Hatena::ブログ(Diary)

himaginaryの日記

2014-12-18

開放経済における金融政策:実際的な中央銀行家のための役立つ概観

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というNBER論文Richard Claridaが書いている。原題は「Monetary Policy in Open Economies: Practical Perspectives for Pragmatic Central Bankers」。

以下はその要旨。

This paper reviews and interprets some of the key policy implications that flow from a class of DSGE models for optimal monetary policy in the open economy. The framework suggests that good macroeconomic outcomes in open economies are possible by focusing inflation targeting that is implemented by a Taylor type rule, a rule that in equilibrium is reflected in the exchange rate as an asset price. Optimal monetary policy will not be able deliver a stationary ('stable') nominal exchange rate - let alone a fixed exchange rate or one that remains inside a target zone ‐ because, absent a commitment device, optimal monetary can't deliver a stationary domestic price level. Another feature in the data for inflation targeting countries that is consistent with monetary policy via Taylor type rule is that it will tend push the nominal exchange rate in the opposite direction from PPP in response to an 'inflation' shock - the 'bad news god news' result of Clarida -Waldman (2008;2014). This is so even though in the long run of these models the nominal exchange rate must in expectation obey PPP.

(拙訳)

本稿は、開放経済における最適金融政策に関する一連のDSGEモデルから出されるいくつかの重要な政策的含意を概観し、解釈する。その枠組みが示唆するところによれば、テイラー型のルールによって導入されるインフレ目標を重視することにより、開放経済においてマクロ経済の良好な結果を得ることが可能となる。均衡でそのルールは、資産価格としての為替に反映される。最適金融政策は、定常的な(「安定した」)名目為替相場を提供できないし、ましてや固定為替相場やターゲットゾーン内に留まる為替相場は提供できない。その理由は、コミットメントの仕組み抜きでは、最適金融政策は定常的な国内の物価水準を提供できないからである。テイラー型のルールを通じた金融政策と整合的なもう一つのインフレ目標国データの特徴は、「インフレ」ショックへの反応の際に名目為替相場購買力平価と逆方向に押しやる傾向があるという点である。これは、クラリダ=ワルドマン(2008*1;2014)の「良いニュース悪いニュース」の結果である。これらのモデルの長期では名目為替相場は期待において購買力平価に従わねばならないにも関わらず、そうしたことが起きる。

*1cf. ここ

2014-12-17

最低賃金と大不況

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について調べたNBER論文上がっているungated版)。論文のタイトルは「The Minimum Wage and the Great Recession: Evidence of Effects on the Employment and Income Trajectories of Low-Skilled Workers」で、著者はJeffrey ClemensとMichael Wither(共にUCサンディエゴ)。

以下はその要旨。

We estimate the minimum wage's effects on low-skilled workers' employment and income trajectories. Our approach exploits two dimensions of the data we analyze. First, we compare workers in states that were bound by recent increases in the federal minimum wage to workers in states that were not. Second, we use 12 months of baseline data to divide low-skilled workers into a "target" group, whose baseline wage rates were directly affected, and a "within-state control" group with slightly higher baseline wage rates. Over three subsequent years, we find that binding minimum wage increases had significant, negative effects on the employment and income growth of targeted workers. Lost income reflects contributions from employment declines, increased probabilities of working without pay (i.e., an "internship" effect), and lost wage growth associated with reductions in experience accumulation. Methodologically, we show that our approach identifies targeted workers more precisely than the demographic and industrial proxies used regularly in the literature. Additionally, because we identify targeted workers on a population-wide basis, our approach is relatively well suited for extrapolating to estimates of the minimum wage's effects on aggregate employment. Over the late 2000s, the average effective minimum wage rose by 30 percent across the United States. We estimate that these minimum wage increases reduced the national employment-to-population ratio by 0.7 percentage point.

(拙訳)

我々は低熟練労働者雇用と所得の推移に最低賃金が及ぼす効果を推計した。我々は分析対象データの2つの側面を利用した。第一に、直近の政府最低賃金の引き上げに対応する義務を負う州の労働者と、そうでない州の労働者を比較した。第二に、12ヶ月の基本給データを用い、低熟練労働者を、基本時給が直接影響された「対象」集団と、それより少し高い基本給の「州内比較」集団に分けた。続く3年の間、縛りとなる最低賃金の引上げが、対象労働者雇用と所得の伸びに有意にマイナスの影響を及ぼすことを我々は見出した。所得の喪失は、雇用の減少ならびに無給労働の可能性の上昇(即ち「インターンシップ」効果)からもたらされ、雇用が伸びなくなったことは、経験の蓄積が減少したことと関連していた。方法論においては、我々の手法が、この分野の研究でよく使われる人口統計学や産業の代理変数よりも対象労働者を良く捉えることが示される。また、対象労働者を全国民ベースでとらえたため、我々の手法は、最低賃金の総雇用への影響の推計に外挿することに比較的適している。2000年代後半、平均実効最低賃金米国全体で30%上昇した。我々の推計によれば、この最低賃金の上昇は、全国の雇用人口比率を0.7%pt減らした。

2014-12-16

時系列計量経済学史における誤差項

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という2001年のEconometric Theory論文WP)をDave Gilesが、これまで読んでいなかったのは損失であった、として自ブログ紹介しているブログの読者に教えてもらったとの由)。原題は「The Error Term in the History of Time Series Econometrics」で、著者はDuo Qin(ロンドン大学クイーン・メアリー(Queen Mary and Westfield College))、Christopher L. Gilbert(アムステルダム自由大学)(所属は論文掲載時)。

以下はその要旨。

We argue that many methodological confusions in time-series econometrics may be seen as arising out of ambivalence or confusion about the error terms. Relationships between macroeconomic time series are inexact and, inevitably, the early econometricians found that any estimated relationship would only fit with errors. Slutsky interpreted these errors as shocks that constitute the motive force behind business cycles. Frisch tried to dissect further the errors into two parts: stimuli, which are analogous to shocks, and nuisance aberrations. However, he failed to provide a statistical framework to make this distinction operational. Haavelmo, and subsequent researchers at the Cowles Commission, saw errors in equations as providing the statistical foundations for econometric models, and required that they conform to a priori distributional assumptions specified in structural models of the general equilibrium type, later known as simultaneous-equations models (SEM). Since theoretical models were at that time mostly static, the structural modelling strategy relegated the dynamics in time-series data frequently to nuisance, atheoretical complications. Revival of the shock interpretation in theoretical models came about through the rational expectations movement and development of the VAR (Vector AutoRegression) modelling approach. The so-called LSE (London School of Economics) dynamic specification approach decomposes the dynamics of modelled variable into three parts: short-run shocks, disequilibrium shocks and innovative residuals, with only the first two of these sustaining an economic interpretation.

(拙訳)

我々は、時系列計量経済学手法上の多くの混乱が、誤差項の両義性ないし混同から生じていると考えられる、と論じる。マクロ経済学の時系列間の関係は不正確であり、初期の計量経済学者は、推計されたいかなる関係も誤差を伴ってのみ成立する、ということを否応なく見出した。スルツキーはそれらの誤差を、景気循環の推進力となるショックとして解釈した。フリッシュは誤差をさらに2つの要素に分解することを試みた。一つは刺激であり、それはショックと似たようなものである。もう一つは雑音的な逸脱である。しかし彼は、この区別を運用に乗せる統計学の枠組みを提供できなかった。ホーベルモやそれに続くコールズ委員会研究者は、方程式の誤差を計量経済モデルの統計的基礎を提供するものと考え、それらの誤差が、一般均衡型の構造モデルで定められた先験的な分布の仮定に従うことを求めた。そうしたモデルは後に連立方程式モデル(SEM)として知られるようになった。当時の理論モデルは概ね静学的だったため、構造モデルの方法は時系列データの動学性をしばしば雑音、即ち理論から離れた複雑性に帰することになった。理論モデルにおける誤差のショックとしての解釈は、合理的期待の運動とVAR(ベクトル自己回帰モデリング手法の発展により復権した。いわゆるLSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)の動学決定手法は、モデル化された変数の動学を3つの要素に分解する。短期のショックと、不均衡ショックと、イノベーティブな残差である。前二者のみが経済学的な解釈を許容する。

2014-12-15

研究者とコード

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スタンフォードの政治経済学のPhD CandidateであるNicholas EubankがThe Political Methodologistに寄せたブログ記事*1によると、2005年に創刊されたQuarterly Journal of Political Science (QJPS)では、投稿者に、論文の結果を出力するのに用いたデータとコードの提出を義務付けているという。そして論文の掲載前に、QJPS内部でそのコードを実際に走らせて追試(レビュー)をしているとの由。

以下は記事の一節。

Given that the QJPS review is relatively basic, however, one might ask whether it is even worth the considerable time the QJPS invests. Experience has shown the answer is an unambiguous

“yes.” Of the 24 empirical papers subject to in-house replication review since September 2012, only 4 packages required no modifications.

Of the remaining 20 papers, 13 had code that would not execute without errors, 8 failed to include code for results that appeared in the paper, and 7 failed to include installation directions for software dependencies.

13 (54 percent) had results in the paper that differed from those generated by the author’s own code. Some of these issues were relatively small — likely arising from rounding errors during transcription — but in other cases they involved incorrectly signed or mis-labeled regression coefficients, large errors in observation counts, and incorrect summary statistics.

(拙訳)

QJPSのレビューが比較的基本的なものであることに鑑みると、QJPSがそれに費やしている少なからぬ時間に相当する価値がそもそもその作業にあるのか、という疑問を抱く向きもあるかもしれない。これまでの経験からすると、その答えは間違いなく「イエス」だ。2012年9月以降に内部の再現レビューの対象となった24本の実証論文のうち、修正がまったく必要無かったのは4本のみであった。

残りの20論文のうち、13本は実行時にエラーが発生し、8本は論文の結果を再現するコードが入っておらず、7本はソフトウェアの依存関係に関する導入指示書が入っていなかった。

13本(54パーセント)は、論文の結果が著者自身のコードから生成されるものと違っていた。複写時の丸め誤差に起因すると思われるような比較的大したことのない問題もあったが、それ以外のケースでは符号が間違っていたり、回帰係数の変数名が誤っていたり、サンプル数が大きく違っていたり、要約統計量が誤っていたりした。

*1Dave Giles経由のChris Blattman経由。

2014-12-14

米国の債務上限問題と日本の消費増税の違い

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クルーグマンが「ケインズは徐々に勝利を収めつつある(Keynes Is Slowly Winning)」(邦訳)というエントリを先月末に書いたのに対し、タイラー・コーエンが「ケインズは徐々に敗北しつつ(勝利を収めつつ?)ある(Keynes is slowly losing (winning?))」という反論をMRブログ書いた。これにクルーグマンサイモン・レン−ルイス経由で反応し、自分はケインズ経済学の主張の長所――それは常に絶大だった――ではなく世論での扱いについて書いたのだから、コーエンの反論は的外れで、間違った質問に対する間違った答えだ、と斬って捨てた。


一方、ノアピニオン氏もブルームバーグ論説でコーエンの反論に反応し、それにさらにAngry Bearでロバート・ワルドマンが反応した。コーエンの反論は15項目あったが、ノアピニオン氏はそのうちの特にケインズ経済学が俎上に乗った7項目に反応し、さらにそのうちのノアピニオン氏がコーエンに“譲歩”した2項目にワルドマンが反応した。うち一つは途中から米国債務上限問題と日本の消費増税を比較した話題になっていたので、以下にその項目についての3者の論点を紹介してみる。

コーエン
ケインジアン米国債務上限問題が悲惨な結果を招くと予測したが、回復のペースは加速した。
ノアピニオン氏
このことは、日本経済が悪化したのは4月の3%の消費税率引き上げのせいだと誰もが言っていることに照らすととりわけ興味深い。もしそうした小規模の増税が日本経済を不景気に突き落したならば、債務上限による横断的な支出削減が米国経済に同様のダメージをもたらさなかったのか? なぜこれだけ影響に差があったのか? このことは僕にとって標準的なケインジアンの話を疑わしくさせる。
ワルドマン
スミスの言う小規模な(???)消費の3%は日本でもGDPの2%になる。ARRAは2年に亘る実施期間で米国GDPの2%に満たなかった。消費増税は財政政策の大いなる変更であり、債務上限の話はそれに比べれば小さなものとなる。それが影響の違いの説明となるだろう。

ワルドマンはコーエンの債務上限の話について、さらに以下の点を指摘している。

  • 悲惨な結果を予測したケインジアンとは誰か? 自分はしていないし、ポール・クルーグマンもしていないと記憶している。
    • 自分はそれは明らかに悪い政策であり、本来なすべきこととは正反対だとは思ったが、景気後退をもたらすとは思わなかった。
  • コーエンはここでも(ないし全般的に)一定の成長率をベースラインに用いているように思われる。しかし回復は(ARRAの開始時を除き)常に期待を下回ってきた。非常に悪い状況よりもましな状況は、自分にとって標準的なケインジアンの話を疑わしくさせるのに十分ではない。ケインジアンモデルが予測するよりも高い成長が達成されたならば話は別だが。
  • 成長の加速には、様々な要素が絡む。一人当たり住宅ストックの低下によってペントアップ需要が顕在化し、住宅建築が加速することや、人々が債務を減らしたことによる流動性の改善や、景気回復により州や地方政府の財政状況が改善し、年間の財政循環の中で支出が遅れて増えること、などだ。
  • 債務上限問題は米国の実質GDPにそれほど大きな影響を及ぼさなかったのではないか。下記の政府消費と公共投資のグラフからだけでは、どこで債務上限問題が起きたか読み取ることはできない。

  • 債務上限は2013年3月に発動されたが、その後に別に成長は加速していない。2013年第2四半期の成長率は2013年第1四半期の成長率より低かった。債務上限発動以降の成長率は平均2.7%であり、それは生産ギャップを考えると非常に低い。コーエンのラグの取り方は恣意的ではないか。

ちなみにコーエンの15項目と、それに対するノアピニオン氏、ワルドマンの反応は概ね以下の通りである。

  1. ケインジアン米国債務上限問題が悲惨な結果を招くと予測したが、回復のペースは加速した。
    • 上記参照。
  2. オバマ民主党でさえ、裁量的支出を減らした予算を提出し執行している。
  3. 英国は急回復を達成し、BOEはいわゆる「流動性の罠」の存在にも関わらず名目GDPの成長を適切に保った。これは英国が「緊縮を止めた」ことが主な原因ではないし、緊縮を緩めた大陸経済が同様の回復を達成することも無かった。また、ケインジアンは、緊縮を続けたら*1そうした力強い回復が訪れるとは予測しなかった。例えばサマーズはその正反対を予測した。
    • ノアピニオン氏の反論:英国は急回復を遂げてはいない。多くの指標において、今回の不況は英国にとって大恐慌より悪い。従ってこの論点は無効。
  4. バルト諸国は一種の過激な緊縮策を実施したが、その成長率の回復はケインジアンが予測したよりも力強く急速であった。ただし水準は今一つであるが。
    • ノアピニオン氏の反論:急激な景気後退の後に力強い成長が続くフリードマンのプラッキングモデル*2にみられるように、水準と成長率は独立ではない。経済クレーターによって回復の際の成長率が高まっても、それは良いことではない。
  5. フランス経済は脆弱で、政府支出以外の手段による回復の試みがうまく行かなかったにも関わらず、追加的な政府支出にさほど興味を示していないように見える。
  6. アイルランドは遂に急速な回復を遂げつつある。回復が分配に与える影響は非常に不平等であり、また、この回復もあるいは不動産バブルの再来かもしれないが。例えば二年前に比べると、今や「痛みを早めに終わらせる」手法は良いもののように見える。
  7. ユーロ圏の運命を握っているのはECBであり、アベノミクスで(おそらくは失敗に終わった)政策効果をもたらしたのは日銀である。これは反々ケインジアンであるが、ケインジアンでもない。
  8. 中国金利引き下げに動いた。財政支出の増加は、過剰な供給力についての最終的な清算日を先延ばしにするだけに終わる、ということに彼らは気付いたようだ。これは現在の中国経済の特徴に照らして「反ケインズ的な」態度ではないが、ケインズの一般理論の重要性を強調するものでもない。
  9. ドイツは追加的なインフラ支出を支持するようだ。これをケインズ派の勝利と呼んでも良いが、これ以上の論争を封じるためと考えた方が良さそうだ。ここ支出の一つの推計があるが、あまり大きな額ではない。
  10. 日本は流動性の罠にある(らしい)が、モデルの予測に反し、実体経済への負のショックが経済の助けになることはなかった(ここここ参照)。また、2014年第1四半期の悪天候が米国経済にとって良かったと考える者は誰もいない。基本的な流動性の罠のモデルは、供給制約が価格を押し上げ、現金保有に課税する形となり、そのため総需要が押し上げられることによって、(有益な形で)インフレ率が押し上げられる、というものなのだが。おいおい、これは弱いのでないかい。
    • ノアピニオン氏の反応:これは有効な論点(「おいおい、これは弱いのでないかい」という言い方も気に入った)。ケインジアンの筋書を支持する主流の学術モデルには穴がたくさんあるが、それはすべての学術モデルと同様である。それらは多くの反実仮想的な(即ち、誤った)予測をする。そうしたモデルが好きな人々は、モデルはその目的である1つか2つの事象を説明しており、間違えたそれ以外のことすべてなど誰も気にしない、と言う。そうしたモデルを好きでない人々は、間違えたそれ以外のことすべてを槍玉に挙げる。学界のマクロ経済学は基本的にそのように進められる。
    • ワルドマンの反論:
      • コーエンはデータではなく「〜と考える者は誰もいない」ということに訴求しているが、それは社会科学ではない。実際には、悪天候の後に米国経済は著しく加速し、第2四半期と第3四半期にそれぞれ年率4.4%と4%を記録した。
      • 第2四半期は雪解けに伴う反動増だったが、第3四半期は実際の良い方向への変化だった。それは第1四半期の実質金利の変化を反映したものだ。金融政策の効果にはおよそ6ヶ月のラグがあるというのは強固なコンセンサスとなっており、ここでは恣意的なラグの取り方はしていない。個人的には雪が刺激策となる話を信じてはいないが、データはコーエンの持ち出した話に合っている。
      • また、上述の政府支出の話を想起されたい。実質政府支出が減少を続けていた時には成長も期待外れだったが、実質政府支出が2期連続して増えたら成長も大いに高まった。他にもデータとケインズ派の筋書の適合を示す例はあるだろう。コーエンはいかさまな議論を立てた上に、その議論に負けている。
      • ニューケインジアンモデルが良くないというスミスの議論に同意。ただ問題は、ケインジアンかニューケインジアンか、ということではないか? オールドケインジアンモデルはもはや学術的とは見做されていないが、クルーグマンは使っている(彼はニューケインジアンモデルも使っているが、両者の結果が合致した場合のみ結果を信じている)。そして自分の知る限り、オールドケインジアンモデルはデータにきちんと適合している*3
  11. ケインジアンないし流動性の罠のモデルとして引用されている予測の多くは、実際のところ、効率的市場仮説による単純な予測(金利予測など)や、市場マネタリズムや信用ベースのマクロ理論の予測(低インフレ)や、何十年に亘って維持されてきた規則性(財政赤字が実質金利を引き上げない)に過ぎない。こうした予測をケインズ経済学の勝利として主張し続けることはそれほど説得力のあるものではない。実際、私(や他の人々)もそうしたことをすべて予測した。そうした経済変数の予測が正しかったからと言って、自分が大した賢人だと思ったことはない。
    • ノアピニオン氏の反応:これは自分の知る限り正しい。ただ、学界のマクロの議論が如何に馬鹿げていても、メディアの一般的なマクロの議論はその5倍混乱している。理論と予測が曖昧すぎるのだ。
  12. 好むと好まざるに関わらず、アジアの大部分ではケインズ経済学は未だに蔑視されているようだ。彼らは供給要因を強調する方を好む。
  13. ノーベル経済学賞レベルでは、モーテンセン、ピサリデス、ファーマはケインズ派とは言えない。ただ、シラーはその対極に位置するとは言える。とは言え、シラーが積極的な財政政策を支持する見解を打ち出したことがある、という話は聞かない。
  14. 最近(もしくはそれ以前から)生産性に問題があることは今や広く知られている。それに伴い、「生産ギャップ」指標も全期間に亘って下方修正されている。これも(他の論点と同様)「ケインズは間違っている」ということを意味するものではないが、ケインズの重要性を減じてはいる。
  15. ケインジアンの見方が非常に良いように思われるのは、政府支出削減が90年代に比べ最近ではより急激なGDPの低下をもたらす点。これは非常に重要なことだが、a)オールドケインジアン的な制度を有する国がキャッチアップしていることがどんどん明らかになっている、b)正しいかどうかはともかく、世界は拡張的な財政政策に大いなる利点があるかどうかを本当に確信できないでいる。
    • ノアピニオン氏の反応:これはケインジアンを支持する論点。なぜコーエンがこれをリストに入れたのか不思議。

*1:原文は「letting up on tightening」なので「緊縮を緩めたら」という意味に取れるが(cf. 直前の大陸経済に関する記述は「Continental economies which let up on austerity」)、ここでは文脈から「letting tightening go on」ないしそれに類する表現の誤記と見做した。

*2cf. ここ

*3cf. ここで紹介したワルドマンの主張。