Hatena::ブログ(Diary)

himaginaryの日記

2015-03-26

制約された裁量とルール

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ルールベースの金融政策を追い求める中でクルーグマンイエレンサマーズの発言に噛みついてきたジョン・テイラーが、今度はバーナンキの発言を槍玉に挙げた


それによるとバーナンキは、FRBは既にルールを導入している、とブルッキングス研究所で述べて皆を驚かせたという。ではなぜ政策ルール法案にFRBは反対しているのだ、という点について彼は、2%のインフレ目標と自然失業率を同等のウエイトで目指し、自分たちの見通しや金利に関する情報を公開するのがFRBのルールだ、と述べたとの由。


それに対しテイラーは、バーナンキの言うルールはテイラーらが長年取り組んできたルール、イエレンが講演で言及してきたルール、フリードマンを有名にしたルールとは別物だ、と述べている。それはむしろ、バーナンキがかつて「制約された裁量」と呼んだ概念に相当する、と彼は指摘する(初出論文FRB理事になりたての頃の講演での言及)。テイラーによれば、バーナンキは、自身が鋭く批判したフリードマン・ルールのようなルールと区別するためにそのような用語を持ち出したとのことである。それはテイラー・ルールが提唱される前にバーナンキが好んでいた概念だという。


しかし、単に数字目標や目的関数を持っていることは、政策ツールという面でのルールではない、とテイラーは反論する。そこには戦略はなく、すべてが戦術ないし裁量になってしまう、と彼は言う。「テイラールールが正しい、ないし概ね正しいルールである、という前提は、既に最先端の考え方では無いと思う」とバーナンキは述べたというが、テイラーは、制約された裁量だけに頼っていると結局裁量の量が多くなり、金融政策については上手くいかない、と指摘している。そして、その点を実際に示した実証結果として、David Papellらの論文を引いている。

2015-03-25

フェルプスの描く経済学の未来

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Economist’s Viewが紹介したインタビューで、エドムンド・フェルプス経済学の学問としての将来について訊かれて、以下のように答えている。

Economics is in a tremendous crisis... especially since it doesn't know it's in a crisis.

....

People who from any walk of life can have an idea.... A truly modern economy is all about ideas and people!

Economics has contributed to the march away from these principles by reducing economies to 'stochastic steady-state models' in which prices are the entire interest. Prices, in these models, 'vibrate' in some way. I find this incredible.... This thinking began seeping into the financial sector so then the banks started importing French mathematicians to work out how to price various assets as if anyone could possibly know what these assets are worth? We live in an uncertain world... not just a vibrating one! Economics will (and should) always have a scientific side... but it has to remember that no piece of evidence is ever decisive on its own... we have to understand that our subject is human creativity. That will be a very different kind of science from what we have had before. There hardly is any science of creativity yet- yet alone a science of individual or societal creativity which understands the interactions of people- that's the next giant-step.

(拙訳)

経済学は大いなる危機の中にあります。自らが危機にあることを自覚していないのが最大の問題です。

・・・

どんな社会階層の人でも考えを持っています。真に現代的な経済では、考えと人々がすべてなのです。

経済学は、経済を「確率的定常状態」に還元することにより、その原則から離れる方向に働きました。そこでは、価格がすべてです。それらのモデルでは、価格は何らの形で「振動」します。私はこれは信じられないほど馬鹿げたことだと思います。こうした考え方は金融部門に浸透し、銀行は、様々な資産の価格付け方法を開発するために、フランス人の数学者を輸入し始めました。恰も、そうした資産の価値を分かる人間がいるのだ、とでも言うかのようにね。我々は不確実な世界に生きています。単に振動する世界ではないのです。経済学は常に科学的側面を持つことでしょう(また、持つべきです)。しかし、それ単体で決定的なものとなる証拠は存在しないことを銘記すべきです。我々の対象は人間の創造性である、ということは理解しておかなくてはなりません。これまでの科学とは随分と違った種類の科学となるのです。創造性に関する科学というのは未だ存在したことが殆どありません――ましてや、人々同士の相互作用を理解するような、個人もしくは社会の創造性に関する科学などは。それは、次の大いなる一歩となるのです。

2015-03-24

ATMの普及と銀行の窓口係の仕事の変化

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ボストン大学のJames Bessenが、IMFのFinance and Developmentで、自動化の進展と雇用の関係について考察している(H/T Tim Taylor)。そこで彼は、ATMが普及したにも関わらず銀行の窓口係の職員数が増加した例を引き、自動化が必ずしも失業につながるとは限らない、と指摘している。

ATMに普及にも関わらず銀行の窓口係が増加した理由として、Bessenは以下の2点を挙げている。

  • 以前より少ない人数で支店を開くことができるようになったので(平均的な都市部での支店当たりの窓口係の人数は1988年から2004年に掛けて20から13に減少した)、市場占有率を上げるために銀行がより多くの支店を開くようになった(都市部の支店は43%増加した)。
    • この点についてTaylorは、1980〜1990年代に州内や州外で支店を増やすことに関する規制が多くの州で緩和されたこともこの動きを促進したのではないか、と指摘している。
  • ATMで自動化できなかった金融商品販売などの対人関係の仕事が残った。それによって、窓口係の仕事の重点は、現金の受け払いから客とのつながりに移った。

Bessenは結論部で以下のように述べている。

New information technologies do pose a problem for the economy. To date, however, that problem is not massive technological unemployment. It is a problem of stagnant wages for ordinary workers and skill shortages for employers. Workers are being displaced to jobs requiring new skills rather than being replaced entirely. This problem, nevertheless, is quite real: technology has heightened economic inequality. ...

The information technology revolution may well be accelerating. Artificial intelligence software will give computers dramatic new capabilities over the coming years, potentially taking over job tasks in hundreds of occupations. But that progress is not cause for despair about the “end of work.” Instead, it is all the more reason to focus on policies that will help large numbers of workers acquire the knowledge and skills necessary to work with this new technology.

(拙訳)

新しい情報技術は確かに経済に問題をもたらす。しかしながら、これまでのところの問題は、技術による大量失業ではなかった。問題は、一般労働者賃金の停滞、および、雇用者から見て技術を持った労働者の不足にある。労働者は完全に置き換えられるのではなく、新たな技術を必要とする仕事に移行されつつある。とは言え、この問題は極めて現実的なものである。技術によって経済格差は拡大した。・・・

情報技術革命は加速していくだろう。今後、人工知能ソフトウエアがコンピューターに目覚ましい新たな能力を与え、何百という職業の仕事を吸収する可能性がある。しかし、そうした進歩は、「仕事の終焉」がもたらさられるのだという絶望の理由にはならない。それは、多くの労働者がこの新技術と共に働くのに必要な知識と技術を獲得するのを支援する政策に重点を置くべき理由を一層強固なものとする。

佐野哲也佐野哲也 2015/03/26 06:34 なるほどね。

2015-03-23

ルールの無い中銀はチェックリストの無い医者のようなもの

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ルールベースの金融政策を主唱するジョン・テイラーが、年初の全米経済学会や1週間前のスタンフォードでのコンファレンスでローレンス・サマーズとの意見との違いが露わになった、と表題のブログ記事報告している(原題は「Central Banks Without Rules Are Like Doctors Without Checklists」)。

以下は全米経済学会でのサマーズの発言。

John Taylor and I have, it will not surprise you…a fundamental philosophical difference, and I would put it in this way. I think about my doctor. Which would I prefer: for my doctor’s advice, to be consistently predictable, or for my doctor’s advice to be responsive to the medical condition with which I present? Me, I’d rather have a doctor who most of the time didn’t tell me to take some stuff, and every once in a while said I needed to ingest some stuff into my body in response to the particular problem that I had. That would be a doctor who’s [advice], believe me, would be less predictable.

(拙訳)

驚く人はいないと思いますが、ジョン・テイラーと私の間には、根本的な考え方の違いがあります。それは次のように言い表すことができるでしょう。医者について考えてみた場合、アドバイスが常に予測可能な医者と、私の病状に対応したアドバイスを出す医者のどちらが望ましいでしょうか? 私自身は、何々を取りなさいということは普段は言わないが、時折り、私が抱えている特定の問題に対応してこれこれを摂取する必要があるということを言う医者の方が望ましいと考えます。そうした医者のアドバイスは、ほぼ間違い無く、より予測可能性が低くなります。


これに対しテイラーは次のように反論したという。

You know it would be great to have the all-knowing doctor that is there in every particular situation and just continues to do the right thing. But we have a lot of experience with economic policies; it’s not just model simulations, it’s historical. You know when things have worked better, [is] when they’re more predictable, more rules-based. You have the Great Moderation period, very clear in that respect. But I think the main thing here is we have theory, we have facts, and [they suggest]…the dangers of too much discretion.

(拙訳)

すべてを把握している医者があらゆる特殊な状況においてもその場に居合わせて、とにかく正しいことを実行し続ける、となれば素晴らしいことです。しかし経済政策については我々は経験を積み重ねてきました。私が申し上げているのは、単なるモデルシミュレーションの話ではなく、歴史の話です。ご承知の通り、物事が上手くいった時は、予測可能性が高かった時、よりルールに基づいていた時でした。その点では大平穏期は顕著な事例でした。肝心なことは、我々には理論があり、事実があり、それらが指し示していることは、裁量過多の場合の危険性です。


その上でテイラーは、サマーズが喩えに出した医者の世界でも、単純なチェックリストという形のルールを用いることにより、特に手術の分野で大いなる進歩が見られた、ということをアトゥール・ガワンデ(Atul Gawande)のニューヨーカー記事邦訳関連インタビュー)を引きながら指摘している。即ち、単なるチェックリストが、ミスを防ぎ、正しい診断を下し、適切な処置を行うという点で非常に貴重な価値があることが分かったという。もちろんチェックリストの運用時には判断を下すことも必要となるが、チェックリストを蔑ろにしたり段階を飛ばしたりすると、患者が被害を蒙る結果になるとの由。

チェックリストのない医療行為は危険に満ちていることが実際の経験や実証経験で示されたが、それはルールの無い金融政策と同じだ、と述べてテイラーはこのエントリを結んでいる。

2015-03-22

CPIとPCEの違い

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HicksianさんがRTされたMiles Kimballのツイートで、WSJコラムニストのJo Craven McGintyが書いた3/20付けNUMBERS記事が「The best explanation I have ever seen of why PCE (Personal Consumption Expenditure Price Index) is better than CPI」として紹介されていた。

以下は記事の概要。

  • PCE(personal consumption expenditures price index)はCPI(consumer-price index)に比べると一般には馴染みが薄いかもしれないが、インフレ率の指標としてはより包括的。そのためFRBはPCEの方をインフレ率の指標として好む。
    • PCEがカバーする支出範囲はCPIよりも広い。
    • PCEのウエイトに使われているデータは企業調査に基づいており、CPIウエイトに使われている消費者調査よりも信頼性が高い。
    • PCEでは短期間に生じる消費者行動の変化を調整する式を用いている。標準のCPIの式ではそうした調整は行われない。
  • 今週FRBが年後半の利上げを視野に入れたことにより、PCEは注目を集めた。PCEは33ヶ月連続でFRBの目標の2%を下回っている。
  • PCICPIは、消費者が財とサービスに支出する実際の価格の変化を追うという点では共通しているが、幾つかの重要な点で異なっている。
    • CPIは通常はPCEよりやや高い。
    • 両者は算式も異なる。
      • CPIは2年ごとに更新される商品のバスケットから導出される固定ウエイトを用いており、その間に発売された新商品や期中の価格変化を織り込めない。そうした新商品や価格変化は、消費者が商品を代替する行動を惹起する可能性がある。
      • PCEは連鎖ウエイト方式を用いることによりその点を織り込んでいる。仮にリンゴが突然高くなれば、消費者の購買数は減るだろう。そのため、ある期と別の期でリンゴのウエイトは変わってくる。連鎖方式では基本的にその平均を取ることになる。
  • とは言え、CPIにもその価値はある。PCEが対象とする個人支出の大半をカバーしており、税率区分の調整に使われるほか、社会保障フードスタンプ、および公務員や退職軍人向けの給付の計算にも使われている。買付契約や雇用契約や貸借契約での価格調整にもCPIが使われる。
  • ただ、消費者の財布ではなく経済全体の変化を見る場合には、やはりPCEの方が適切。