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hiroyukikojimaの日記

2017-08-20

みんな、こういう理系の大学教員のこと、どう思う?

23:50

[追記:8/21] いつになく話題になったようなので、少し補足する。ぼくの本からの引用で、前回は省略した部分を、書き加える。どのくらい親切に書いているかを知ってもらえば、こやつの「信じられなさ」が浮き立つと思う。(それに拙著の販促にもなると思うし)。

あと、ぼくが最も問題にしているのは、このメール文からわかるように、この教員が、自分がわからないことを理解する努力を怠ること。こういう人は入試の採点で、きっと、大変なことをやらかす。2次試験の記述問題は、通常、2人以上で行うと思うけど、もう一人の採点者が読み間違えた採点をこの教員はそのままスルーする可能性が高い(理解できないことを、掘り下げる努力を怠るから)。

今日、とある大学教員から、拙著『世界は素数でできている』角川新書に対して、質問とも批判ともつかないメールがきた。

もちろん、知らない人だし、面識もない。

この人、国立大学の教員のようだ。しかも、専門は物理のようだ。

なりすましもありうるかもしれないが、メールアドレスのアットマークのあとに、ドメインとして大学名が入っているし、アットマークの前は名字そのものだから、ハッキングされたのでなければ、本人だろう。

あまりに唖然としたので、文面を晒すことにする。その人が文句をつけてきたのは、「素数が無限にある」という証明の部分だ。ぼくの記述のすべてを引用すると長くなるので、ポイントになるところだけを引用する。

『世界は素数でできている』(35-37ページ)

ピタゴラスによる証明は、「素数が無限個ある」ことばかりではなく、「どうやって無限個の素数を見つけるのか」も与えられるので、非常に優れた証明方法でした。

 まず、最初の素数2があります。

次に、2+1を計算します。これは3で、2とは異なる素数です。

その次は、今得られている2個の素数、2と3、を掛け合わせて1を加えます。2×3+1=7ができます。大事なことは、この数が、掛け合わせた2でも3でも割り切れないことです。なぜなら、2×3は2の倍数でかつ3の倍数ですから、1を加えると2の倍数からずれ、3の倍数からもずれます。したがって、この7は、実際に割り算しなくても、2でも3でも割り切れない、とわかるわけです。ということは、7の約数には2、3以外の新しい素数が含まれるはずです。つまり、2とも3とも異なる新しい素数が見つかります。実際、7自身がその新しい素数にあたります。

もう一歩進みましょう。今、見つかった三つの素数、2と3と7を掛け合わせて1を加えます。2×3×7+1=43ができます。2と3と7の積に1を加えているので、この43は2の倍数とも3の倍数とも7の倍数ともずれています。ですから、43の約数には、2、3、7以外の素数が含まれるはずです。それが43自身です。これで、4個の素数、2と3と7と43が見つかりました。

もう一回だけやってみます。今までに求められた4個の素数、2と3と7と43を掛け合わせて1を加えましょう。

2×3×7×43+1=1807

今までと同じ議論から、この1807の約数には2、3、7、43以外の素数が含まれます。この場合は、これまでと異なり、1807は素数ではありません。2、3、・・・で順に割っていくと、13で初めて割り切れることがわかり、素数13が見つかります。今までに求められている4個の素数とは異なる新しい素数13となります。

この手続きを継続すれば、いくらでも新しい素数が見つかることは明らかでしょう。このシステムをきちんと書くと次のようになります。

(i)素数2からスタートする。

(ii)既に見つかっている素数をすべて掛け、1を加え、できた数の約数のうち、1より大きい最小の約数を求める。それが新しい素数を与える。

(iii)新しく見つかった素数をリストに加え、(ii)に進む。

この前には、このアルゴリズムを具体的に5回やってみせて、素数2, 3, 7, 43, 13を導出して見せている。

さて、これに関して、そやつのクレームは次だ。メールからそのままコピペする。

先ほど少し苦労したのは、ピタゴラス素数は無限にあるという定理の部分です。

知られている素数の全部の積をとって1を加えるわけですが、結果が奇数ならそれ自身が

新たな素数になる気はしますが、実はそうでもないことが例として示してあります。

これ自体、不思議ですね。

それ以上に、結果が偶数になることはないのでしょうか?裏紙を使って少し計算すれば

何か分かりそうですが、新書の読書でそこまではしたくない気もします。暗算

理解できないと電車での読書等には向かない気もします。仮に偶数になった場合、

2で割った後、最小の約数が既存の素数とかぶらないかどうかは自明ではないように

思います。

もう一度言うよ、これ、国立大学の理系の教員だよ。しかも、専門は物理だよ。

こやつ、2に自然数を掛けて1を足すと偶数になることがある、って言ってるよ。でも、計算してみる気はないんだって。そして、その程度の計算も新書には向かないんだって。そして、こやつは、2×自然数暗算でできないんだって。そもそも、このアルゴリズムにどうして奇数偶数が関係するわけ?そんな数学力で、ほんとに物理やれてんの?

しかもだな、仮に偶数が出てきたとして、なぜ1より大きい最小の約数2をスルーするんですかね?アルゴリズムでは、2を素数に加えて、次に進むってのがわかんないのかな。そんで、既存の素数を全部掛けて1を足すと、その中の既存の素数約数に持つことがないのが、「自明ではないように思います。」なんだって。まあ、この点は、一般の読者には少し不親切かもしれないが(2と3を掛けて1を足すと2の倍数からも3の倍数からもずれることは、前段階の具体例のところで説明して、直観的にわかってもらうようにしたのだ)。こういうやつの「自明」っていったいどのレベルをいうんでしょうか。

ハッキリ言って、小学生低学年程度の知性だと思う。ダメおしにもう一度言うよ。こやつ、国立大学の物理の教員なんだよ。

こういう教員が、2次試験の物理や数学の答案をちゃんと採点できるのか、ものすごく心配になる。そして、こういう教員の研究室に入る学生も不憫に思う。公共の利益のためには、大学名と教員名を晒したほうがいいのかもしれないけど、今回のエントリーではやめておく(次回のエントリーでさらす可能性はある。その前に 友人の物理学者たちから評判とか業績とか聞いてみるつもり)。

何より腹が立つのは、こやつが、なんでメールを出してきたか、その意味がわからないこと。自分で計算する気はない。じっくり考える気はない。参考文献にあたって調べる気もない。そういう最低限の努力もしないで、思いつきで面識もない著者にメールを出して、批判したり腐したりする。これで、研究者の資格ありますか? 教育者と言えるんですかね?

この本が、国立大学の理系の教員にも読みこなせないとわかって、正直、頭を抱えている。まあ、こやつが例外的に○○な物理学者だと考えるほうがいいのだろう。ぼくの友人の物理学者は、みんな、とんでもなく数学ができる。実際、量子物理についての記述は、親友の物理学者・加藤岳生くんに査読してもらった。彼は、ぼくの数倍、数学が出来る人だ。声を大にして言いたいが、ちゃんとした国語力と、人をばかにしないで、理解しようと努力する態度があれば、ちゃんと読めると思う。わからなくて、でもどうしてもわかりたいところがあったら、参考文献にあたって追加的に勉強すればよいと思う。そのために、かなり綿密な参考文献をつけてある。

2017-08-19

弱いゴールドバッハ予想が解決されていたらしい

03:30

 素数の本を出した。『世界は素数でできている』角川新書という本だ。その本の販促は、前回(素数についての本が刊行されました! - hiroyukikojimaの日記)と前々回(もうすぐ、素数についての本が刊行されます! - hiroyukikojimaの日記)に行った。今回も、基本的には販促活動なのだけど(しつこい、って怒らんといて)、読者に新しい情報を提供しよう。

 素数に関する予想で有名なものの一つに「ゴールドバッハ予想」というのがある。それは「4以上のすべての偶数は、素数2個の和である」という予想だ。これは、実は、ゴールドバッハが予想したものではない。ゴールドバッハは、「6以上のすべての整数は、3個の素数の和である」と予想して、それを1742年にオイラーに送った。オイラーは、返事に、これと同値な予想「4以上のすべての偶数は、素数2個の和である」を返したので、本当はオイラー予想と呼ばれるべきなのだ(どうして同値かは簡単なエクササイズだけど、示せない人は拙著を読んでね)。

 それはともかく、ゴールドバッハ予想自体は、いまだに未解決である。そして、ここに「弱いゴールドバッハ予想」というのがある。それは、「7以上のすべての奇数は3個の素数の和である」という予想だ。なぜ「弱い」と命名されているか、というと、「ゴールドバッハ予想」から「弱いゴールドバッハ予想」は導かれるからである。つまり、「ゴールドバッハ予想」が解決されれば、「弱いゴールドバッハ」はおまけとして(系として)解決されることとなるからだ。このことの証明もとても初等的である(できない場合、拙著を読もう・・・笑)。

 さて、「弱いゴールドバッハ予想」に関して、拙著にはこう記述した。

弱いゴールドバッハ予想については、数学者ヴィノグラードフが1937年に、「十分大きい奇数は3個の奇素数の和である」ことを証明しました。さらに、1956年にボロシチンという人が、「十分大きい」を「3の(3の15乗)乗より大きい」と具体化することに成功しました。したがって、あとは、「3の(3の15乗)乗」以下の奇数について確認するだけなので、弱いゴールドバッハ予想のほうは本質的には解決していると考えられます。

これ自体は間違ってないのだけれど、拙著を献本した黒川信重先生から、「本質的には」という表現が不要になった、ということを教えていただいた(ありがとうございました!)。すなわち、「弱いゴールドバッハ予想」は、どうも完全解決したらしいのである

 その論文は、まだ査読は済んでいないようだけど、英語版のwikipediaから論文にリンクがはられているので、欲しい人はダウンロードできる。ぼくもそこからダウンロードした。

 解決論文を書いたのは、Helfgottという数学者だ。解決は、次の二つによって完成されている。第一は、10の27乗以上の奇数については、予想が正しいことを証明すること(こっちが重要な帰結である)。つまり、ヴィノグラードフとボロシチンの結果の改良である。第二は、8.875×(10の30乗)以下の奇数については、Helfgottともう一人Plattとで、コンピューター計算で確認済みであること。この二つによって、(論文が本当に正しいなら)、予想が完全解決されたことになる。

 では、第一のアプローチでは、いったいどういう方法論を使ったのか。

Helfgottは、フォン・マンゴルト関数Λ(n)を使っている。フォン・マンゴルト関数とは、素数を分析する上で非常に本質的な関数で、拙著『世界は素数でできている』にも何度も出て来る。拙著では、「x以下の素数の個数は、x÷log xで近似できる」という素数定理を、「チェビシェフ第2関数」を使って証明する概要を書いた。そのチェビシェフ第2関数も、フォン・マンゴルト関数で作られるのである。

フォン・マンゴルト関数とは、nが素数pのべき乗のときは、Λ(n)=log pを返し、そうでないときはΛ(n)=0を返す関数だ。Helfgottは、与えられた奇数Nに対し、足してNになる3整数x, y, zの全組み合わせに対して、Λ(x)Λ(y)Λ(z)を加え合わせた総和を評価する。実数の集合を整数の集合で割った商集合を台として、その総和を積分表現する。商集合は、0以上1以下の区間の始点と終点をつないで円のようにしたものなので、Circle Method(円理論)と呼んでいる。この円を二つの弧にわける。「大きな篩」という「篩法」を用いて、積分を評価し、第一の弧での積分値が正であることと、第二の弧でのそれも正であることと両方を示す。Λ(x)Λ(y)Λ(z)の総和が正であること示せれば、Nが「素数のべき乗」3つの和で表されることは明らかだが、たぶん、うまく評価すれば、その中に素数3個の和があることが示せるのだろう。

 しかし、本論の計算はすさまじくて、とても、片手間に追うことができない。だれか、「ざっくりした本質」の解説をしてくれないかなあ、と待望する。

さて、ダメ推しで申し訳ないが、フォン・マンゴルト関数(から作るチェビシェフ第2関数)の使い方のあれこれは、拙著

に、かなり簡明に解説してあるので、是非とも、この本で身近なものとして欲しいぞ。

これだけだと、息苦しいエントリーになってしまうので、少しだけ近況をば。

ここ数ヶ月は、ずっとアニメ物語シリーズ」を観ておった。そして、つい先日に放映された「終わり物語」も含め、全部を見終えた。いやあ、面白かった(ときどきつまらんのもあったが)。とにかく、全キャラがよく描けている。キャラ萌えをしたのは(この年になって)初めてのことだ。始まった「打ち上げ花火」も非常に楽しみである。岩井俊二さんの元作品も観たしね(あの作品の奧菜恵が神そのもの)。なるべく早いうちに観に行くつもり。

それと、音楽では相変わらず、Aimerにはまり続けている。ベスト盤「blanc」Noirも、今までの全アルバムを持っているのに購入してもうた。しかし、損はしなかった。おまけ曲が4曲入ってるのだけど、それが全部すばらしいからだ。普通のミュージシャンは、最初に先鋭的な曲を作って、売れるにしたがって聴きやすいポップな(大衆受け狙いの)曲に変わっていく。でも、Aimerは、その逆を行っているように見える。デビューの頃は、(いい曲だけど)比較的聴きやすい曲を歌ってて、でもアルバムを経るごとにだんだん先鋭的な曲になってきてるように思う。いいぞいいぞ。

Aimerのライブをどうしても観たくて、応募したけど、第一抽選にも第二次抽選にもはずれた。でも、やけっぱちで、一般売り出しの日に電話でトライしたら、なんと、手には入ってしまった(最後列の立ち見だけどね)。あと、10日で、彼女の歌が生で聴ける。めっちゃ楽しみであ〜る。翌日に、茨城県数学の先生方への講演があって、ライブ後にとことん飲めないのが残念だが。

2017-08-10

素数についての本が刊行されました!

15:01

 ぼくの新著『世界は素数でできている』角川新書が、ネット書店にも入荷され、リアル書店でも並んだようなので、もう一押し、販促をかけることとしよう。

前回のエントリー(もうすぐ、素数についての本が刊行されます! - hiroyukikojimaの日記)では目次をさらしたので、今回は序文をさらすことにする。以下である。

   『世界は素数でできている』 はじめに

 

 皆さんは、「素数」をご存じでしょうか?

 2、3、5、7、11、13、・・・と並んでいる数です。

 素数とは、「割り切れない」数です。どのくらい割り切れないかというと、1と自分自身以外では割り切れないのです。だから、ある意味では、うとましい数です。例えば、37個のチョコがあるとしましょう。このチョコを同数で分け合うためには、37人で1個ずつ分け合うか、あるいは、1人で全部食べるしかありません。37が素数だからです。まったく融通がききません。チョコの個数が36個であれば、たくさんの柔軟性が生まれます。2人でも3人でも4人でも6人でも、あるいは12人でも18人でも等分に分け合うことができるからです。

 また、素数は、「ままならない」数でもあります。素数たちは、整数の中で、非常に不規則に分布しています。どのくらい不規則かというと、数学者が2千年以上も研究しながら、いまだにその法則を捉えきることができないくらい不規則です。天才数学者も手に負えないぐらい「ままならない」のが素数なのです。

 だから素数は、「わくわくする」数です。数学者は言うまでもなく、一般の人をも惹きつける魅力を持っています。素数にハマる人が後を絶ちません。かくいう筆者もまた、素数にハマっている素数マニアの一人です。

 本書は、そんな素数について、総合的に解説した本です。本書の特徴を箇条書きにすると、次のようになります。素数に敬意を払って、素数で番号を振ってあります。決して、誤字・脱字ではないので勘違いしないでくださいね。

2. 素数のよもやま話をたっぷり盛り込んである

3. 素数の歴史を網羅している

5. 素数にハマった数学者の人生模様を描き出している

7. 素数ネット社会を結びつけるRSA暗号について、詳しく解説している

11. 素数と物理の関係にも触れている

13. 素数の未解決の予想について、最新の進展を投入している

17. 最難関の未解決問題リーマン予想について、わかりやすい解説をしている

19. 素数をめぐる最先端数学に入門できる

そう、これ一冊で、素数のすべて(というと言い過ぎなら、ほとんど)がわかってしまうというわけです。まことリーゾナブルな新書と言えましょう。

 今、このまえがきを立ち読みされているあなた。あなたも是非、本書で、めくるめく素数の世界を探索してください。そうすればあなたも、明日から素数マニアの仲間入りです!

 上記の箇条書きでおおよそ、本書の特徴は網羅できているのだが、もう少しだけ補足をしよう。

本書で苦心したのは、素数の法則をただそのまま紹介する」というタイプの本から、もう一歩踏み込む、ということだ。

ぼくが数学の啓蒙書を読むとき、いつも抱いたのは、次のような気持ちだ。すなわち、ある数学的な定理を紹介され、「ほうほう、これは大変面白い、不思議だ」と思ったあとに必ず、「どうして、こんなことが成り立つんだろう、どういう理屈だろう」という好奇心がわくのである。しかし、多くの啓蒙書はこういう好奇心には答えてくれない。

それはある意味、仕方ないことである。多くの数学の名定理は、証明が複雑で長いか、あるいは、非常に高度な概念を使うから、とても啓蒙書では紹介できないのだ。

でも、ぼくがこのとき欲しかったのは、「完全な証明」ではない。「完全な証明」を読むのは、労力の負担が大きく、大変な苦痛を強いられる。また、高度な概念を習得するには、とんでもない修行が必要で、(その道のプロを目指すのでなければ)そんな意欲は沸いてこない。知りたいの「完全な証明」ではなく、「それを成り立たせる秘訣のようなもの」「おおざっぱだけど本質にあたるもの」なのだ。

そこで本書では、紹介する素数の法則たちについて、できる限り、「それを成り立たせる秘訣のようなもの」「おおざっぱだけど本質にあたるもの」を記載することを試みた。それなら、プロの数学者でないぼくにも可能だ。

例えば、双子素数予想ゴールドバッハ予想については、「ブルンの篩」のおおざっぱな仕組みを書いた。最新の素因数分解法である、ポラードのp−1法、数体ふるい法、AKSアルゴリズムは、その原理を紹介した。また、「x以下の素数の個数は、近似的にx/log xに等しい」という「素数定理」に対しては、リーマンゼータ関数とチェビシェフ第2関数を使ったおおざっぱな証明の手筋を提示した。さらには、「フェルマーの小定理」「オイラーの定理」は、有限体を経由する証明を書いた。また、双子素数予想とか、奇数完全数など、最近に進展があった予想については、論文にあたって、そこからの引用を試みた。こんなふうに、少年期・青年期の自分ならきっと知りたいと思ったに違いないことについては、それを記載する努力をしたのである。だから、ぼくと同じタイプに違いないこのブログの読者にも、必ず貢献できると思う。

 とにかく、本書は、ぼくの素数愛が炸裂した本となっている。是非とも、手にとっていただきたい本だ。

2017-08-04

もうすぐ、素数についての本が刊行されます!

15:06

 新著の刊行まであと一週間に迫ったので、そろそろ宣伝し始めよう。

来週、刊行されるのは、拙著『世界は素数でできている』角川新書。タイトルでわかる通り、素数について解説した新書である。

今までも、素数に触れた本は何冊か書いたけど(『世界は2乗でできている』ブルーバックスとか、数学は世界をこう見る』PHP新書とか)、素数だけに絞った本は初めてだ。本書は、全編が素数の、素数づくしの本となっている。今回は、まず、目次立てをさらすことにする。

   『世界は素数でできている』目次

第一部 素数のふしぎ

第1章  世の中は素数でいっぱい

第2章  素数にハマった数学者たち

第3章  素数についてわかったこと・未解決なこと

第4章  素数の確率と自然対数

□第二部 素数が作る世界

第5章  RSA暗号はなぜ破られないのか

第6章  虚数素数

第7章  難攻不落! リーマン予想

第8章  素数の未来

多少の補足をしよう。

第1章は、「素数がいかに世の中に興味を持たれているか」について、ライトに書いた。ぼくが監修として関わったドラマ『相棒』ドラマ『電子の標的』の裏話にも触れている。

第2章は、ピタゴラスから、ラマヌジャンまで、素数にハマった数学者たちの歴史をたどっている。

第3章は、ウィルソンの定理とか、メルセンヌ素数について解説したあと、古典的な予想、例えば、双子素数予想とか、ゴールドバッハ予想とか、奇数完全数予想とかについて、できるだけ最新の結果を投入している。

第4章は、素数定理の確率解釈を説明した上、自然対数素数の関係について解説している。

第5章は、素数を使ったRSA暗号の仕組みを、できるだけわかりやすく説明し、安全素数についても数学的に解説している。

第6章は、複素数の中で素数を研究する、数体の理論を紹介する。その上で、他の啓蒙書にはほとんど扱われていない、コンピューターによる素因数分解「数体ふるい法」を紹介している。最後には、量子コンピューターの原理を述べ、それがRSA暗号を破る可能性について解説している。

第7章は、リーマンゼータ関数リーマン予想の総合的で初歩的な解説。他の啓蒙書よりは、わかりやすく書けたと(自分では)思う。

第8章は、素数を使った有限体の原理を説明し、最新の素数判定法AKSアルゴリズムを紹介している。クライマックスとして、有限体上の楕円曲線についてのハッセの定理を経由して、ラマヌジャンゼータ関数についてのリーマン予想に対して、その証明のアイデアを紹介してしめくくっている。

 いやあ、ほんとに素数づくしの本となったす。是非、書店で手にとってみてくださいな。

2017-07-24

おまけ目当てで買うべきガロア本

16:38

 7月は期末試験の準備と採点があって、なかなかブログを更新できない。そんな中だが、がんばって、数学書を一冊紹介しよう。それは、デュピュイ『ガロアガロア理論東京図書(辻雄一・訳、辻雄・解説)だ。とは言っても、この本を勧める理由は、デュピュイの書いた本体部分にはない。ガロアの実像については、加藤文元『ガロアー天才数学者の生涯』(中公新書)など、優れた最新の検証文献がある。わざわざ、古い本書を読む必然性は薄いと思う。本書を薦めるのは、全体の半分もの分量を占める「おまけ」部分がすばらしいから、なのだ。

 むかし、ビックリマン・チョコというのがあって、子どもがおまけのシール欲しさに買ってチョコを捨てる、ということが噂になって、社会問題化したことがあった。そのときは、「さすがに自分の幼少期は貧しかったから、買ったチョコを捨てはしなかった。でも、本心では、おまけが欲しくて買ってたよな」と思ったものだった。パラソルチョコレートとか、グリコ・キャラメルとか、鬼太郎チョコなど。そういうのと同じ意味で本書は、「おまけ目当て」で買うべき本、と言うべき画期的な本なのだ。

 おまけとして付いているのは、辻雄さんの「第2部 ガロア理論とその後の現代数学」。これは、ガロア理論の解説から始まって、「5次以上の方程式には、四則計算とべき根による解の公式はない」という定理の証明を経て、その後の数学の進化、すなわち、類体論楕円曲線の数論や保型形式などの数論幾何へと解説を進めるもの。19世紀ガロアから始まって、あれよあれよ、という間に、ワイルズのフェルマー予想解決まで到達する解説なのである。

 この辻さんの解説文を読んで、ぼくはとても嬉しかった。それは、拙著『天才ガロアの発想力』技術評論社と、辻さんの解説が似ている、と思えたからだ。こういうと、「東大教授であり、数論幾何の最前線の数学者と、お前は肩を並べているつもりか」と叱られてしまいそうだ。でも、二つの点で、ぼくはそう言える勇気を持っている。第一に、辻さんの解説の組み立て方、例の使い方、証明の入れ方、がぼくの本ととても似ていること。第二は、過去に、辻さんと某所で一定期間ご一緒し、何度も会話をさせていただいたことがあるので、そう言っても無礼にはあたらない、と思えることだ。辻さんと最初にお会いしたのは、彼が高校生の頃だったけど、当時からもう天才性を爆発させていた。にもかかわらず、(受験数学だけが得意な輩には典型的に見られるような)鼻持ちならなさや傲慢さが全くなかった。ぼくは、「こういう人こそが、将来、本物の数学者になるのだろう」と思ったものだった。そして、実際、その予感通りになった。それも嬉しいことの一つである。

 以下、辻さんの解説についてまとめるが、エンタティメント性を意識して、「ぼくの本との将棋対戦」のように展開していこう。流行の将棋ソフトの評価値みたいな感じで進める。(もちろん、単なる冗談だからね)。刊行順に、先手は拙著、後手は辻さんの本書とする。数値は、先手から見た評価値だ。

(第一・五分位まで)

群を多角形の重ね合わせで解説(2面体群)→2次方程式の解の公式を群から導く。

ここまでは、ほとんど拙著と同じ構成、同じ解説の仕方。先行している分、拙著の優勢(+300)

(第二・五分位まで)

3次方程式の解を添加した体の性質→ガロア群の構造が正三角形の2面体群→3次方程式の解の公式をガロア群から導く。

ここも、拙著とほぼ同じ構成。しかし、解を追加して体を拡大する解説や、解の公式を導く手筋は、拙著よりかなりエレガントで、その分、差を縮められ、互角となる(+170)

(第三・五分位まで)

ガロア群の説明ガロアの基本定理の解説。

具体例を用いてガロア理論の本質を理解してもらおう、という戦略は拙著と同じ。ただ、さすがプロの数学者、解説が簡潔にして的を射ている。ガロアの基本定理について、その「ココロ」を伝えることに集中し、厳密な証明をカットしているところも拙著と同じ。この辺の辻さんの解説の仕方を読むと、ぼくの方針が間違っていないことが確認でき、嬉しくなった。ガロアの基本定理で本質に思える「剰余群」については、辻さんは脚注で与えるのみとしている。「剰余群がわかりにくいだろう」という感触はぼくも共有している。だから、ぼくは丁寧に解説し、辻さんは脚注回しにした。ここは、拙著のほうが良いと(ぼくは)思う。したがって、先手・後手、双方がそれぞれポイントをあげたので、互角のまま(+80)。

(第四・五分位まで)

べき根拡大体のガロア群→クンマー理論→アーベル拡大体→5次方程式が可解でない証明

ここではもう、辻さんの書き方がポイントをあげ続ける。さすが、プロの数学者。それも単なる数学者ではなく、天才数学者だ。5次方程式が可解でない(四則計算とべき根だけでは解けない)ということに、一直線で、最短最良の解説をしている。ここに「クンマー理論」なるものを挟んでいるのがミソなのだ。これは、「原始n乗根を含む体Kのアーベル拡大が、Kの数のn乗根をいくつか加えることで得られる」というものだ。ぼくの本にも、本質的にはこれと同じことを書いたけど、こんなにエレガントには書けなかった。その上で、方程式が可解である、ということと、方程式の解を添加した体のガロア群に、ある性質を満たす正規部分群の列が存在することとが同値である、という定理を見せる。ここも、正直言って、辻さんの見事な差し回しにやられてしまった。なによりすごいのは、5次方程式ガロア群がS5のときそのような正規部分群の列が存在しない、という証明だ。とてもわかりやすい、エレガントな証明である。ぼくは、こんなみごとな証明を知らなかった。なので、拙著ではこの部分は省略してしまったのだ。そういうわけで、後手が圧倒的にポイントを稼ぎ、後手優勢(−800)

(第五・五分位まで)

類体論クロネッカーウェーバーの定理→フロベニウス写像代数整数論楕円曲線→等分点へのガロア群の作用→ガロア表現→虚数乗法論→保型形式→フェルマー予想

ぼくがのけぞり、(かぶってない帽子を)脱帽し、そして最も勉強となったのは、ここの部分である。これまで展開してきたガロア理論が、どのように現代の最前線の数学に進化していくかが、平明に語られる。正直言って、ガロア表現をここまで簡単に解説した本は見たことがない。というか、理解できるようになるのには相当な努力が必要だろうと戦々恐々だったガロア表現が、そんなに簡単なことだったのか、とため息が出た。

とにかく、この部分で重要なのは、「フロベニウス写像」というのを体得することができることだ。これは、「p乗する写像」のことなのだけど、いろいろな対象に同型を引き起こすので、非常に有力なアイテムだ。例えば、有限体上の楕円曲線ゼータ関数に関するリーマン予想(ヴェイユ予想)は、このフロベニウス写像を上手に使うことによって証明できる。どうもこの写像が、現代の数論のポイントなのだろうとはわかっていたけど、本書を読むことで、相当な天啓を得ることができた。

とにかく、この第五分位のパートを読むだけで、本書を読む御利益の相当部分が得られるのである。ここは、ぼくには逆立ちしたって書くことができず、最先端数学者の面目躍如である。なので、後手勝勢(−9999)。

 こんな風に本書は、とんでもない「おまけ」がついている商品なのだ。しかも、もれなく「金のくちばし」がついているようなお得な商品である。数学ファンなら、買わない手はない。読まない手はない。

 ぼくの希望として、辻さんに、本書のような筆致で、「おまけ」でなく、まるまる本体の、数論幾何の本を書いてほしい。是非、是非。