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himaginaryの日記

2015-05-22

トリレンマではなくジレンマ:世界的金融循環と金融政策の独立性

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というNBER論文ロンドンビジネススクールのHélène Reyが書いている。原題は「Dilemma not Trilemma: The global Financial Cycle and Monetary Policy Independence」。2年前にジャクソンホール提示されたWPこちらで読めるほか、その時のVoxEU記事もある。また、こちらに邦訳のある別のVoxEU記事でこの研究が紹介されている。

以下はその要旨。

There is a global financial cycle in capital flows, asset prices and in credit growth. This cycle co‐moves with the VIX, a measure of uncertainty and risk aversion of the markets. Asset markets in countries with more credit inflows are more sensitive to the global cycle. The global financial cycle is not aligned with countries’ specific macroeconomic conditions. Symptoms can go from benign to large asset price bubbles and excess credit creation, which are among the best predictors of financial crises. A VAR analysis suggests that one of the determinants of the global financial cycle is monetary policy in the centre country, which affects leverage of global banks, capital flows and credit growth in the international financial system. Whenever capital is freely mobile, the global financial cycle constrains national monetary policies regardless of the exchange rate regime.

For the past few decades, international macroeconomics has postulated the “trilemma”: with free capital mobility, independent monetary policies are feasible if and only if exchange rates are floating. The global financial cycle transforms the trilemma into a “dilemma” or an “irreconcilable duo”: independent monetary policies are possible if and only if the capital account is managed.

So should policy restrict capital mobility? Gains to international capital flows have proved elusive whether in calibrated models or in the data. Large gross flows disrupt asset markets and financial intermediation, so the costs may be very large. To deal with the global financial cycle and the “dilemma”, we have the following policy options: ( a) targeted capital controls; (b) acting on one of the sources of the financial cycle itself, the monetary policy of the Fed and other main central banks; (c) acting on the transmission channel cyclically by limiting credit growth and leverage during the upturn of the cycle, using national macroprudential policies; (d) acting on the transmission channel structurally by imposing stricter limits on leverage for all financial intermediaries.

(拙訳)

資本移動、資産価格、信用の伸びには、世界的金融循環が存在する。この循環は、市場の不確実性とリスク回避の指標であるVIXと共に動く。信用の流入が多い国の資産市場は、世界的循環への感応度が高くなる。世界的金融循環は、各国それぞれのマクロ経済状況と同期はしていない。その症状は良性の場合もあれば、金融危機の最も確かな前兆となる大規模な資産価格バブルと過剰な信用創造を生み出す場合もある。VAR分析によれば、世界的金融循環の決定要因の一つは、世界的な銀行のレバレッジや国際金融システムにおける資本移動や信用の伸びに影響する、中心国の金融政策である。資本移動が自由な場合には、どの為替制度を採用しているかに関係なく、世界的金融循環は国内の金融政策を制約する。

過去数十年間、国際マクロ経済学は、資本移動が自由な場合に独立した金融政策が可能となるのは為替制度が変動相場制の場合であり、かつ、その場合に限られるという「トリレンマ」を公理とみなしてきた。世界的金融循環は、このトリレンマを、「相容れないコンビ」の「ジレンマ」に変換する。即ち、独立した金融政策が可能となるのは、資本勘定が管理された場合であり、かつ、その場合に限られる。

ということは、資本の移動しやすさは政策的に規制するべきなのだろうか? 国際的な資本移動からの利得は、モデルでカリブレートするにせよデータを見るにせよ、明確には捉えられないことが判明している。グロスベースの大きな資金の流れは資産市場や金融仲介活動を攪乱するため、対価が高いものにつく可能性がある。世界的金融循環と「ジレンマ」に対処するためには、以下の政策オプションがある。

  1. 対象を定めた資本規制
  2. 金融循環そのものの原因の一つであるFRBや他の主要な中銀の金融政策に対し、改善措置を取る
  3. 国内のマクロプルーデンシャル政策を用いて循環の拡大期における信用の伸びとレバレッジを制約するという形で、伝達経路に対し循環的な改善措置を取る
  4. すべての金融仲介機関のレバレッジ規制を厳しくするという形で、伝達経路に対し構造的な改善措置を取る

2015-05-21

新しい業務体制下で中銀の安定性は維持できるか?

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スタンフォード大学のロバート・ホール(Robert E. Hall)とコロンビア大学リカルド・ライス(Ricardo Reis)が「Maintaining Central-Bank Financial Stability under New-Style Central Banking」というNBER論文を書いている(ungated版)。

以下はその要旨。

Since 2008, the central banks of advanced countries have borrowed trillions of dollars from their commercial banks in the form of interest-paying reserves and invested the proceeds in portfolios of risky assets. We investigate how this new style of central banking affects central banks' solvency. A central bank is insolvent if its requirement to pay dividends to its government exceeds its income by enough to cause an unending upward drift in its debts to commercial banks. We consider three sources of risk to central banks: interest-rate risk (the Federal Reserve), default risk (the European Central Bank), and exchange-rate risk (central banks of small open economies). We find that a central bank that pays dividends equal to a standard concept of net income will always be solvent---its reserve obligations will not explode. In some circumstances, the dividend will be negative, meaning that the government is making a payment to the bank. If the charter does not provide for payments in that direction, then reserves will tend to grow more in crises than they shrink in normal times. To prevent this buildup, the charter needs to provide for makeup reductions in payments from the bank to the government. We compute measures of the financial strength of central banks at the end of 2013, and discuss how different institutions interact with quantitative easing policies to put these banks in less or more danger of instability. We conclude that the risks to financial stability are real in theory, but remote in practice today.

(拙訳)

2008年以降、先進国中央銀行は、利子付きの準備という形で商業銀行から何兆ドルも借り入れており、収益をリスク資産ポートフォリオ投資してきた。我々は、こうした中央銀行業務の新しいスタイルが中央銀行の支払い能力にどのような影響を及ぼすかを調べた。政府に対する配当の支払い義務が所得を上回り、それによって商業銀行からの借り入れが際限無く増えていくに至った場合には、中央銀行は支払い能力を失う。我々は中央銀行の3つのリスク要因を検討した。金利リスクFRB)、デフォルトリスク(ECB)、為替リスク(小国開放経済の中銀)の3つである。我々は、支払配当が通常の概念における純利益と等しい中央銀行は、常に支払い能力を有し、準備債務が発散することはないことを見い出した。状況によっては、配当はマイナスとなり、政府が中銀に支払を行う。もし規則によってそうした方向の支払いが不可ならば、危機時の準備は膨張し、その膨張の程度は通常時の縮小の程度を上回る。そのような準備の積み上がりを避けるためには、中銀から政府への支払いを後で相応に減らす取り決めが必要となる。我々は、2013年末における中央銀行金融面での強靭性を示す指標を計算し、相異なる制度と量的緩和政策との相互作用によって中銀が不安定な状態に陥る危険性がどのように増すもしくは減じるかを論じる。我々は、金融の不安定性のリスクは理論上は確かに存在するが、今日の現実においては可能性は低い、と結論する。

2015-05-20

空売り解消日数と株式リターン

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BDS検定のSとして知られる(?)シャインクマンが表題のNBER論文を共著している(SSRNでungated版が読める)。論文の原題は「Days to Cover and Stock Returns」で、著者はHarrison G. Hong(プリンストン大学)、Weikai Li(香港科技大学)、Sophie X. Ni(同)、Jose A. Scheinkman(コロンビア大学)、Philip Yan(ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント)。

以下はその要旨。

The short ratio - shares shorted to shares outstanding - is an oft-used measure of arbitrageurs’ opinion about a stock’s over-valuation. We show that days-to-cover (DTC), which divides a stock’s short ratio by its average daily share turnover, is a more theoretically well-motivated measure because trading costs vary across stocks. Since turnover falls with trading costs, DTC is approximately the marginal cost of the shorts. At the arbitrageurs’ optimum it equals the marginal benefit, which is their opinion about over-valuation. DTC is a better predictor of poor stock returns than short ratio. A long-short strategy using DTC generates a 1.2% monthly return.

(拙訳)

空売り比率――空売りされている株式数の発行済み株式数に対する比率――は、株式の過大評価に関する裁定取引者の見解として良く使われる指標である。我々は、取引コストは株式ごとに異なることから、空売り比率を日次平均売買回転率で割った空売り解消日数の方が、理論的にはより意味のある指標である、と論じる。売買回転率は取引コストが増加すると低下するため、空売り解消日数は近似的に空売りの限界コストとなる。裁定取引者の最適解では、それは限界利益と等しくなり、またそれが過大評価に関する彼らの見解となる。パフォーマンスの悪い株式のリターンについては、空売り解消日数の方が空売り比率よりも予測指標として優れている。空売り解消日数を用いたロングショート戦略では、月次で1.2%のリターンが得られる。

2015-05-19

米国の上場企業数はなぜ少ないか?

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「The U.S. listing gap」というNBER論文をCraig Doidge(トロント大)、G. Andrew Karolyi(コーネル大)、René M. Stulz(オハイオ州立大)が書いている

以下はその要旨。

The U.S. had 14% fewer exchange-listed firms in 2012 than in 1975. Relative to other countries, the U.S. now has abnormally few listed firms given its level of development and the quality of its institutions. We call this the “U.S. listing gap” and investigate possible explanations for it. We rule out industry changes, changes in listing requirements, and the reforms of the early 2000s as explanations for the gap. We show that the probability that a firm is listed has fallen since the listing peak in 1996 for all firm size categories though more so for smaller firms. From 1997 to the end of our sample period in 2012, the new list rate is low and the delist rate is high compared to U.S. history and to other countries. High delists account for roughly 46% of the listing gap and low new lists for 54%. The high delist rate is explained by an unusually high rate of acquisitions of publicly-listed firms compared to previous U.S. history and to other countries.

(拙訳)

米国の2012年の上場企業数は1975年より14%少ない。発展段階と制度の質を考えると、現在の米国は他の国に比べて、異常なほど上場企業数が少ない。我々はこれを「米国上場ギャップ」と呼び、説明要因の候補を調べた。我々はギャップの説明要因として、産業の変化、上場基準の変化、2000年代前半の改革を除外した。我々は企業が上場している確率が1996年の上場ピーク以降すべての規模の企業で低下しているが、特に小さな企業で低下していることを示した。過去の米国や他国と比べて、1997年からサンプル期間終了期である2012年までの間の新規上場率は低く、上場廃止率は高い。上場廃止の多さは上場ギャップのおよそ46%を説明し、新規上場の少なさは54%を説明する。高い上場廃止率は、過去の米国や他国と比べて公開企業の買収率が非常に高いことによって説明できる。

2015-05-18

第二季節調整で分かること

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SF連銀のEconomic Letterで、Glenn D. Rudebusch、Daniel Wilson、Tim Mahedyが、今年第一四半期の米国経済成長の弱さは季節調整の問題ではないか、と書いている


そこで彼らは以下の図を掲げ、過去25年間において、第一四半期の成長率が他の四半期に比べて低めだったことを示している。

1990年代は、第一四半期の平均成長率は2.6%、それ以外の四半期は3.6%だったという。2000年代もその差は1%だったが、2010-2014年にその差が2.3%まで拡大したとのことである。

こうした「残存季節性(residual seasonality)」が生じることは、算出元の商務省経済分析局も認識しているという。商務省の季節調整は、GDPを計算する元データを個々に季節調整するというボトムアップ手法を取っているとのことだが、その手法で季節性が残ってしまう原因としてレポートでは、以下の3つを挙げている。

  1. 個々の様々な系列では小さなものに留まっている小さな季節パターンが、GDP推計として積み上げた際に顕著な季節パターンとして表れてしまう
  2. 月次レベルで季節調整されている系列が、四半期に集約された時に、月次では表れていなかった季節パターンを示してしまう
  3. 名目支出や生産データと関連する価格データは別々に季節調整されることが多いが、インフレ調整済みの実質GDPを推計するために両者を結び付ける際に残存季節性が出てしまう

従って、残存季節性は商務省のボトムアップの季節調整手法を反映している、というのがレポートの見立てである。実際、消費や投資などGDPの主要系列においても残存季節性は見られる、という。


そこでレポートが行ったのが、商務省公表の季節調整済みGDPに改めて季節調整を掛ける、という操作である。それによって、各四半期の成長率は以下のように変化したという。


また、時系列推移は以下のようになったとの由。

即ち、今年第一四半期の成長率は0.2%から1.8%になったとのことである。


レポートでは、GDIについても同様の傾向が見られた、と報告している。また、リーマン・ショックや最近の悪天候の影響で、むしろ第一四半期の成長率が季節調整によって過大評価される傾向が出てくるのではないか、という見方に触れて、そうした要因があったとしても、引き下げ要因の方が強いことが今回の分析で分かった、と述べている。


(ちなみに、以前、uncorrelatedさんがののわさんのツイートを見て何の話だろうと訝しんでいたことがあり、小生も同様に何の話だろう、と思っていたのだが、どうもこの話だったようである[cf. 別の関連ツイート]。[違ったらごめんなさい])

ののわののわ 2015/05/19 09:14 はい、まさにその話をしておりました。ありがとうございます。