不思議なものだ。 日本で過ごしていた頃は油絵を長く観ていると陶酔よりもくどさ(・・・)を感じ、濃厚すぎる色彩に胸がむかつくばりであった。 ところがひとたび海外に出て、獣肉を常食にしてみたならばどうだろう。 かつてあれほど不快に感じた油絵が、まったくしつこく迫らない。水彩画同様、なだらかな心地で受け止められる。容易ならぬ変化であった。食生活とは、美的センスの上にまで影響するものなのか。仮名垣魯文が明治五年にしたためた、 「人生健康ならざれば報国の志よわく、年歯長生ならざれば勉励の業強からず。健と寿の二つを保つや所謂命は食にあり」 『西洋料理通』序文に於ける一節を想起せずにはいられない。日本でもし…