通貨安定という課題がより困難になったという点も注目に値する。

世間では過小評価されたりあまり強調されていなかったりする点であるが、世界経済は通常時より遥かに脆くなっている。それは、ほぼ全世界で、金利を大きく下げることができなくなったためである。通常は、景気後退の初期段階で中銀は金利を400ベーシスポイントないしそれ以上下げる。今の中銀にはそれだけの引き下げ余地は残されていない。タームスプレッドやクレジットスプレッドも既にかなりの低水準にあるため、それらを低下させる余地も乏しい。今は緊縮策をすべき時ではない。ほぼ全世界において財政政策をより活用することをスケジュールに乗せるべきで、政権が交代する英国では間違いなくそうすべきである。

その上でサマーズは、これは世界的な経済統合の機運の衰退ないし瓦解の前兆と捉えるべきで、G20保護主義への逆戻りを防ぐために貿易金融などの面で手を打つべき、と訴えている。


ちなみに市場についてサマーズは、予想ほど悪化しなかった(ポンドが1.30、円が100を切って、欧州周縁国のクレジットスプレッドが跳ね上がっても不思議ではなかった)が、それは中銀が必要な手を打つという信頼に基づいているのでは、と書いている。ただ、安心するのはまだ早い、とも書いている。


また、最後の概観セクションでサマーズは、政治学という用語は今や言葉として意味をなさなくなっており、世論調査有識者投機筋は政治的な出来事を正しく予見することはできず、米大統領選の行方も誰も自信を持って見通すことができない、と書いている。そして、コスモポリタン的な発想よりも地元の利益や人を優先してほしい、という渇望を否定したり間違いだと決めつけるのではなく、そうした渇望を建設的な方向につなげていくのが今後の課題だ、と述べて記事を結んでいる。

*1:ここでサマーズは7日エントリで紹介した記事にリンクしている。

基礎固め基礎固め 2016/06/26 02:36 失礼します。

ポピリズムだとは簡単には言えないと思います。経済学だけではなく政治や政策面を見ると私には合理的に一貫性がある面が読み取れます。結果経済がよくなるかは別問題…。またポピリズムに見せたい人はいるでしょうし、その面もあるでしょうが…
自分達の行動方程式の使用…財政赤字が増えると消費を押さえるから財政政策は効果が無くなるという行動様式…を採用していてその前提に疑問点を挟まずに、流動性のワナだから財政政策しろというほうが産業組織論からパクるとコンシステント均衡…モデル行動方程式内での一貫性がとれてないと思いますが。

それはおいておいて、論点は3つに絞り思考過程を辿ると
1、現イギリス政権は緊縮政策ですが、
この政策の国内政治によるものか、外部政治政策によると見るか、又はそれが分からない主体や議論を進めル主体は現経済の停滞が緊縮政策によるものか、そうでないかが論点とかんがえるかと。
これにより以下の論点に別れていくかと。
因に、現政権党は国内のせいではなく外部政治や移民のせいにしたいが残留派で議論一貫性がとれていません。

2、Euは緊縮政策か、そうでないかが論点。
ギリシヤやイタリア、スペイン、そしてドイツを見るように…Eu議会そして特にドイツは緊縮政策です。
で、Eu共同体は法律による財政赤字の数値が決められているので、緊縮政策を推すまた利益になる主体にとっては絶好の議論意思決定場になっています。
でこの意思決定場の問題が次の論点に別れていくかと。

3、共同体内で、各国に公正に意思決定権…つまり民主的議論がとられているか。各国1票という投票ではなく、Eu議会の議員の決め方により公平性もなくなりますが、とりあえず、変更不可能による不利益を解消できるという意味での公正性…つまりここでは各国が利益意思決定を自分達の行動で決められるという意味での主権が発揮される場があるか問題。緊縮政策の決定権などで上と繋がりマスがギリシヤに見るようにユーロによる金融政策、赤字条項による財政政策の限界又は各国主権交渉力の低下等。
移民の問題が取り上げられますが…ドイツが議会と話してかってに移民の受け入れの是非と受入数を決めたことが又はそうみられていることが問題かと思います。
意味反対派の意見をはい外主義と決め付けるのは早計で受け入れの是非や数や受け入れの条件の決定権の問題で反対する人もいるのが細かい報道では出ていました。個人的に残留しようが離脱しようが移民は受け入れられると思うので何故これが話題になるのかわからない。

で、これで合理的に一貫性があると見れるかと…詳しく対比は省略。止揚の場、共有知識を作る場をどう止揚かは日本又は先進国の問題かとも思いますね。階級的立場の問題もあるので均衡点を探す方法論や装置ができるかどうか。

で、ポピリズムや排外主義に見ラれるのを嫌うのが近代的規範の建前なので…サイレントマジョリティになっていたということかと。日本は人権上の公正規範が社会構成する場に薄いので直ぐ変動す…まあいいや
で、マジョリティの構成が主権回復の離脱派という意味と現政権があおっているような外部政治嫌悪や移民嫌悪が混ざっているので、第一の論点は分析が難しく思います。またインディペンデント…独立国の議論はこの主権回復になぞらえての報道かと。

失礼します。寝ます。

2016-06-23

急速に変化しつつある日本の公的債務の性格

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と題したエントリがNY連銀ブログ上がっている(H/T Economist’s View)。原題は「The Rapidly Changing Nature of Japan’s Public Debt」で、著者はThomas KlitgaardとHarry Wheeler。

以下はその結論部。

The discussion above offers up a perspective on what is meant by “monetizing debt.” This term refers to a central bank buying government bonds and promising to keep them on its balance sheet with the result that the increase in reserves in the banking system translates into higher prices. This outcome, though, requires that the central bank not pay the appropriate interest rates on reserves. If it does, then an asset purchase program is just an effort that shortens the maturity of public-sector debt and will likely have few or no implications for future inflation.

(拙訳)

上記の議論は、「債務マネタイズ」が何を意味するかについての見通しを与えてくれる。この用語は、中銀が政府債務を購入してそれをバランスシート上に留めておくことを約束する結果、銀行システムの準備が増加して物価上昇がもたらされる、ということを指している。しかしそうした結果は、中銀が準備に適切な利息を支払わないことを要件とする。もし支払うのであれば、資産購入プログラム公的部門債務の満期を短期化する政策に過ぎなくなり、今後のインフレに対しあまり、もしくはまったく意味を持たない可能性が高い。


この結論部の直前では、満期の短期化が納税者に与える影響について以下のように書かれている。

The taxpayer does gain since the asset purchase program shortens the maturity of public-sector debt, which given the term premium on long-term bonds, lowers the amount of interest payments on this debt. Note that the story can get more complicated whenever short-term rates rise significantly above long-term rates, as Marco Del Negro and Christopher Sims explained in an earlier post on “Central Bank Solvency and Inflation.”

(拙訳)

納税者は確かに利益を得る。というのは、資産購入プログラム公的部門債務の満期を短期化するが、長期債のタームプレミアムを前提とするならば、それによって当該債務の利払い額が低下するからである。ただ、マルコ・デル・ネグロとクリストファー・シムズが以前のポスト「Central Bank Solvency and Inflation*1説明したように、短期金利長期金利を相当上回るようになると、話はもっとややこしくなる。

*1cf. ここ