ヤング≒アダルト



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ヤング・アダルト(若者向け)小説のゴーストライター、37歳のメイヴィス(シャーリーズ・セロン)は、毎晩飲んだくれ、その場限りの男との関係を結ぶなど、荒れた私生活を送っていた。一時はベストセラーだったシリーズも打ち切りが決まり、今後の予定は立たないまま。公私共にどん詰まりな彼女の元に、高校時代の恋人バディ(パトリック・ウィルソン)から赤ん坊の誕生パーティ招待状が届く。意を決したメイヴィスは長年ご無沙汰だった田舎町の故郷に戻る。バディは運命の人であり、自分と結ばれなくてはならないと思い込んだ彼女は、何とかバディを振り向かせようとするが。


映画を観ながら「ジコチュー」「タカビー」といった軽薄な言い回しが脳裏に浮かんで仕方ありませんでした。文字通りメイヴィスは、「ジコチュー」「タカビー」が服を着て歩いているような女なのです。監督は『サンキュー・スモーキング』『JUNO/ジュノ』『マイレージ、マイライフ』と、デヴューから快作を連打しているジェイソン・ライトマン。映画監督としては父のアイヴァン・ライトマン(『ゴーストバスターズ』等。『デーヴ』は良かった)よりも才能豊かなのは明らかですが、作品を重ねる毎に段々と笑いが少なくなって来ました。本作は前作の『マイレージ、マイライフ』よりも、さらに辛らつで痛い映画になっています。


メイヴィスは目の下は隈、肌は私生活同様に荒れていますが、喋ればあけすけ、厚塗りメイクで完全武装する場面も含めて、赤裸々で身も蓋も無い主人公の言動が面白い。彼女自身は高校時代の女王様気分が抜けず、故郷に戻っても不動産関係の仕事で多忙だと言い張りますが、会う人会う人、皆彼女がゴーストライターだと知っています。本人だけが嘘がばれていると気付いていないのです。こんなヒロインですが、『JUNO/ジュノ』でもライトマンと組んでいた脚本家ディアブロ・コディの、これも同性に向ける目線なのでしょう。そして、いやぁ、やるなぁ、シャーリーズも。美女が痛い女を演じる事で、さらに痛くなっていました。


コディの脚本は人物像が鮮やか。特に主人公と、彼女のグチ相手となる元同窓生マット(パットン・オズワルド)の造形が面白い。マットは高校のときにホモ疑惑をかけられ、悪ガキどもの襲撃を受け、松葉杖が無ければ歩けず、ペニスもダメージを受けた障害者となっていて、フィギュアの色塗りと密造酒製造に熱心なデブのオタクという設定。2人の共通点は、それぞれ過去の囚われ人である事。メイヴィスは注目を浴びていた華やかな高校時代から成長せず。マットは卑屈な高校時代から変わっていません。その2人が奇妙な友情らしきものを積み上げていくのも面白い。ここには、作者のはぐれ者への共感や感傷はありません。乾いた笑いがあるものの、突き放してはいない。この距離感が映画を嫌味の無いものにしています。


ここまで己の情けなさに無自覚、他人の感情などに興味のない女性を主人公にしたのも珍しい。彼女はきっと「変わらない」し、「変われない」でしょう。同時に、メイヴィスはしぶとく打たれ強い。自分の脳内で作り上げた帝国と世間からの視線のギャップなど気にもせず、ブルドーザーのように道なき道を切り開いて行くであろう頼もしさに溢れています。ここまで徹底していると、善悪好嫌を突き抜けて、彼女に声援を送ってしまうではないですか。


ヤング≒アダルト
Young Adult

  • 2011年 / アメリカ / カラー / 94分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫:G
  • MPAA (USA):Rated R for language and some sexual content.
  • 劇場公開日:2012.2.25.
  • 鑑賞日時:2012.3.2.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜2/デジタル上映。公開1週目の金曜23時40分からの回、観客は私を含めて2人のみと寂しいもの。
  • 公式サイト:http://www.young-adult.jp/

作品情報、予告編、ブルーレイ&DVD紹介、ヤング≒アダルト度チェック!等。

ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1960年代初頭、人種差別が根強くあるアメリカ南部のミシシッピ州ジャクソン。大卒直後で育ちが良く、黒人メイドに育てられた白人のスキーター(エマ・ストーン)は、地元新聞社で家事のコラム担当になった。ヴェテランメイドのエイビリーン(ヴィオラ・デイヴィス)の話を聞き、また親友らの露骨な差別意識を目の当たりにした彼女は、メイド達の声を1冊の本にまとめようとする。だがそんな事をしてばれたら殺されると、メイド達は協力を拒否。しかし少しずつ彼女たちの心情にも変化が起こり始める。


身体にあった、でもゆったりした上質のジャケットを着たかのような、観ていて幸せになる映画。人種差別の歴史を考えると甘いという批判はありましょう。それでも私はこの映画を断固支持します。要所は切迫感も描かれていたし、私はこれはこれでありだと思いました。単なる甘い砂糖菓子のような人情ドラマではありません。主眼は厳しい立場にあった女性達が、男どもに頼る事など全く無しに結託し、声を上げて立つ姿です。それを力み無く、しかし喉越しだけ良ければというのではなく、細部にまで考え抜いて作られています。優れた群像劇にあるように人物の画き分けも良かった。女優陣達の自意識過剰とは縁遠い連携プレイが素晴らしい。


今気になるスターの1人エマ・ストーンも良いし、ブライス・ダラス・ハワードジェシカ・チャステインという、まさかのそっくりさん同士も印象に残ります。ブライス・ダラス・ハワードの嬉々としたビッチ振り。ジェシカ・チャステインの、物語が進むに連れて実は深かったと判明する役も見ものです。ジェシカ、君は映画に出る度に全く別人だよ!この先日に観た『テイク・シェルター』ともそうでしたし。若くて勢いのある役者を観るのは楽しいです。一方で久々にお見かけしたシシー・スペイシクも元気でした。


鈍感な私は終盤になってそれに気付きましたが、これは実質ヴィオラ・デイヴィスが主役の映画でもありました。彼女は本当に素晴らしい。アカデミー賞はハリウッドの祭りだから結果にとやかく言うつもりはありませんが、少なくともマーガレット・サッチャーのそっくりさん振りに感心しただけのメリル・ストリープより、ヴィオラ・デイヴィスの方が私の心に届く演技でした。彼女こそがこの映画の屋台骨、良心、気骨、優しさ、哀しみを体現しています。


監督のテイト・テイラーは昨年観た佳作『ウィンターズ・ボーン』にも俳優として出ていたらしいのですが、まるで記憶にありません。でも正統派ハリウッド映画の伝統に沿ったかのような、ゆったりとして品が良いだけでなく、ユーモラスで暖かな目線には好感を持ちました。トーマス・ニューマンの音楽も地味だけど良かった。2時間半近くあれども、最後まで引き込まれる映画でした。一見の価値のある、お勧めの映画です。


ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜
The Help

  • 2011年 / アメリカ、インド、アラブ首長国連合 / カラー / 137分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫:G
  • MPAA (USA):Rated PG-13 for thematic material.
  • 劇場公開日:2012.3.31.
  • 鑑賞日時:2012.4.14.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜11/TOHOシネマズデイで1人千円だからか、土曜21時15分からのデジタル上映のレイトショウは、125席の半分が入る入り。
  • 公式サイト:http://disney-studio.jp/movies/help/ 予告編、ブルーレイ&DVD紹介のみ。

ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

主人公は、手作りケーキ店の経営に失敗し、恋人に去られ、ハンサムだけど最低な性格のセフレ(ジョン・ハム)がいて、ルームシェアも追い出されそうな、どん詰まり30代アニー(クリステン・ウィグ)。ある日彼女は、長年の親友リリアン(マーヤ・ルドルフ)の結婚式のメイド・オブ・オナー(花嫁介添人のまとめ役)を頼まれる。張り切るものの、他のブライズメイズも一癖も二癖もあって空回りし、やがてリリアンとの仲にも亀裂が入り始める。


邦題が『ブライドメイド』とならず、ちゃんと原題通りに複数形になっているところが、配給会社東京テアトルの意地を感じさせますね。『セックス・アンド・シティ』と比較される映画だけど、私はあちらは全くの未見です。脚本は主役のクリステン・ウィグとアニー・ムモーロと女性2人によるものですがが、兎に角凄い。何が凄いって、台詞も汚いエロネタ、ゲロ、スカトロと超の付くお下劣映画で、私が観た回では途中で怒って退場した壮年カップルも居ました。これは身も蓋も無い映画そのもの。が、実は真っ当な友情物語にまとめあげられていた大笑いコメディ映画でもあるのです。上映時間が125分もあるのでもう少し尺を切れそうなのですが、これは各コメディエンヌ達の身体を張った芸を楽しもうと思えば良いのかな。全体の構成にムラがあるとか気になる点はあるものの、ここまで吹っ切れた「女性」コメディ映画は初めて観ました。でも男性である私にも十分楽しめ、笑え、共感出来たのも、スタンダードな娯楽映画、ドラマ映画のフォーマットに則っていたからです。ヒロインが堕ちるところまで堕ちても、最後に這い上がって行く構成は、段取りも含めて案外古典的な作りなのです。


映画を観て、終幕に台詞の力に頼るのは古典的アメリカ映画だな、と思いました。アメリカ人は言葉の力を信じている、と。同時に、アメリカ人が政治をまだ信じているのは、政治は「言葉」だからでしょう。それと共通しているのかも知れませんね。それは多民族国家において、英語という共通言語を持っているから、言葉を信じるという精神的土台があるからなのではないでしょうか。日本映画だと、このようにクライマクスを言葉で盛り上げる場合が少ないように思いました。これも国民性とひとくくりにして良いのか迷いますが、興味深い点です。


このクライマクスで場面をさらうのは、デブでチビで言動がアブないミーガン役のメリッサ・マッカーシー。お下劣も引き受ける度胸もありますが、彼女は可笑しかった。この映画では、オリジナル脚本賞と彼女のアカデミー賞助演女優賞の候補になっており、普段はアカデミーに対して斜めに見てしまう私も、なかなかやるじゃないか、と思ったのでした。


ブライズメイズ』のような映画を観ると、やはりコメディは劇場で観るものだと思います。大勢で笑えるのは楽しい経験になりますから。これは是非、観るときは1人ではなく何人かで楽しんでもらいたい。但し、特に前半がお下劣過ぎてドン引きする方もいらっしゃるでしょうが。


お勧めのコメディ映画です。


ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン
Bridesmaids

  • 2011年 / アメリカ / カラー / 125分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫:R15+(刺激の強い性愛描写、性的台詞並びに罵倒語の使用がみられ、標記区分に指定します。)
  • MPAA (USA):Rated R for some strong sexuality, and language throughout.
  • 劇場公開日:2012.4.28.
  • 鑑賞日時:2012.5.1.
  • 劇場:ヒューマントラスト渋谷1/映画の日である平日水曜日11時45分からの回、200席の劇場は6割以上の入り。
  • 公式サイト:http://bridesmaidsmovie.jp/ 予告編、作品情報、公式Facebookへのリンクなど。