ホンのつまみぐい

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おすすめ絵本10冊

 横浜へそまがりという喫茶店で絵本紹介するイベントをやりました。(へそまがりのTさん、ありがとうございました)来場者ふたり(知り合い)だったんですが、喜んでいただけてほっとしました。その時のログです。

つきよのかいじゅう

つきよのかいじゅう

ナンセンスの「解釈から解放してくれる感覚」はほんとうに気持ちがいいです。世界が簡単に崩壊するし、メタモルフォーゼで簡単に再生するし。拾った棒を振り回してワーワー言うとか、砂のお城を作るたびに壊すのってすっごい楽しいとかそういう感覚を私たちはもっと大切にしてゆくべきなんだ。長新太が好きな方にはアニメ「アドベンチャータイム」や、漫画家杉浦茂もおすすめです。

だれのおうちかな?

だれのおうちかな?

建築物の内部を描いた絵本はたくさんあるのですが、私がもっともユーモアとセンスを感じるのはこの本です。リアルな動物たちが住む家屋は、本当にこんな家に住みたいと思うようなものから、ちょっぴり非現実的なものまでさまざま。それにしてもエロイーズさんの家、住みやすそうだし仕事しやすそう……。

あな (のうさぎのおはなしえほん (3))

あな (のうさぎのおはなしえほん (3))

「へんだなあ私のからっぽはこんなにべとべとしていないんだ」という言葉だけで大好きになった絵本です。しかも、からっぽとは何かを探るために穴を掘り、穴の中で静謐を味わう。穴を落とし穴にすることをたくらむ。落とし穴を隠すためにたくさん花々で飾る。なにもかも愉快です。
哲学と見せかけてナンセンスで、最後はほのぼのと終わるというバランスが最高です。
詩人の令子さんと、画家の健さんの夫婦合作。

日本ではファンシーグッズのキャラクター「ミッフィー」としても人気のうさこちゃん。幼児向けの簡単な内容のものばかりと思われがちですが、美術館に行く話や、祖母のお葬式の話など、そのテーマは多岐にわたります。
本作はうさこちゃんがキャラメルを万引きしてしまう話。普段は上品な色彩で塗られる背景が本作では白で統一され、うさこちゃんの表情もどこか不安げです。

だってだってのおばあさん

だってだってのおばあさん

100万回生きたねこ、シズコさん、おぼえていろよおおきな木など、佐野洋子の作品には歳月を重ねることの意味を問う作品が少なくありません。だってだってのおばあさんは、おばあさんの中にある少女性を描いた作品。ふんわり柔らかい筆致がとても文章に合っています。

才人がその才を活かして閉塞化したコミュニティの問題を解決する。レオ・レオニの話はだいたいこれです。肌の色が違う魚が知恵で敵を追い払い、共同体に帰還するスイミー。逆「ありときりぎりす」とも言えるフレデリック。旅先で知った習慣が仲間に伝搬していく「コーネリアス」などなど。本作は、ひょんなことから音楽を見つけだしたねずみが、それを仲間たちに伝えていく話。意外な方法で音楽が生まれていく様子が面白いです。

ミミズのふしぎ (ふしぎいっぱい写真絵本 (3))

ミミズのふしぎ (ふしぎいっぱい写真絵本 (3))

ミミズの体毛、ミミズの交尾、ミミズの出産……。こんなにでかい写真でミミズの生き様を見られるのはこの本だけ!子供向け絵本だからこそ出来るゴージャスなビジュアルが感動的です。身近な生きものなのに、知る機会の少ないミミズが親しみを感じる存在になります。

正しい暮し方読本

正しい暮し方読本

ちょっぴりシニカルなテキストと、デザイナー五味太郎の甘すぎず辛すぎずの絵が噛み合った不思議な絵本。「正しさは人の数だけある」ということを実感する絵本です。「呑み屋でこういうこと言う面倒なおっさんいるわー!」という感想もきっと正しい。

春の主役 桜 (絵本〈気になる日本の木〉シリーズ)

春の主役 桜 (絵本〈気になる日本の木〉シリーズ)

物語を通じて科学への知見を育てる絵本は珍しくないですが、これは桜という植物のどこか呪術的な雰囲気と、案内役の天狗がとてもマッチしています。早川司寿乃さんの落雁のような絵が、上品な華やかさを作り出しています。

かつて横浜の川や港には、ハシケと呼ばれる小舟の中で生活していた人たちがいました。港町横浜を支えた労働者の子供と、河童の交流を描いた絵本。コーヒー屋のオープンをもくろんだり、デパート(今は亡き伊勢佐木町松坂屋らしい)に出かけたりというハイカラな生活描写と郷愁を感じさせる風景のバランスがとても魅力的です。

*イベントとしてはいくつもの反省がありますが、やはり告知をマメにすることと、最初からイベントの概要がイメージできるようにしていく努力が大切だなと思いました。次にやるならパンクだった頃の「おおきなポケット」特集、「たくさんのふしぎ」傑作選、科学の絵本傑作選、怪談本傑作選とかやりたいですね……。

最近読んだ本「オズマガジン横浜」「因果鉄道の夜」「『東洋の魔女』論」「タモリ伝」

オズマガジン

オズマガジン

 ふだんは見ても買わないオズマガジンですが、よくお邪魔したり、仕事でお世話になったりしている方々がけっこう出ているので買ってしまいました。

 古本屋店主に街の隠れた名所を案内してもらうというページが面白かった。登場する古書店主さん3名はみな店を構えてから5年も立っていない若い店主さん。案内する施設や店舗も、いい意味で若々しくてこだわりを感じさせるお店が多かったです。「若手の古本屋ってあんまりしがらみなさそうだから選ばれたんだろうな……」などと勘ぐったり。山元町・石川町という、普段あまり紹介されない地域が出てきたのもよかったです。
 

「東洋の魔女」論 (イースト新書)

「東洋の魔女」論 (イースト新書)

 東京オリンピック前に読めてよかった。以前カヤックのコットンさんが開いていた、アイドル研究会イベントで紹介された本。

 「商店街はなぜ滅びるのか」の新雅史・著。

 工場労働によって「余暇」という概念が生まれ、工場労働に疲れた人間たちの健康的な解放のためにスポーツが利用されていたという19世紀終わりの話からはじまります。レクリエーションという概念の定着と発達についてが前半。表題にある「東洋の魔女」の話は後半から始まります。

 後半の日紡貝塚のしごきの話がすさまじく、生理が起きても無理矢理練習させる、仕事は一般工員とまったく同じやらせておいて夜中まで練習させるなどなどブラックなエピソード満載。

 中卒の女工の子が、高校のチームに勝って「女工に負けて悔しいか」というところなど、なかなか生々しいものがあります。

 日本の工場労働において、スポーツが「効率よく社内の団結心を高めるための道具」として扱われていたのがよくわかりました。

 オリンピックで金メダルを取った選手達のその後の選択肢が、「主婦になること」だけだったことに、時代を感じてもの悲しい気持ちになります。

 今までバレーボールに対して、「運動神経がよくないと楽しめない競技なのに、なんであんなに普及しているんだ!」という気持ちを強く持っていたのですが、納得。大人数が参加でき、あまり場所を取らないために、工場内で出来るからだったのですね。

因果鉄道の旅―根本敬の人間紀行 (ワニの本)

因果鉄道の旅―根本敬の人間紀行 (ワニの本)

 再読。改めて読んでも刺激的だなと思う一方、「貧困」や「発達障害」による歪みを笑う部分はもう面白がれませんね……。文庫になってますが、根本敬の絵を引き立たせる呪術的な雰囲気の装丁の単行本をおすすめします。

 森田一義タモリになり、「笑っていいとも!」が終了するまでを時系列に書いた伝記的構成。シンプルな内容ですが、とことんまで関係者インタビューや資料を読み込んだ跡があり、読み応えあります。

 タモリに関して、「昔はけっこう過激なこともやる人だったのに、今じゃ『いいとも』の人のいいおじさんになっちゃったね」という声を聞くことがあり、だとしたら、「どういう過程でそうなったのだろう。そして、本人はそれをどう思っているのだろう」と思うことがあったのですが、その道筋が本書で何となく見えた気がしました。

 タモリは関連書多いので、読み比べると楽しそうですね。