「イヤホンは嫌だよ」 泣き腫らしたらしい顔の彼女の力強い宣言を、わたしは全面的に肯定した。 同じ大学に通う友人である彼女は、付き合ってはくれないが部屋に呼ぶ男と不毛な関係を続けていた。 冒頭のセリフに至る話はこうだ。もうすぐ彼女の誕生日であることを知った男は、プレゼントをあげようかと言ってきた。彼女は喜んだが、続く言葉は「イヤホンはどう?」だったという。 「そうではないじゃん」と彼女は主張する。 「確かに音のいいイヤホンがあったらうれしいよ。欲しいと言ったこともあったかもしれない。でもそうじゃないじゃん。今の私はあいつと、どこかに出かけたり、一緒に何かをしたりして、そういう記憶を思い出せる約束…