ご恩を受けた姐さんに、お眼にかけるも面目ねえが、これがしがねえ駒形の、一本刀ぁ、土俵入りでござんすぅ。 長谷川伸を象徴する傑作は『瞼の母』だろうが、私は第二の代表作『一本刀土俵入』が好きだ。 水戸街道は取手宿(茨城県)、つい眼と鼻の利根の渡しから船に乗れば下総の国(千葉県)である。茶屋旅籠(ちゃやはたご:料理屋で旅館で、つまりいろんなことをする所)安孫子屋の店前。昼飯時が過ぎ、夜の賑いまでののんびりタイム。板前や女中も表に出て、談笑したり一服つけたりしている。ただ二階の障子が閉じてあるところを観ると、昼日なかから、シンネコで一杯という客でもあるらしい。 花道の奥からなにやら騒ぎ声。野次馬のガヤ…